神谷 真士
2010.02.25

「芝居と生きる、芝居を生きる」
神谷 真士 - 俳優
3年B組16番加藤康祐、3年B組17番神谷真士。中学のクラスメイトで、出席番号が並びだった神谷君と再会したのは社会人になってからでした。話を聞いてビックリ。「脱サラして舞台俳優をしている」とおっしゃる。ある意味、僕とはフリーランサー仲間でもありまして、僕は勝手に運命共同体だと思っています。あれから数年、お互い三十路を迎えた傭兵に、洋食ランチを楽しみながら、ゆっくり話を聞いてきました。
会社を辞めて、俳優になる
【加藤】 神谷ってさ、芸歴何年目になるの?
うーん、難しいところだね、どこから数えるかで。高校の時からなんだけど、実際は会社辞めて始めたのが25歳だからまあ5年。
【加藤】 ああ、僕と一緒なんだよね。僕も25歳でET始めたから。ある時突然、「俺もうやらない」と思ったわけ?「芝居がやりたい」と思っちゃったの?
2年目だね、宮崎行く前の東京で働いてた時。入社して2年目で人事面談とかしてさ、ある程度落ち着いたところで10年後のキャリアビジョンとか改めて真剣に考えるわけだけど、3年目からの行動というのでその会社での生き方が大抵決まっちゃうって感じで。会社によって違うんだろうけどね。
【加藤】 そこで会社でどうやって行くかじゃなくて、やめるって選択肢を選んだんだ。カッコいい。
ははは、アホなだけだよ。
【加藤】 でもそうか、10年後の自分を考えた時に、その会社での10年後の自分をイメージできなかったら、という話にもなるのかね。周囲の反対とかなかった?
いやあ、勿論スゴイあったなあ。特に親はねえ。それこそ、「縁を切って、二度と敷居をまたぐな」くらいのノリで。
【加藤】 それくらい言わないと思いとどまらないと思ったのかもね。
逆にそれでひるんで、じゃあやっぱり会社残ります、とか言ってるくらいじゃ、出てもやっていけないだろうし。
【加藤】 覚悟だ。
ただまあたしかに自分の中でも2年でというのは若干焦っている印象はあったので、まあ3年間働こうかなっていうのも一方であって。一回新国立の舞台のオーディションを受けたのね。
【加藤】 それは社会人をやりながら?
なかなかやっぱり劇団いても、どうしても平日働かなきゃいけないとか、オーディションとかも全く受けられなくて、歯痒い思いをしてたんだけれども、一回だけ新国立のオーディションを受けて、それが随分先の舞台だったから、特別に受けさせてもらって。それもまた結構アカデミックな奴でさ。
カフカの『城』を読んで、それでレポートを何千字書きなさい、それがオーディション、ていうか試験だね。とりあえずそれで落ちたら、一回諦めようかと。
【加藤】 じゃあ自分で一度試金石を置いたんだ。
そうそう、それは上司にも言って、でまあ、さっくりと落ちて、「じゃあ僕はもうこの会社に骨を埋めます」、みたいなことを一応は言って、で会社としても一回頭冷やしてこいみたいな感じで。最後の出張の時に上司に「どこ行きたい?」って聞かれて、長々と話をして、どうせだったら今までとぜんぜん違う環境のところに行きたいなあと思って、「じゃあ暖かいところで」って行った先が宮崎だったと。大阪とか行くと業務的にも大変で、週末は芝居やりたかったしね。
【加藤】 なんか会社行って、これ違うってバッと切れて、演劇始めたってわけじゃなくて、ずっと演劇との付き合いはあって、どこかのタイミングでここからは本腰を入れましょうみたいな感じだったんだ。ずっと離れてたわけじゃなくて。
学生時代は本腰入れてやってなかったんだよね。
【加藤】 体育会だものね。
部活メインで、勉強は三番手で、その間に芝居みたいな。
【加藤】 それさ、サブからメインに切り替えるって判断はどんな風にしたの?
