北山 朝也
2010.02.05
「エンジニアリングと幸せの定義」
北山 朝也 - エンジニア
ET Luv.Lab.記念すべき第一回目ゲストはエンジニアの北山朝也君です。北山君とはグラウンドで一緒に汗を流した仲でもあり、社会人になってからも折々で酒を酌み交わしがてら話をしあう親友です。北山君とは付き合いが長いですが、しかし、インタビューとして話を聞くのは初めての経験で新鮮でした。
アウトプットへのこだわり
【加藤】 ET Luv.Lab.は「人がメディアになる時代」「Person as a Media」ということをテーマに展開しようと思っているのだけれども、北山君はブログ、ポッドキャスト、IPAのプロジェクト、エンジニアの交流会など、会社にいながらソーシャルな手法を十二分に活用している印象を持っています。一方で古くからの友人に君の話をすると、楽しんでいるのはわかるけど、なんのためにやっているの?とか、何を目標にやっているの?とかいう疑問をしばしば受けます。そんな状況で、今、北山君が会社の枠を超えて様々なアクティビティを展開しているモチベーションってなんなんだろうということを最初に聞きたいのだけれども。別に有名になりたいわけじゃないんだよね?
【北山】基本、面白いことをやりたい、ノーストレスで、ということですね。ストレスがかかるのは会社だけでいいかなという感じですね。最近、会社もノーストレスになり始めててちょっと困っているんですけども。
【加藤】 それはいいことじゃない。学生の時からそういうことやってたの?
【北山】学生の頃はブログちょっとやってたくらいですね。社会と関わることの面白さということをまだよくわかってなかったというのはありますね。大学の頃、結構ヒキコモリだったんで、結構家で小難しい本を読んでたんで。
【加藤】 趣味の質を変えた、みたいなことなのかな?
【北山】そうですね。モチベーションかあ。一個一個目的がありますね。まずブログは何かやる時に発表するための窓口がないと何も伝わらないじゃないですか。僕が未踏をやりました、ソフトを作りました、ということをどこに報告するのかという話があるんだと思うんです。だからブログをある程度人が来る状態にメンテナンスしておくというのは、何か他のことをやる上ですごく重要だと思うんです。
【北山】何かを発表する窓口としてブログを持って、PodCastとかソフトウェアとか色々なことをやっているというイメージなんですよ、僕は。他の人がTwitterを窓口にしているというのと同じ話で僕に取ってはブログが窓口なんですよね。加藤さんもそうですよね?
【加藤】 基本はそうだよね。プラットフォームをまず作って、そこで何か走らせて行くという感覚だよね。それってでもある種やり方の話で、そもそもそれを面白いって思ったのはいつぐらいなのかね?商業的にものづくりをしている中で、人が作りたいと心から思って作られた制作物で世の中が溢れているかっていうとそういうわけではなくて、あまりノリノリじゃなくても作らざるを得なかった、ってものも世の中には一杯あると思うんだよね。そういう中で北山君みたいに作りたいものをただただ作るプレイグラウンドを持っているって言うのはある種、うらやましい状況なのではないかと思うのだけれども。
【北山】いかにアウトプットするかで、アウトプットの質って決まっちゃうと思うんですよね。ブログもそれなりに面白いことを書いている人がいればそれなりに人が来て、人が来るとフィードバックを受けて、それで面白いことを書けるみたいなサイクルがある。
【北山】逆に何も注目されてない状態で面白いことを書くっていうのは難しいことだと思うんですよね。
【加藤】 大目標があってそこに目がけて行く感じっていうよりは、今楽しいっていうのを次の日にどんどん繋げてって、どこまで行けるのかみたいな感じだ。
【北山】そうですね、でも、PodCast始めた理由はちょっと違うんですよ。
【北山】PodCastって世の中のメディアで最も金にならないメディアだと思うんですけど、あれはよしこさんと何かしたいね、という時に、お互いの仕事は抜きにしたPodCastだったらいいよ、っていう話でスタートしたんですよね。
【加藤】 できる人の課外活動みたいな感じだよね。でも流行りとかでやってくよりは人ありきで、始めたっていうのはいいよね。
【北山】そうですね、結局人ありきでやらないと面白いものはできませんからね。この人とどうすると面白いことできるかというので、別に利用するとかじゃなくて、仲良い人と面白いことをする、仲良い人と普通に話しても面白いけど、更に面白いことをするにはということを考えた時に、自ずと何をやるかは決まってくると思うんですよね。
【北山】一人でやってもつまんないじゃないですか。一人で閉じこもって作るタイプもいますけど。
【加藤】 なんかさ、サブカルパジャマトークは問題解決っていうか、問題提起だよね。デザインていうかアートだよね。そういう純粋さがいいんだろうね。
【北山】二人で決めているのは絶対お互いに負担にならないようにやる、後はできるだけ長くやる、ということですね。盛り上がって二三回で終わるんじゃなくて。今は月に一回、一時間話をして、晩飯を一緒に食べるってことしかやってないんですよ。ただ、お互いそれまでに面白いネタを見つけあって、それをいかに15分の間に収斂するかっていう勝負なんですよね。
【加藤】 アウトプットすることのこだわりっていうのはあるんだね?
