津下本 耕太郎
2010.10.07
「関係性の仕掛け人」
津下本 耕太郎 - アライドアーキテクツ株式会社 マネージャー
津下本耕太郎さんは数年前に共通の客先でお知り合いになって、なかなか興味分野がかぶっていることもあり、同年代ということもあり、気が付けば意気投合していたという、ビジネスとも言い切れない、プライベートとも言い切れない不思議なご縁です。
日本でのソーシャルメディアが表舞台に出て来る前夜から、企業と顧客の関係性に取り組まれていて、僕自身、津下本さんとの情報交換の中で、考え身につけて来たことってスゴイ多いように思います。そんな「教えあう関係」については本文でも出てきますが、最新の事情も織り交ぜて、大いに語っていただきました。
企業と顧客の関係性
【加藤】 今回はいつも作ってもらっている人が多いので、仕切る側の人に話を聞いてみたいと思って、津下本さんにお願いしたんですけど。今モニプラってどういう説明のされ方をお客さんにされてるですか?
【津下本】モニプラ、結構お客さんによって目的が違うから難しいんですけど、ソーシャルメディア活用のプラットフォームです。モニプラは成り立ちが広告ニーズを満たすためのブログマーケティングを自社でできて、長く使えるというのをコンセプトとして始まってます。最近では、PRだったり、リサーチだったり、カスタマーサポートみたいなニュアンスを入れて活用している事例もあったり、ソーシャルメディアという概念にプラットフォーム自体も近づいてきていて、今すごい守備範囲が広いですね。
【加藤】 広告やって、広報やって、マーケティングの下準備的なこともできると。津下本さんってモニプラにはいつ頃から加わったんでしたっけ?
【津下本】サービス立ち上げ9ヶ月くらいでジョインした感じですね。
【加藤】 今の役割って、モニプラにおいてはどんな感じなんですか。
【津下本】たくさんの企業が喜んで長く使ってくれることが、うちにとっても幸せだし、そういうお客さん増やしていくというのが目的なんで、新規顧客開拓の営業部隊と別に、出展してもらった後に、ソーシャルメディアって言われるものってやはりちょっと難しいので、うまく使ってもらいながら、問題があったら解決したり、コンサルというと大げさなんですけど、お客さんをサポートしていく部隊があって、そっちの部隊の長ですね。
【加藤】 作る側って言うよりは顧客側。
【津下本】顧客方面ですね。で、声を吸収しながら作ってる感じです。
【加藤】 津下本さんとお知り合いになったのもそこでですものね。
【津下本】そうですね。
【加藤】 サービス作ることをこんなにわかっている人が、お客さんのところ来てくれるんだあと思って、感心しましたもん。
【津下本】直前まで営業やってましたけどね。
【加藤】 それは新規の。
【津下本】そう、新規。加藤さんと会う直前まで営業やってて、その前はブログマーケティングの単発型のサービスメディアをやっていて、その時はサービス側だったし、その前は営業だったし、その前は僕SEなんで。滅茶苦茶。
【加藤】 でもSEやってたり、開発側やってたのが役に立ってるというのも、一緒にお客さんのところお邪魔した時におっしゃってましたよね。
【津下本】サービス作る方も何回か今までの経験で見てるし、作るっていうのはサービスの形を定義するところも見てるし、僕最初のキャリアがSEでそれこそ製造業のDBから全部見てたという感じなので、何となく全体のイメージがつくのはすごい大きいですね、個人的には。
【加藤】 30歳なったじゃないですか。最近の新人さんとか見ててどうですか。
【津下本】人によるかなと思ってるけど、なんかおっさんみたいなこと言うと、自分絶対若くなれないわけじゃないですか。何でも選べて羨ましいなあと。基本的にはいい思いさせてあげたいし、僕は大企業から始めてるから、ベンチャーに早いうちに飛び込んでくるという感覚が、僕がそれくらいの年の頃にはなかったので。リスクと言えばリスクだし、それほどリスクだとは思ってない部分もあるんですけど。
【津下本】僕が前いたところがキャリア形成、人格形成に対して、すごい最適だったかというと微妙だし、今の会社は、自分でしっかり目標決めてやるには、そんなに組織大き過ぎないし、社長には声届くし、良い環境だと思います。ただ、自分で成長欲ないときついかも知れないですね。
【加藤】 こないだ紹介していただいた新人さんはすごいモチベーション高そうでしたよね。静かに燃え上がっている感じで。
【津下本】あの子いいんですよw。
ソーシャル、フラッシュ、だけれども
【加藤】 相変わらず、いわゆるお客さんのソーシャルメディアに関する関心って高いんですか?
