marico
2012.09.15
「モノを作る、場を作る、時間を作る」
marico - ヘンプアクセサリーデザイナー
男ですし、そんなにアクセサリーとかは持ってないのですが、maricoさんにオーダーしたグラスループは今も愛用しています。maricoさんとは友人に紹介された社会人サークルみたいなところで知り合って、だから5年ほど前でしょうか。姉御肌で男前のmaricoさんと、ああしたいこうしたい、という話をビール飲みながら話して、なんだかよくわからないけど意気投合したことを覚えています。
しばらくご無沙汰していたわけですが、ET Luv.Lab.で手仕事の人に取材したいな、と思い立ち、久し振りにご連絡しました。いつもmaricoさんがワークショップをしているFree Factoryというカフェバーの一室で、ヒューガルデン片手にインタビューは始まります。
ヘンプアクセサリーとワークショップ
【加藤】maricoさんいつくらいからヘンプ始めたんですか?
【marico】こっちに出てきてからだから10年前くらいかな。10年よりも前かも。
【加藤】それって、最初から商売、というか職業としてやろうとしてたの?
【marico】元々は私ダンスやってるからさ、衣装的な感じで福岡にいた時からアクセサリー作りはやってたの。こっちに来たら、ダンサーの先輩が、たまたま私のヘンプの大元の師匠と友達だったんだよね。そこでヘンプを紹介されて、結ぶことはちょっと知ってたんだけど、そんなにしっかり編んだり、天然素材だということも知らなくて、始めました。ヘンプ自体も当時あんまりなくて、なかったというか、市販されてなくて。
【加藤】メジャーじゃなかったんですね。
【marico】全然メジャーじゃなかった。麻の紐みたいなのあるでしょう。荷紐みたいなガサガサのやつ。あんなのは売ったから、作ったりはしてたんだけど、その師匠に教わって、こんな奥深いんだと思って。環境的なこととか、まだそこまで考えていなくて、ただカワイイのを作りに行きたいという感じだったんだけど、どっぷりはまってしまって。
【加藤】製品としてだけじゃなくて、環境とか文化とかひっくるめてということですね。
【marico】そう含めて。自分が年々金属アレルギーになってきちゃって、アクセサリーつけられなくなっちゃったんだよね。でもカワイイの欲しい。そういう人も絶対いるはずだから、ヘンプいいよねと思って。後は当時あんまりなかったから、ちょっと他の人と違って嬉しい、ってこともあって。ひたすら人に作って喜んでもらいたいだけだったなあ。それがいつしか仕事になっちゃって。
【加藤】ですよね。最初は知り合いのために作ったみたいな感じだったんですか?
【marico】最初は友達のプレゼントとかだえ。世の中に一個しかないから嬉しいじゃない。そうしたら、オーダーで頼んでくれる人が増えて来て。
【加藤】最初は身近な人のためにやったのが、人の評判が評判を呼んで、みたいな感じなんですね。そういうのいいですね。
【marico】友達が当時働いてたカフェにヘンプを編みに行ってたの。ただの常連として。そうしたら、そこのお客さん達が、なんか編んでる人がいるよ、と気になったみたいで。道具使わないし、どこでも作れるから。そうしたら、気になった人達がオーダーしてくれるようになって。
【加藤】あれですよね、お寺にお坊さんがいるから子供が集まって寺子屋になる、みたいな話ですよね。
【marico】そんな感じ、そんな感じ。そうしたらそこでもうワークショップやってみたらと言われて。それで、ワークショップの方が楽しくなっちゃって。
【加藤】そうですよね。すごいワークショップ大事にされてますよね。僕、最初、アクセサリーを作る人だから、モノを作る人かと思ってたんですけど、モノを作るんだけど、結構、場を作る方をすごいやってますよね。
【marico】そっちが好きなんだよね。モノもやっぱり気持ちが入っているからすごい良いんだけど、作ってもらった方が面白いんだよね。
【加藤】そうですよね。僕のもそうだし。
【marico】皆に体験してもらいながら、誰かのために作るってすごい良いことだと思っていて。それが楽しいじゃん!みたいな感じでやってるのが好き。
場所に縛られない、場作り
【加藤】ワークショップはこのFree Factoryでもやってるっておっしゃってたし、あとブログ見たら夏はAP Bank Fesに出してたりしますよね。
【marico】そう、お陰さまで何年も続けてやってる。4日間で600人。
【加藤】わー、すげー。
【marico】耐久レース。同じこと何度も言ってるから、最終的に喋りが噛みだすんだよね。フェスとかって知ってもらうきっかけなんだよね。今、ワークショップって流行っててさ、ヘンプは道具が要らないから、身軽なんだよね、うちらも行くのが。
【加藤】場作りって言っても、どこか場所に紐づいているんだけど固定されないというか、移動式というか、どこでもやれるという。
【marico】それが一番の利点だと思うし、皆もとっかかりやすいでしょ。いちいち何かを買わないといけないとかではないから。紐さえあれば。そういうのをどんどん増やしていきたいんだけど、被災地だったりとかね。
【加藤】ああ、大船渡、行っておられましたよね。
【marico】うん行って来た。まだそれ一回きりなんだけど、これからもどんどん場があれば、繋がりがあれば、行きたい。
【加藤】お祭りに合わせて行ったんでしたっけ?