【北山】それはありますね。まあ、出してナンボですからね。
プロフェッショナルになる以外に仕事を楽しむ方法はない
【加藤】 こないだ北山君が「僕はどんな時でもプロフェッショナルとして仕事をしています」という発言をしていたけれど、あれはどういう意味?
【北山】持論なんですけど、ドラッカーいるじゃないですか。P.F.ドラッカー。あの人に『プロフェッショナルの条件』ってあるのですが、あれ僕の座右の書なんですよ。プロフェッショナルの定義っていうものがあって、その中で、特に日本企業でモチベーションを維持するためには、自分の目的が組織によって定義されているっていうのが結構大事だと思うんですよね。それを課とかグループ単位で持つんじゃなくて、より自分の仕事がこの会社のどういうところに貢献しているのかというのが、結構大事なポイントで、日本の企業ってそういうことが定義されないまま仕事が進みがちなんですけど、そこを自分なりに定義して大局的に動くっていうのが僕の働き方なんですよね。あれはいい本ですよ、『プロフェッショナルの条件』は。
【加藤】 でもそもそもなんでプロフェッショナルにならないといけないのかね?あ、北山君の言うところのプロフェッショナルっていうのは専門家ということもまた違うのだよね。
【北山】僕の持論では、プロフェッショナルとして働く以外に面白く働く方法ってないと思うんですよ。自分の好き勝手なことをやるということを目的とした場合の面白さっていうのは、組織で動くことの意義が死に体じゃないですか。ある意味組織に貢献する一つのゲームとしての面白さっていうのがあって、そこに真摯に挑むっていうのが、現代社会の発達した面白さというところだと思います。
【北山】もう日本って成長するパイがないじゃないですか。行き詰まってますよね。そういう中でもプロフェッショナルとして働くっていうのは、真摯に組織にコミットすることを抜きにして、定義するのって結構難しいと思うんですよ。好きなことやって面白いというのを、それは本当に評価されるのかとか、上に上がっていけるのかとか、大きいことができるのかとか、給料上がるのかとか、色々なスキームあるけど結局それって行き詰まりのパターンだと思うんですよね。
【加藤】 個人も行き詰まっている?
【北山】個人も行き詰まっていると思いますよ。
【加藤】 最近若い人と話していると、事業に対する義務感はあっても責任感はないな、というケースにしばしば遭遇します。
【北山】責任感を殺していくシステムがありますからね。
【加藤】 分散してヘッジして、金融工学じゃなく責任工学みたいなのがあるよね。
【北山】ありますあります。
【加藤】 そういう意味では北山君にとってプロフェッショナルとして仕事をしていくって大事なことなんですね。
【北山】それ以外に仕事を面白くする方法がないと思うんです。だって、つまんないもん、基本、仕事って。基本つまらないから、楽しむスキームって限られてるんじゃないかと思いますよ。
エンジニアはイチローになれるか?