【津下本】最近やっぱりTwitterへの関心が高いですね。大企業というか、ソーシャルメディアを学術的に研究しているような人たちよりは遅れてると思うんですけど、中小企業もこれまでのマーケティング手法の影響力に翳りが見えていたり、既存のマーケティングの効果が確実に弱まり続けている部分を実感されているので。頭打ち感が強い中で、うまく行っている事例があったり、何より面倒くさそうだけど楽しそうじゃないですか、Twitterって。
【加藤】 Twitter出てきた後に今までのマーケティング見るとすごい機械仕掛けというか。
【津下本】マーケティングファネルで言うところの確率論だったのが、パラダイムシフトが起きてて、全然形変わったなと思ってて。
【加藤】 品品プレミアムモールって始まってどれくらいでしたっけ?
【津下本】半月ちょっとですね。
【加藤】 できたてホヤホヤですね。フラッシュマーケティングの解説記事とか読むんですけど、アメリカで最初流行ったじゃないですか。それが日本に入ってきてネット企業が始めて。お客さんにはこういうメリットがあります、って書いてあるんですけど、それってまだ検証されてないですよね。日本のマーケットにフィットしているかもまだわからない。
【津下本】どこも共通しているメッセージって広告費の代替。安値になるんだけど、広告費がかからないで集客に繋がるのならペイはするじゃないですか、だったら消費者に還元してあげましょうというのがロジックです。でも、広告費ってどこから見てるかというと、顧客単価とかCPA(Cost Per Acquisition)から策定されてるんですけど、元々のマーケティングってリピート率も織り込んで、生涯の客単価(Life Time Value)と言われているものをベースにCPAを決めてるんです。それをソーシャルコマースに持ってきた時に、同じLife Time Valueが通用するかというのが問題で、安売りするのと天秤の材料にするものが検証されてないというのは、実は本当にチャレンジングというか、リスクを取ってる部分もありますね。
【加藤】 お客さんにとってもまだわかんないよという部分はあるという。
【津下本】でも、そうじゃない付加価値もたくさんあるから。広告じゃない形の、ソーシャルグラフ間の露出とか、体験を伴った伝播って価値があるし、体験者が価格的に安かろうと、商品とかサービスを通じた経験を増やして、その人の時間を使って、心に擦りこまれていったり、五感の何かを使って伝わっていったりとか、今まで攻められなかった領域にアプローチできてるというのは、意義があると思うんですよ。
【加藤】 しかも小さい会社ってそういうことし辛かったですよね。
【津下本】そうですよね、すごいことですよね。
【加藤】 前に話し聞いてて思ったのは、フラッシュマーケティングって大きいサービスって言うよりは結構小さいサービスで、むしろモニプラとかから見るとモジュール的なものなのかなあとも思ったんですけど。顧客企業とユーザを結びつけるBtoBtoCのビジネスの全く新しい要素というよりは、そこの関係性に付加されるものというか。そうすると一番最初におっしゃってた、ブログマーケティングから始まる長く使ってもらえるパートナーシップを築くという流れの中の一環なのかなあと。
【津下本】まあでも本当にHUBですよね。HUBみたいなサービスになれればと思っていて、プラットフォーマーにはどうせなれないから、企業のマーケティングプラットフォームという意味ではプラットフォームなんですけど。ソーシャルメディアサービスという意味でのプラットフォームで言うと一個上層だから。
【加藤】 TwitterとかFacebookとかって括りから見るとということですよね。
【津下本】結局その時々で消費者やターゲットユーザにとって良いプラットフォームを選んで、うちはそれに合わせてマーケティングの土台を変えていくという動きになって来ると思うんですけど。
【加藤】 でも、それも面白い話で、大きいプラットフォームはそれ確かに利益上がるんだろうけど、結構お客さんから離れたところに立つじゃないですか。細かいセグメントでお客さん見ていけなかったり、それこそ津下本さんがやっておられるように顧客フォローにお客さんのところに行くことができない規模の会社だったりする。これからプラットフォームどうなるかわからない、という時になったら、お客さんの近くにいるということはメリットになるんじゃないですかね。
【津下本】メリットになるし、勉強になりますよ。
