小島 希世子
2010.12.09
「火の国の女、肥の国の母」
小島 希世子 - 株式会社えと菜園 代表取締役
小島希世子さんとは大学時代の親友で、ともすれば悪友で、お酒を飲みながら20歳前後に議論を交わした朋友です。農業の世界を生業にする数少ない友人で、僕もいつも勉強させてもらってます。
2年前の法人設立の際には、僕もCIやWEB周りも立ち上げの時だけですがお手伝いさせてもらいました。それから2年、農業と子育てと、逞しく靭やかに活動を続ける旧友に、彼女の今を語ってもらいました。
株式会社えと菜園
【加藤】 えと菜園って名前だけ聞くと、「農園」というイメージを持つ人も多いと思うのだけれども、何か色々やっているよね?
【小島】まず、環境にやさしい栽培をした農家さんの農作物を、農家直送のネットショップ、カタログ通販。後は家庭菜園塾。「チーム畑」という農薬とお金を使わないいずみ野でやっている活動。後は生産を熊本で。
【小島】肥後野菜と言われる伝統的な野菜で、農家さんって普通F1種という種を使っていて、それは一回買ったら次の年も買わないといけない交配種なの。
【加藤】 ああ、「かけ合わせ」みたいな。
【小島】うちの伝統的な野菜は種取りをして、次の年も次の年も使える。ただ、市場からは結構消え去っていて、市場にはなかなか出ない野菜で。
【加藤】 もう3年目?もっとか。
【小島】ネットショップ自体が今度6年目。
【加藤】 そうかネットショップを始めたのが5年前で、えと菜園になったのが2年前?
【小島】そう、法人化したのが2年前。
【加藤】 どうですか、この2年で周りのこととか変わりましたか。外で喋る機会とか増えたでしょう?
【小島】ああまあ多少はw。
【加藤】 あと農業をビジネスとして成立させていかないといけない、みたいなことは大変だよね。
【小島】うん、大変。
【加藤】 ほぼ今個人に近いじゃないですか動き方自体は。出て行くお金見ながら業務も実行していかないといけないわけでしょう。
【小島】そう、バランスを見ながら。もっと資金があったら、これできるのにあれできるのに、というのもあるけど、出て行くお金と入って来るお金を見つつ、借金はせずに経営していきたいので。
【加藤】 組織を大きくするというよりは、やりたいことをやれるようにするというところだよね。
【小島】何に私が使命感を感じてやっているかというと、農家さんのものをお客さんに届けました、お客さんからありがとうと言われたことを伝えると、農家さんが喜んでくれたり、売ってくれてありがとうと言われたりすることに使命感を一番感じながら、日々仕事しています。
【小島】「こんな美味しいベーグルは生まれて初めて食べた!」と言ってくれるお客さんの声、農家さんのファンになって食べ支えてくれるお客さんの声、お客さんの声を、農家さんとかベーグル職人のあだまんと共に分かち合って喜べるってことに、やりがいを感じてるよ。
農業に魅入られた
【加藤】 それはあれでしょ、今までの農家さんはある種ハッピーじゃないところがあるという問題意識があったわけだよね。いつ火がついたんだっけ。
【小島】もともと農家になりたくて。小学校の時にうちには乗用車しかなかったんだけど、近所には農村地帯なのでトラクターもコンバインもあって、かっこいいやんと。しかも昼寝するのみんな。お昼食べに帰ってそこから一時間昼寝して、午後もゆったりと作業したりするから、農家の家は家に親がいる。うちは学校から帰っても親は家にいない。
【加藤】 そうだよね。学校の先生だものね。
【小島】そういうのいいなあと思ってて。それで柔道を始めて、結講減量が大変だったんですよ中学生の時に。その時小さい頃見た、飢饉、餓死する子供の番組を見て、これ減量でこんなにお腹減るのに、お腹すいて死ぬってあり得ないと思った。当時は砂漠でも育つ農作物を作りたくて大学は農学部を受けて落ちて、一浪しても入れなかったので、違う大学に進んだの。
【加藤】 それで僕に出会ってしまったわけですねw。
【小島】そうですw。それで大学時代もウロウロしつつ、農家になりたいと思って、就職活動は農家さんを回ったんだけど、絶対ならないほうがいいよ、絶対食えないからと言われて。親がトラクター、コンバイン、土地持っているならまだしも、うちは土地だけはあるけど道具はないし、農法も親から教えてもらえないってなると、一代でやるって難しいと。その時も有機栽培だったり無農薬のところだけを回ってたんだけど、その時に農家の奥さんにうちは農薬一回使って除草剤も一回使って後は全部手作業でしてるのに、農薬を普通にバンバン撒いているところと同じ一俵一万円なら一万円で、その中で旦那は自分のこだわりがあるから続けるけど、努力も馬鹿馬鹿しい仕事だよと言われて。