【加藤】 昔、僕らの後輩が「エンジニアもイチローみたいになりたいんです」と書いてたのだけど、北山君のIPAのスーパークリエイターっていうのはオールスターでホームランみたいな話だと思うんですよね。そうじゃなくてエンジニアにおいて10年ヒットを打ち続けるみたいなことに必要な環境ってなんなのかなと。
【北山】とりあえず、10年ヒットを打ち続けても金が儲かるわけじゃないというのは証明されているじゃないですか。まず、エンジニアが凄ければ凄いほど、その人の成果っていうのは踏み台にされるんですよ。オープンソースは勿論そうですけど、オープンソースじゃなくても、何かが発生した場合、そこってスタート地点になっちゃうじゃないですか。そこで、スタート地点に立った時にそこから更に抜け出るって、エンジニアのスキルじゃなくて、マーケティングとか、お金集めとか、そういうスキルが必要になってくるんで、エンジニアでヒットを打ち続けるってことは、イコール、踏み台にされ続けることだと思うんですよね。
【北山】Twitterの創業者もエンジニアじゃないけど、ヒットを打ち続けてて、Bloggerを作って、Twitterを作って、今新しいクレジットカード決済の会社をやっている。エンジニアって手段を生成するシステムだから。
【北山】エンジニアリングって手段で、目的を定義するものじゃないじゃないですか。エンジニアでヒットを飛ばし続けるってことは、手段でヒットを飛ばし続けるってことで、それは「成功」ではないんですよね。
【北山】だからスゴイエンジニアがいて、やり続けたとしても、それは別に成功とイコールではなくて、成功というのはお金を儲けるとか大きなことを為すとかそういうことを全部含めて。
【加藤】 ただ、ヒットの質をあげていくということはあるよね。エンジニア10年やったら管理職になるしかないのかなあとかさ。
【北山】僕の持論ですけど、エンジニアリングが得意な人ってマネージメントが得意な人とイコールじゃないじゃないですか。皆よく言いますけど、スゴイエンジニアをマネージャーにすると皆突っ込まれるじゃないですか。
【加藤】 なんで俺が出来ることができないんだ的な?
【北山】それもありますし、その人の力も活かされないですし、何より非常にニッチなフィールドのけれどもその領域の第一人者の専門家を、例えば研究所のようなところの所長にした時に、それってビジネスとしての広がりがあるかということですね。ビジネスには繋がらないわ、マネージメントはできないわ、戦略的に物事を進めていくことに、その人が自分の研究領域の第一人者であることが保証にはならないわけじゃないですか。と考えちゃうと、エンジニアって手段だから、手段のトップを組織のトップにすると周りが不幸になっちゃうと思うんですよね。
【北山】まあでも、エンジニアが大きなことをやるには大企業を出るしかないんじゃないですかね。だって目的を宛てがわれるわけですから。
【加藤】 でも面白いよね、北山君は会社では問題解決というデザインをやっていて、自分のプロジェクトでは問題提起というアートをやっている。そういう二面性みたいなものを持った人の将来って興味があるなあ。
幸せの定義について
【加藤】 で、引っくるめて今日は何が聞きたいかというと、大学生の3割は就職が決まらない、という状況なわけじゃないですか。という状況自体を北山君はどう見てる?
【北山】それねえ。難しいですよね。
【加藤】 北山君みたいに会社にいながら、それとは別に自分のプロジェクトをやっている、みたいなことって、もう少し今の学生に対して噛み砕けないのかなあと思って。選択肢の幅を広げるというか。
【北山】まず、海外を見るに、海外ってある意味、ニート先進国なわけですよ。スペインとかアメリカのデトロイトとか。そういう状況では、人は鬱屈しちゃうと思うんですよ。働くことができないので。いや僕もわからないんですけど、その鬱屈ってなんなのかっていうと、周りがうまく行ってるように見えちゃうんじゃないかと。
【北山】実際、今世の中の型通りに生きている人ってきっと6%くらいしかいなくて、幸せの定義が大企業に入ってそれなりの給料をもらうことだとしたら、そういう人達って日本の6%くらいしかいないらしいんですよ、大企業の社員ていうのはね。と考えると、皆でそこを一斉に目指そうというのはナンセンスですよね。だってそのシステムだったら6%しか幸せにならないじゃないですか。で、たまたま僕の時は景気がよくて、就職が楽だったというのがありますけど、今後日本が景気よくなることないですから。
【加藤】 ある種94%の人に残念ですね、って言ってしまうってことだよね。
【北山】システマティックに解決する方法は何個かあって、例えばシンガポールを例に挙げると、シンガポールは大学を受けるためには、小学校末の試験で一定の評価を受けていないといけない、じゃないと大学受けれないんですよ。小学校末の試験でその人の人生を決めちゃうんですよ。