【加藤】 そう!昔ご一緒した時もフィードバックでかなり色々直していただいてりしてましたものね。
【津下本】『グランズウェル』読んで、基本概念というか根本のフレームワークは絶対正しいんですけど、それを例えば日本の中小企業だったりとか、WEBにあまり不案内な人とかに、そのフレームワークで言われているようなことを落とし込もうとしても、すごいやらなきゃいけないこといっぱいあるんですよね。
【加藤】 『グランズウェル』読んでも解決策が書いてない問題が起こるっていうことですよね。
【津下本】そうそうそう、解決策っていうか、実行する前に理解してやっと一歩という。でも、理解しないと絶対正しい方向に進めない部分があるから、本当にそうなるの?というのは常に念頭に置きながら、そうするためにどういうアクションを取るかだと思っています。そういう意味で言うと中小企業ってニーズがシンプルですごい強いから、常にお客さんから宿題もらって、それって命題だと思うんですけど、仮説検証を繰り返して一緒に実現していくというプロセスが大事ですよね。
【加藤】 それってある意味お客さんと「教え合ってる」ということですよね。
【津下本】ユニークな企業さんがいっぱいいるんで、大企業でも担当者レベルではユニークな方とかおられると思うんですけど。
【加藤】 それは僕の仕事も遠からず近からずなんで。面白いお客さんに支えてもらっているというか。
【津下本】そうですよね。
このサービスは正しい、という感覚
【加藤】 「学び」みたいな話になると、「先生」になるのって面白くないなと思っていて、松村太郎さんがソーシャルメディアはPullでもPushでもなくTellだと言っていて、教え合うって関係性が一番健全ですよね。対人関係というか対企業関係というか。
【津下本】そうかも知れないです。全然、ソーシャルとか関係なく、そうかも知れないですね。すごいイメージ分かりますよ。
【加藤】 それは良かった。さっき、プラットフォームの話出ましたけど、AppleとかGoogleとかFacebookとかあるじゃないですか。割と最近、Appleは元々ハードの会社ですけど、Googleとかもハードに寄ってってるなあって感じがしてて、大きなプラットフォームって結局ネットだけで商売成立しなくなって来てるのかなあと思ったりするんですけど、その辺どう思います?
【津下本】いやあ、全くもって同感で、ネットの会社で働いてても、私生活はネットそこそこ程度だし、すごい月並なんですけど、ネットって結局実現するツール、手段の一つだから、むしろ目的意識をどう自分の中で定義するかで、その後は自由でいいから、ハードがあって、ソフトがあって、構造として。やっぱり手書きの手紙が一番心に伝わったりもするし、何か同じことを伝達したい時に携帯のメールが一番早いし、オープンなN発信ならネットだし。大事なことを伝える場合は、メールとかじゃなく会うことが大事。携帯のメールも早いけど、顔合わせることって人間関係でもメール送らないで会うとかが大事。企業のマーケティングでも同じだと思っていて、物理的に空気共有することがソリューションになるアクションは依然大切で、でも、ネットを中心にコミュニケーション手法がどんどん増えてるだけだと思うんですよね。
【加藤】 振り子みたいなイメージなんですけど、ネット出てきて利便性側がワーッと振れちゃって、家電量販店行ってもAmazonより値段が安いわけでもなく、一気に店舗数増やしたから製品に精通している店員さんがいるわけでもないから、送料無料とか24時間対応とか利便性が大きく振れちゃっただけに反対側のサービスの質も振れないとバランス取れないと思うんですよね。本屋とかね。
【津下本】消費者も変わってますよね。明らかに。『明日の広告』みたいな話で、変わってる。
【加藤】 でも企業と顧客の関係性があまりにもドライになってしまうと、と考えると、津下本さんがそこを補完する部分じゃないかと思うんですよね。
【津下本】たしかにそうですね。コミュニケーションプラットフォームとかファンサイトだっていう打ち出しもしているし、そっちにしたいなと思いますね。昔は一方的なブログマーケティングのプラットフォームって側面が強かったんで。
【加藤】 僕が昔話しうかがっていたときは、海外で言うとP&Gのような企業ファンコミュニティ。あのコミュニティという概念大事ですよね。コミット度を高める仕組みというか。そういう目的で逆にフラッシュマーケティングとかも動いているわけでしょう?