【小島】じゃあ、きちんと作った人がきちんと評価されるような農作物の流通の仕組みを作ろ売ってことで最初ネットショップを立ちあげて。
【加藤】 流通の方の修行もしてたよね。
【小島】流通は国産の農作物を扱う会社に。その後、有機農業の生産者グループの会社でお手伝いをさせていただいて。
【加藤】 意外と思いつきでやったのかと思いきや、段取り踏んでるよね。
【小島】段取り踏んでますよ、一応w。
【加藤】 流通の勉強もして、小売の勉強もして。
【小島】たまたまだけど、たまたま。立ちあげ当初は農作物関係でバイトして他でも色々バイトして自分のやりたいことをやってたけど、ある日突然、もう農業以外のバイトはしないと決めた時があって、農業に関わること以外は生計を立てるためにもやらない、それが勉強になって。
【加藤】 それはある種の覚悟ですよね。
【小島】そうそう、この道で生きて行くぞという。私の個人的な将来の展望としては、50歳くらいで熊本に戻って農業がしたいというのがあって、50歳になったときにえと菜園が全部買ってくれるから、自分は畑だけで土とだけ向き合っていればいいという状態を作りたい。安心して作って、全部買ってくれるから。売る心配しながら作るのって酷だし、今だって入って来るのと出て行くの考えながら売り続けていかなきゃいけないし、そうじゃなくていいものを作ればそれだけ評価される仕組みを作りたい。
【加藤】 自分が得意で自分が好きな分野で各々が頑張れば、それが回っていくという仕組みにしたいということだよね。
【小島】最初はそれで始めたんだけど、やり始めたら農家さんに喜んでもらえることに使命感を感じるようになったんだよね。
先生と子育てと
【加藤】 あと希世子の話を聞いているとロビンソンさんの存在はデカイよね。
【小島】うちはロビンソン先生がいないと成り立たないから。家庭菜園塾を始めましたと。それは何でかって言うと、うちは生産者とお客さんの距離を近づけるということに取り組んでいるわけだけど、一番お客さんに農家さんの気持ちになったり、農業を知ってもらうためには、土に触るのが早い。大根ってもともと土に埋まっているから汚れてるのかということを知らない人がいる時代。農薬使わないってこんなに大変なんだとか、虫って作んだねとか知ってもらうことで、農業をしながら勉強をする。自分も勉強をしようということで多摩川のロビンソン先生のお世話になっていると。
【加藤】 多摩川のロビンソン・クルーソーに。
【小島】あの人はとても自然を愛する人で、動物、子供、生き物大好きっていう。自然を愛する人。先生が言うには温暖化って今教科書に載ってるでしょ?小学校の。でも温暖化ってなんで温暖化がいけないのかていうのを実感させてないから意味がない。一番いいのは畑に来れば農作物の周期がずれてきてたり、生き物が死んじゃうんだよとか、生命について教えればいいし、生命について教えるには畑が一番良いんですよと。いい人でしょ?癒されるよ。
【加藤】 希世子が先生、先生、って言っているのは結構珍しいなと思って聞いていて、あまり今までの人生の登場人物に自分の親以外の先生を出してきていかなかったから、先生って言ってるのは、ああやっぱり尊敬しているんだなあという感じはするよね。あと、子育て始まって変わった部分もあるんじゃないですか?半分農業、半分主婦、とは言えそれぞれ半分で済む話じゃないでしょう、単純に2倍になるのかも知れないし。
【小島】なんか混在しているから何とかできてるかな。自分のやっていることは将来の子どもの世代のためになるし、自分が野菜の勉強したり自分の手を動かしてなにか作っても子どもが食べるから、自分の仕事の中で自分の子どもが普通経験できないようなことを経験できるから。いい野菜を食べさせられたり、畑や多摩川に連れて行ったり。
【加藤】 それはなんか同じ文脈でやってるんだね。子育ても仕事も。あんまじゃあ、切り分けてとか切り替えてとかいう感じじゃないんだ。
【小島】あんまり。連れて行くし仕事にも。
【加藤】 面白いよね。プライベートとビジネスの切り分けができなくないですかとか僕もよく言われるけど、関係ないじゃん。
【小島】旦那は困ってるらしいけどw。時間で区切っているわけでもないし。
【加藤】 旦那さんはね、ファイトって感じだねw。後は農業が問題だと言われて10年くらい経つんじゃないかと思うんだけど、我々が大学生の頃に日本の農業がまずい、おそらく何回目かのまずいという議論があって。それから変わった気がしますかね?