【北山】だからアナタは職人とか、専門学校のコースに進んでくださいねってなる。だから皆小学校で死ぬ気で勉強するらしいんですけど。皆が全然納得してないんですけど、シンガポールではシステマティックにこれ以上の雇用は生み出せないから、専門学校のコースも結構整っていて、大学に行かない人は、職人になったり、プログラマーになったり、という最適化が図られてるんですよね。
【北山】そういう話を聞いちゃうと、ヨーロッパもそのスタンスらしいんですよ、やっぱり。決めないけど、大学行ける人はそもそも少ないですよ、っていうシステム。日本は大学に行ける人多過ぎるんですよね。
【加藤】 大学が余ってる。
【北山】大学行って4年間勉強したことが、全然職業の役に立たないし、だけど、大学行ったから、皆大企業に入りたがる、幸せの定義がそれしかないから。
【加藤】 そうだよね。ET Luv.Lab.も幸せの定義の多様性を探してみたいというか。考える材料というか。
【北山】まあ、僕の意見は安全圏の意見ですけどね。結局、日本の問題って皆わかってると思うんですよね。
【加藤】 ヤバイという。
【北山】そう、ヤバイ。今の生き方とか、社会の目標とか、大企業べったりとか、だけど他の選択肢が弱すぎるっていうのはありますよね。
【加藤】 安心でき過ぎる社会に日本はなってしまっていたという。
【北山】それはありますね、考えなくても生きていける社会になっちゃったから。もう破綻確定ですからね。学生の就職率もその象徴ですよね。世の趨勢としてそうだというか。
【加藤】 まあでも今日北山君が話してくれた内容というのは、僕にとっては、後輩に色々な選択肢を見せる第一歩のような気もしているし、これから色々聞いてまわる人も、いわゆる定義されたワークスタイルに縛られることなく楽しんでいる人達が多いのだけれど、ある種定義されたワークスタイルでないといけないみたいな風潮が5年くらい前まであって、でも今やある種不況が追い風で、6%の人達が意外と安心できないぞと気づき始めたくらいから、生き方の多様性みたいなことも容認される世の中になりつつあるようには思うのだよね。
【北山】実はそこに「愛」って言うのが密接に絡んできてるんじゃないかと思うんですけど、というのは、「結婚」っていう形をとるにしても、そこの定義がスゴイ狭いから、ある程度大企業に勤めてないと結婚させませんよ、みたいな親御さんも多いじゃないですか。この先どうなるかわからない人に娘はやれないみたいな。
【加藤】 それは由々しき問題だね。
【北山】結局そういうのがあるから、自分を大企業の就職の型にはめないと、一般的に定義された人並みの幸せに到達出来ないんじゃないかという心配があるんじゃないかと思うんですよ。実際僕も博士に進むって選択肢もあったかも知れないんですけど、奥さんと結婚したくて就職したっていうのもありますし。
【北山】結構多くの人は、大企業に就職するイコールそこなんじゃないかと思うんですよね。人並みの幸せというのが漠然と日本には強くて、そこに到達するための1ステップが大企業以外見えてないんじゃないかっていう気が若干しているんですけどね。
【北山】あと2~3年したら、予定はないですけど、僕も会社を辞めて、という発想に行ってもおかしくないなあという感じはしますね、やりたいことができちゃえば。そうなる時に一番引っかかるのってそこなんですよね。
【加藤】 最近思うんだけど、身の回りの人がちょっとずつちょっとずつ変なことやって、ああこういうのもあるんだこういうのもあるんだ、というのが全体観として多様性みたいなところに近づいていけるといいのかなあと思います。だから北山君にはこれからも大きな変化を強要するつもりは毛頭ないですが、ちょっとずつちょっとずつ面白いことをやっていって欲しいなあと思っています。

北山 朝也。1981年生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程を修了し、ゲームプラットフォーム会社に就職。
会社員の傍ら、IPAの2009年度上期未踏IT人材発掘・育成事業に応募し、「coRockets」の開発でスーパークリエイターに選出される。
また、ブログ「Future Insight」を運営し、iTunesのテクノロジーランキングで一位にもなったPodcast「眼鏡とgamellaのサブカルパジャマトーク」を配信中。
Future Insight
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眼鏡とgamellaのサブカルパジャマトーク
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