【津下本】うん、そうだと思いますね。商活動で買ったりすることってすごい重要で、揺るがざる接点じゃないですか、昔から企業と消費者の間で。だから、うちがサービス展開している中で欠けているピースの一つだったんですよね。
【加藤】 買うのは別のECサイトで、とかになってきてましたものね。でもそういうサイトって目的に最適化されているわけではないですものね。
【津下本】今にあってない気はしますね。うちはうちの強みでフラッシュマーケティングに参入するとしたらどうなんだって考えた時に、フラッシュマーケティングの単発の売り切り型で、勿論GroupOnとかリピーターついているでしょうけど、そういう思想よりは、モニプラがブログを単発やりきりだったのをプラットフォームにして継続性のある関係構築メディアにしたように、フラッシュマーケティングもリピーターを想像して、店舗が関係性を温めるプラットフォームにした方が絶対的に正しいだろうと。それをできるのは多分うちだけだろうなって流れなんですよね。
【津下本】ASP型でショップを持てて、その中でフラッシュマーケティングができるというプラットフォームを作れば、という発想ですね、うちは。多分正しいんじゃないかと皆社内で思いながら携わっていると思います。
もう一度世界が見たい
【加藤】 津下本さんこれから何かしたいとかあるんですか?でも今立ちあげてる最中だから大変なのか。
【津下本】100%僕の事業というわけじゃないですけど、割とメインでやっているから今の事業を仕上げたいというのと、僕37歳から2~3年世界旅行行こうと思ってて、マジでw。バックパッカーだから。
【加藤】 超楽しそう!でもリセットするの大事ですよね。
【津下本】リセットもそうだし、リセットじゃなくてもいいかなと思っていて、最近はスポンサーつけて旅行に出かけている人とかいるじゃないですか。息抜きに行くんじゃなくて、それまでの延長上で、めちゃくちゃ吸収して、アウトプットもして、旅にコミットしたいんですよね。僕写真好きだから、良いカメラ積んで行って来たいですね。学生時代も別に一台しか使ってないんですけど、予備で3台レンズ4本とか持ってインド行ったりしてて。
【加藤】 だって、沢木耕太郎風の作文があるっておっしゃってたじゃないですかw。
【津下本】そうそうそう。
【加藤】 ああ、楽しそう。
【津下本】バックパッカー楽しいし、自由だし、行き残したところ一杯あるから。
【加藤】 いいですね、僕の後輩も世界放浪だって言って、ブログ書きながら世界回ってますよ。彼とか帰って来たら絶対面白がられると思うんですよね。伊達公子さんがこないだ復活して活躍してるのとかすごいなと思っていて、仮定の話になってしまうけど、あの人が現役続けていて今の年であの強さがあったのかとか、今の種類の強さじゃなかったかも知れないなとか思うわけじゃないですか。だから、僕は津下本さんの世界行きを応援しますw。
【津下本】今考えても、学生時代にたかだか一ヵ月半とか休みを使って行ってるだけなんですけど、そのために準備して、行きたいなって思い立ってから頭で色々考えて、実際行くまで旅してて、それはすごい刺激で今の人格形成に大きく影響していると思うんです。日本って全然当たり前じゃないじゃん、みたいなことをハッと感じる瞬間だったりとか、喜怒哀楽もそうだし、自分の中で今だにブスブスに刺さっている部分があって、これ考えてもロジックにできないんですけど、また行っても、どうせいい刺激一杯得れるだろうな、という、根拠は全然ないんだけどすごい自信があるんです。
【加藤】 そうであるはずだ、という。
【津下本】エジプトカイロで全身紋々のめちゃくちゃワルい兄ちゃんと会って仲良くなったことがあったんですけど、その兄ちゃんが一つお前に教えておいてやると言って言ったのが、「借金して絶対旅行にいくな」だったんですよね。旅に出る時に妥協して、招かなくていいものを背負っていく必要はなくて、だから傷心旅行なんてあまりしたいと思いませんし、何か取りに行くつもりで行かないといけないと。だから、僕の中で「借金して旅行にいくな」は結構大事。
【加藤】 格言なんですね。
【津下本】多分その人は適当に言っただけだと思うんですけど、響いちゃって、未だに響いてるんですよ。それが。
【加藤】 なんかでもそれ色々なところで同じことを感じれそうな言葉ですね!
【津下本】そうですね。面白いなあ。
【加藤】 面白いですねえ。

津下本 耕太郎。1979年、東京都生まれ。上智大学理工学部卒業。
大手SIerで製鉄業システム構築のSEから、恵比寿WEBベンチャーのアライドアーキテクツ株式会社に転職。クチコミマーケティング事業会社立ち上げを経たのち自社に戻り、現在はSMM支援サービスであるモニプラ、ソーシャルコマースサービスである品品プレミアムモールにて、運用コンサルティング部門のマネージャー中。
楽しいクソガキ。生涯の3割は二日酔い。30カ国バックパッカー。和食とスコッチと一眼とドキュメンタリー映画好き。恥の多い人間です。