【小島】多少はその産地直送の会社もいっぱいでてきているし、若い人がまだまだ足りてないけど就農していたりもするし。私たちの同級生も。
【加藤】 ええええ、そうですよね。まあでもこれからだよね、君の仕事は50歳になったらとか言ってるわけだし。
【小島】50歳から10年農業やって、実は私の夢にはその後があって、60歳か65歳になったら畑を変えて土の状態で配合とかわかって、土を深く知ることができたら、砂漠で農作物を作りたいなと思って。
【加藤】 面白いね。面白いっていうか小学生の時に思ったことから繋がっているわけだよね。
【小島】何年かかけて1年かも知れないし5年かかるかも知れないけど、最初農作物が取れた時に、住民と「ワァーヤッター」って言って、そこでポックリ逝きたいというw。
レンタル家庭菜園計画
【加藤】 あと話しておきたいことがあるって言ってたじゃん。
【小島】レンタル家庭菜園。形態はえと菜園から切り離して新しい法人をつくろうと思っていて、今家庭菜園塾って狭い畑で定員10名でギツギツでやっていて、これ以上人は入れれないし、入れないようにしてて、問い合わせは結構あるので、ああじゃあ市民農園やろうかなと。やっているところもあるけど、管理者つきの。
【小島】うちがちょっと違うのは、お金と農薬をかけない方法を学べる。先生と家庭菜園塾を始めてからずっとテキストを書き溜めてきたのね、この1年半。それをメルマガ方式で今月はこういう作業ですよというのを利用者の方に案内できるようにしようと思って。
【加藤】 おお、すごい。ストック既に作ってあるんだ。
【小島】そうそう自分が忘れちゃうから。でも先生が書いてきてくれたものを、パソコンに落とすだけだったりするから。先生が本当に一生懸命やってくれるんだよね。
【加藤】 逆に今えと菜園的にやれてないなあと思うこととかあるの?
【小島】やれてないのはネットでもうちょっと販売を強化したいところかな。
【加藤】 まあでも、出口がないとね。
【小島】でも今年一年は生産というか内側を固めようと。小売もやっぱり難しくて、広告の勉強したり、マーケティングの勉強したりしないといけないし。
【加藤】 何か、何とか業界の仕事をやっているんじゃなくて、自分のやりたい仕事があって、そこで必要なものをやらなければいけないと。それは俺も一緒だもの。
【小島】全部勉強しなきゃいけないんだけど、どう考えても足りないから、世の中は分業になってるんだなっていうことに最近気付いたw。
【加藤】 でもそれって規模感を小さくすれば自分で何とかできる感じもしない?まあ楽ではないけどさ。世の中的には器用貧乏って言うんだけどさ。友達皆器用貧乏だな、まずいなw。
【小島】レンタル菜園をやるために今すごい農地を探しているんですけど、農地がなかなか見つからなくて、都会の中でレンタル菜園をするのって、農地を探すのが最も高いハードルの一つだと思っていて、そこを突破すると。
【加藤】 新しい地平が開けるんじゃないかと。
【小島】結局、もともと農家だったところとか、農協とか、地方自治体とか、よそが介入できないところがやってるから。
【加藤】 でもうまく一つ回せればそれを実績として信頼してもらえたりもするだろうから。モデルケースにならなきゃいけないんだよね。希世子のところが大きくならなくても、周りにどんどん真似する人が出てくればよくなるって言ってたじゃん。
【小島】そうそうそう。組織を大きくするより、小さい組織を増えるといいよね、小回り利くし。レンタル家庭菜園は管理スタッフに路上生活者の人に来てもらってやる予定で、このレンタル家庭菜園という一つの事業で、求職中の路上生活者の働く場作り、都会の市民農園の供給不足の解消、農業に纏わる問題と、社会で問題とされている事柄に3つも一気に取り組めるという、かなりすてきな計画なんだよ。
【小島】ゆくゆくは、人手不足の農業界に、管理スタッフを就農者として送り込める仕組みを作れたらいいなという未来図も描いちゃってます。ビジネスコンテストで賞も取ったんだよ。頑張んないと。やることが多いですね。
【加藤】 でもそれができるようになると、えと菜園のホームページで言っているようなことが、整理されるようなイメージになるのかな。
【小島】「農」を「食」と「職」に、だよね。ようは農業だけじゃなくて、農業の周りの産業でも収益を産まないといけないから、レンタル家庭菜園はその意味でもいいなあと。小売もそのうちの一つになるし。業種的な分け方をするとね。実際は一つの循環なんだけど。
【加藤】 多分どんな形でも参加してもらうことに意義があるので、参加の仕方のオプションをえと菜園側でいくつも持っているのは良いよね。最後に土を触ったことない人へメッセージをどうぞ。
【小島】土を触ったことで、価値観や人生観が変わることを見てきているので、是非、畑に来てください。
【加藤】 応援してます。
【小島】なんか人生観変わる人いるんだよね。非日常なのかなあ。自然にものすごい近いところにある職業なので。
【加藤】 希世子が樂しがってやっていれば、周りも楽しいのかなと思って寄ってくるので、楽しくやってください!

小島 希世子。株式会社えと菜園 代表取締役。
人間の命と健康を支える農業は、大切な産業だと考えています。一児の母となり、一日3回の食事を通し、その思いはさらに強くなりました。食べ支えてくださるお客様、農家さん、スタッフ、野菜、土、自然から、元気をもらったり、学ばせていただきながら、日々仕事させていただいています。最近の楽しみは、娘や仲間と畑で汗を流すことです。また、娘は自分が収穫した野菜は、残さず食べてくれることも、楽しみの一つです。最近、三十路を迎えましたが、よく学生に間違えられます。