それはね、切り替えようと思ったわけではなくて、勝手に切り替わっちゃったんだよね。最初は1年目仕事でしんどくて、週末も余裕なかったけど、2年目になって若干落ち着いて、走ったりスポーツもいいけど、せっかくだから頭が切り替わるようなことやりたいな、と思って。スポーツはスポーツで汗流せばいいんだけど、僕がやってたのは個人競技だから、皆で違うコミュニティでと考えると、普段閉塞的な社会にいるから。それで地元の劇団を探して、たまたま入ったのが最初のところで。家から歩いていけるところにあったんだよね。
【加藤】 週末俳優みたいな。でも、どこかのタイミングでこっちで食べて行こうと思ったわけでしょ?
なんかねえ、だんだんだんだん思いが強くなって来て、一緒にやって来た同期が外で舞台やったりとかするようになるとねえ。
昔、相撲で舞の海が活躍しているのを見て、俺も負けてらんねえって言って教師辞めて力士になった人がいて、智ノ花だったかな。そういうのに近い感覚だと思う。
【加藤】 そうかそうか、何かスゴイ偉い人に憧れてっていうよりは、左右の人たちに触発された感じだね。
何で俺こんなところでみたいな。
芝居の話
【加藤】 なんか俺、神谷の芝居ってオペラに一回行ったきりなんだけど、あれは面白かったです。
ありがとうございます。いやあでも喋ってもいないのにねえ。
【加藤】 団体競技だから当たり前なのかも知れないけど、神谷を観に行こうと思って行っても、神谷だけ観るってことはできないよね、芝居として観ざるを得ない、その辺がまた楽しいんだろうと思うんだけれども。今多いのはミュージカル?
ミュージカルは軸には置いているんだけど、本数的に多いのはオペラの方が多いかな。
【加藤】 オペラは歌ったりもするの?
歌ったりもする。
【加藤】 演劇でも古典を扱うようなものが多い?ミュージカルだったら現代劇も多いか。
どっちかっていうと、確かに古典の方が好きかな。お芝居とかもね、音楽はこの年代がいいっていうみたいなのが、劇作家でもあるんだよね。最近の劇作家も好きな人いるんだけど。
【加藤】 なんか僕はあんまり神谷がネガティブな芝居やってるイメージがないんだよね。なんか明るい芝居をやってそう。
結構ねえ、評価を受けるのは、激した芝居って奴なんだよね。感情がピークになっているみたいな、その方がやりやすいって言えばやりやすいんだけど、涙涙みたいなのとか、そういう方がやった時の評価は高い、シリアス系の悲劇とか。
【加藤】 そりゃまた観に行かないと駄目だね!
最近ちょっと芝居離れちゃってるから、やらないとねえ。稽古は続けてるんだけど、公演を打ってるのがしばらくないので。
働き方としての傭兵
【加藤】 面白いよね、傭兵みたいな仕事だよね。僕とかも傭兵なんだけど。
世間一般ではそういうのは安定してないと思われてて、たしかにそれで胃が痛くなるときはあるんだけど、自分の生き方としてはあってるのかなという感じはする。
【加藤】 それが当たり前だと思えちゃえばできるものだよね。
なんか仕事してるって感じするもんね。会社にいた時ってほんとダメダメな仕事してたりとかさ、失敗して会社に大打撃を与えた時とかでも給料貰えてるわけでしょ?それってどうなんだろう?って気がしてくるじゃん。
【加藤】 まあ俺と違って一回それを経験してるから強いんだろうな。
綺麗事は言ってられないんだけどね。食べてかなきゃいけないから。
【加藤】 僕の仕事とかだと例えば月額の固定費用がいくばくかあって、それで仕事の安定性を担保してたりもするんだけど、神谷の仕事とかだとどうなんだろう?