【marico】そう。紐の会社から、糸提供してもらって。
【加藤】じゃあ材料費はかからず。
【marico】無料で、子供たちに体験してもらおうという感じで。
【加藤】ブログに子供たちが嬉しそうにしている写真載ってましたね。
【marico】かわいいの。できた時の顔が嬉しそうでさ、来てよかったなあと思って。
【加藤】それ最初から嬉しそうな感じの顔でした?
【marico】でも、できるのかなあ?みたいなのがあるし、逆に、お母さんたちが、できないだろう、と決めつけちゃってるところもあって見てるから、手を出そうとするんだけど、子供たちが真剣になってくると、お母さんはどっか行ってて、みたいになる。
【加藤】俺の世界だ、という。
【marico】できあがって、お母さんのために作るとか、おばあちゃんのために作るとか言っているの聞いたら、本当良いなあと思って。色々子供たちと作りながら話してさ、地震のこととか含めて。皆、仮設住宅住まいだったから、おばあちゃん達ってなかなか外に出てこないんだって。お祭りやってても来ない。だから、おばあちゃんにお土産で作るって言ってて。そういう風に、ボランティアで行くんじゃなくて、何か残していきたいじゃない。もう一回作ってね、って言えるでしょう。
【加藤】教えるってそこがいいところですよね。
【marico】簡単だしね。実は簡単なんだけど、意外と皆わかってなくて、難しそうに見えるから。
【加藤】僕も石巻でHerman Millerのワークショップ見学させていただいたんですけど、最初はえー、という感じなんですけど、作っていくと段々楽しくなって来て、そういうの見てHerman Millerの人達も喜んでたし、そういう感覚って大事ですよね。
【marico】大事だよー。
【加藤】多分、1年経ってからじゃないとできなかったことってあって。
【marico】私達も本当はすぐ行くようなイメージだったんだけど、タイミング悪くて行けなくて、天候悪くて行くって決まってた日に行けなかったりとか。でも、今年の3月くらいに行った時に、ちょうど良かったんだな、と思って。神様がさ、君らはこの時期に行った方が良いよ、って言ったんだろうな、って感じだった。
【加藤】そういうのってあるのかも知れないですよね。
【marico】元気な部分でしか見てないから、地震で一番辛かった時期というのを知らないし、喜んでもらって良かったね、で帰って来るんで良いのかなあ、とは思ったけど。だから何回も行って、色々な話聞いて、やっていきたいとは思うね。
【加藤】行くことすごい大事だけど、続けていくことが本当に大事だろうし、皆それぞれ生活あるし。
【marico】そうだよね。せっかくこういう技術持ってるんだから、教えてあげられたら一番いいよね、と思うよ。
【加藤】なんか他の場所も行けると良いですね。
【marico】うん、そう。他も行きたいと思ってる。
両腕で抱えられる範囲
【加藤】最近はこっちでやってるワークショップはどんな人が来ている感じなんですか。リピーターも多い?
【marico】うん、3〜4年とかずっと来てくれてる子達もいるし、単発で来る人もいる。
【加藤】単発で来る人ってどこかで見つけてくるんですよね。
【marico】そう、ブログとか。
【加藤】友達の紹介とかは?
【marico】どこかで繋がってたりはするよね。
【加藤】下北沢とかってカルチャー濃そうですものね。
【marico】わざわざ昨日とかも藤沢から来てくれたりとか、川越から来てくれたりとか、結構遠いところから来てくれる。
【加藤】嬉しいですね。
【marico】まあ、教えてる人が少ないから。
【加藤】なんかでも最近思うんですけど、自分のやりたい仕事をしていく時に、別に1億3千万人相手にしなくてもいいなと思ってて、例えば農業のお客さんとかだと、農業は日本全体の面倒を見ないといけないけど、農家さんて100人くらいお客さんいて、それで自分の作ったもの捌けば食べていけるというか暮らしが成り立っていくと思うんで、小さいコミュニティを上手に密にしていく、みたいなことが大事な気がしています。特に僕らみたいに組織でやってない人は。
【marico】そうだよね。小さくて良いんだよね。そこから、友達の友達、友達の友達、みたいな感じで知ってくれる人が増えていったら嬉しいと思う。大金持ちになりたいわけじゃないから。今、逆に自由に動ける時間があるから、良いことなのかなあと思って活動している。
【加藤】フットワークの軽さが、有名になっていくに従って、時間的余裕がなくなったりもするでしょうし、軽快に動いている方がmaricoさんっぽいです。
【marico】そうかも。
【加藤】ダンスもまだやっておられるんですよね?