そういうのないね。教える、っていう感じかな。そのうち弟子を取れるようにはしないととは思うんだけど。
【加藤】 そうそう俳優のキャリアプランみたいなのって、なかなか一般人には想像できないというか。売れる、有名になる、みたいなのはまだわかるんだけど。まあでも、神谷がやっている世界というのはそれともまた違うのかなという気もしていて。プレイヤーはいつまでもプレイヤーなのか、それとも何かのタイミングでマネージャーに回るのか、それともプレイングマネージャーなのか、みたいな。
→ここでオーディション通過の電話が!!!
【加藤】 おめでとうございます!
ありがとうございます!よかったー!
【加藤】 審査が通過したかどうかって電話でくるんだ。
そー、事務所に一括で。
【加藤】 でも大変だね、1年に1回は合格発表を待つ感じだ。
いや年に数回は。なるべく受けるようにはしてるんだけど、俺少ない方かな。
【加藤】 強い心臓が育つね!
いやあ、昨日それで眠れなかったからね。ドキドキしちゃってね。発表明日までだよなあと思って。何万人受けてるからね。
【加藤】 何万人も受けてるんだ。日本で職業で芝居やってる人って何万人もいるんだ。
本業を別に持ってて、って人も受けてるし、そういう人も多いよ。芝居だけでって人は何万人もいないと思う。例えばオペラで言っても、加藤が観たような大きなオペラのメインキャストをやっているような人でも、その出演料だけでは無理。それでハクがついて、どこかの音大の教授になったりとかして、そこで教えて、とか。
【加藤】 それはわからない話ではないよね。あまりにも刹那的だものね芝居。1年契約とか。
うん、だから皆色々うまくやって、という感じ。
【加藤】 でも好きだから続けたいから、本業じゃないけどメインフィールドではやりたいことやって、でも食べていかなきゃならないから、サブフィールドも持って、みたいなことか。
そうそう。
芝居の流通
【加藤】 今後興行ビジネスって今後どうなっていくんだろうと思っちゃうよね。
そうだね、日本の場合は特に、国の支援が少ないから。海外なんかだともっと文化を大事にして保護していこうっていう考え方があるんだけど。今日の日経のコラム見ても、みなとみらいの開発の話がちょっと出てて、当時の道路局の人がすごい怒られたんだって。地中に道路を埋めて、地上は公園にしましょうみたいな計画だったんだけど、「景観なんて二の次だ、利便性利便性」みたいな話をされたそうで。コストもかかるし。なんとか今の形になったみたいなんだけど、ああいう綺麗な横浜が出来上がったのも、それがなかったらと思うわけだよね。景観に対する理解というかね。
【加藤】 結局お金を使う人が当事者ではないから、有効な使い方って、開発だったら地域の人、演劇だったら芝居している人、じゃないと絶対わからないはずなんだよね。だけどお役所の人が叱られないお金の使い方を決めちゃうという。
新国立劇場も仕訳対象になってて、激震走ってたんだよね。バッサリいかれるんじゃないかという。最終的には3%カットくらいにおさまったはずなんだけど、ジリ貧ではあるよね。。。
【加藤】 箱が無くなっちゃったら、演じ手がいてもねえ。
政府系の補助と企業からの補助というのが大きくて、チケット収入だけでは本当に成り立たないビジネスなんだよね。
【加藤】 でも企業も厳しいでしょう?こういう時代だと。
去年、俺も直前に外れざるを得なかったことあったし。スポンサーが降りたから。協賛が出なくなったので、ごめんなさい。
【加藤】 そうすると商売としてどこに信頼が置けるかというと、スポンサーよりチケット代なんだろうけど、じゃあそれを安定的に売り切れるのか、しかも高い値段でということになると難しいねえ。音楽とかだとCDの売上じゃなくライブとグッズで収益を出しているマドンナの例とか、こないだポッドキャストでスタジオジブリの鈴木プロデューサーが10分間の無声映画をインターネットで無料配信しようかみたいな話をGoogleの辻野社長としていたよ。
YouTubeだと一気に世界に広がるものね。広告にもなるというか。
【加藤】 無声映画だから、言語関係ないしね。とか思うと神谷がやっているようなことにも、そういうネット的なこととか使えないのかと考えたんだけど、結構難しそうだなという感じもしていて、コンテンツにパッケージするのが難しいものだという感じがするよね。薔薇の騎士を観てきた感覚を、何かの形で流通させようと思うと、やはりあの場所にいないとなかなか厳しいなという。
映像との一番の違いって、舞台って空間芸術だから。勿論、見た目は大事なんだけど、それによって場の空気を、色を変える、っていうところに一番の面白みがあるから、やっぱり生なんだよね。
ライブ感が3Dのテレビが出来たからと言って伝わるわけじゃないじゃない。だから割りきってここまでは生だし、ここから先はメディアと結びつけることもできるかなというようなことが必要だと思っていて、例えば音楽なんかは切り出せるかと思って、ここ2年間くらいは強化しているのだけれど。
【加藤】 流通させる形にするって、結局箱におさまる人としか接点が持てないというか、毎回満員になってくれればそれに越したこともないんだろうけど、ファンの裾野を広げるみたいなことのためには必要だよね。ああでも演劇とか色々あるだろうから、映像撮ってYouTubeにアップするみたいなこともできないのか。
演劇は確かに難しいねえ。自分で書いちゃえばいいんだけど。その点、歌のほうが楽かなあとは思うよね。大体、権利の無くなったものを歌っているわけだから、クラシックなんか大体そうだし。
【加藤】 そう言えばこないだ誰かの歌手のライブをUstreamでライブ中継してたよ。昔からストリーミングってインターネットでもかなりリッチコンテンツで、ストリーミングサーバってリアルタイムで動画配信するための専用サーバが必要だったんだけど、Ustream使うと無料でできちゃうんだよね。でかいオペラとか無理かも知れないけど、神谷が仕切っている芝居とかあったら面白いかも知れないよ。
本当に?今度試してみようかな。来月、レ・ミゼラブルのコンサートやるんだよね。今、本当に豆まきだからさ。なるべく人を入れた方がいいというか。
【加藤】 きっと芝居のところは真面目にコツコツと好きなようにやるしかないんだから、仕掛け的なところで面白いこと出来るといいね。
そう。地道にやらなきゃいけない部分と、ダイナミックに展開して行かなきゃいけない部分と。つくづく、そのブランドビジネス的なところがあるなあと思っていて、個人の名前が売れちゃえば色々なことができるんだろうけど、ただ、昔みたいに閉鎖的なテレビ業界、映画業界って感じでもないから、逆に今チャンスだよね、個人で情報発信できるツールが出てきてて。
【加藤】 是非なんかやる時にはご相談いただければ!
→神谷君が出演するオペラ『歌劇 ラ・ボエーム』が2010年3月27日、28日、神奈川県民ホールにて上演されます。興味がおありの方は是非お出かけください!イタリア語上演、日本語字幕付きのプッチーニ作曲によるイタリアオペラの名作です!どうぞお見逃しなく!
神谷 真士。東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。高校在学中から映像・舞台作品に多数出演、現在はオペラやミュージカル等の舞台作品を中心に活動している。
主な出演作品は、『DEAR』主演、『カルメン』、『プレゼント』キャンサー役、『クリスマスプレゼント』、『僕の東京日記』、『外套』ティンカ役、『ばらの騎士』レオポルト役(びわ湖・神奈川)、『スタートライン』主演、『ジャンニ・スキッキ』公証人役、『白雪姫』王子役、『薔薇の騎士』レオポルト役(新日本フィル)、『マクロプロス家の事』(日生)、『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役、『ウリッセの帰還』善意と悪意役(二期会)、『カヴァレリア・ルスティカーナ』トゥリッドゥ役、『往きと復り』・『妻と帽子を間違えた男』・『不思議の国のアリス』アンサンブル (東京室内歌劇場) など。
ヒラタオフィス所属。俳優・テノール・司会者。
神谷真士 WEBサイト
http://www17.ocn.ne.jp/~prowork/
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