【marico】無茶苦茶やってますね。
【加藤】3人ユニット?
【marico】そうそう。同い年と一個上のアラフォー軍団で。鞭打ってやってるよ。そっちもヘンプも絡ませていこうって話してて。
【加藤】それはどういうことなんですか。
【marico】それも環境とかとは別なんだけど、被災地にダンスとヘンプをセットで行くとか。後は自分がダンサーだから、こういうアクセサリーだとすごく良いって言うのがあるんだよね。重いやつ、顎にカンカン当たって痛いし。軽いものだったりとか、違う素材使ってみたりとか工夫してみて。後は自分が教えている子供たちの発表の時に、お母さんたちが自分の子供たちのために、ヘンプで髪を結うアクセサリーを作りたいと言ってくれて、子供たちのレッスンの後ろでお母さんたちヘンプアクセサリー作ってるの。それって、既製品を買うより、すごい良いと思うんだよね気持ちも入っているし、そんなにすぐできるものじゃないから、時間かけてこの子のためにというのはすごい素敵だなあと。
【加藤】話うかがってて思ったのは、気持ちの込め方がわからないとか、気持ちを込める方法が自分の選択肢の中になかなか多く用意されてないとか、話戻っちゃいますけど、震災の時にどうやったら気持ちが伝わるのかみたいなことってあって、それが今回みたいに子育てってことかも知れないし、そういう手段の一つとしてモノを作るというのがあるってすごい良いですよね。
【marico】体験してもらうとすごいわかりやすいんだけど、無になるんだよね、ずっと作ってると。無になりながら、これをこの子のために作りたい、この人のために作りたい、という気持ちだけで作る。他の邪念がなくなるというか。そういうのを生徒さんたちも気持ち良いって言ってくれて、だから、ワークショップ中、気づくと誰も喋ってない。気づいたら私しか喋ってない、先生うるさいですよ、と言われるくらい。そういう時間って、なかなか作れるようで作れないんだよね。
【加藤】無にする、とか言う話だと、例えば坐禅とかあると思うんですけど、あれとかでも結構難しい気がしていて、どこかに向かっていくものがないというか、一つの思いに収斂していくというのは、もっと身近でやりやすくて、でも意外とできてないことかも知れないですね。
【marico】できるようで、できないと思うんだよね。私もそれは感じて作っているんだけど、生徒さんも感じるらしくて、気付くとすごい時間が過ぎてるということがままあって、でもそれってすごい良い時間だよね、って話している。
次の10年
【加藤】モノを作って、場を作って、時間を作って。これからどういう感じにしていきたいとかあるんですか。
【marico】各地に行きたい。ヘンプアクセサリーというもの自体が、手芸業界ではそこそこ知られてきているんだけども、例えばニットとかに比べると全然知らない人多いし、ヘンプって何?って聞かれることも多くて、そういう説明もしたいんだよね。手芸本は出させてもらってるから買ってる人もいるんだけど、結局、手芸本ってレシピ本だから、コツとかが載ってなかったりしてさ、本を見て作れないからワークショップ来たという人にも出会うんだけど、大抵めちゃくちゃなの。また、親切に書いてないからさ、そこまでは。
【加藤】書きようがないというのもありますよね。
【marico】そう、口で説明というか、力加減で説明だから。そういうのを全国を回って教えられたらいいなと。
【加藤】結ぶキャラバン、みたいなね。
【marico】そうそう。
【加藤】ちょっと話脱線しちゃうんですけど、共通の友人のすわだいすけが、全国ハンバーガー屋無期限ライブツアーやろうとしてて、日本中のハンバーガー屋をライブツアーするという。
【marico】面白いね、それ。
【加藤】そうそう僕自身ももっと地方の仕事したいなと思っているし、逆に東京的なことに食傷気味にもなって来ているので、もっと裾野広く仕事してたいなあという思いはあるんですよね。
【marico】こっちだと、すぐに習いに来れる人達ってのは、やっぱり飽きちゃうんだよね。地方の人達にとっては新しいものだからさ。知って欲しいし、作れなかった悲しさをさ、私が行くことによって作れるようになるわけじゃない?九州ツアーをやったことがあって。
【加藤】おお、地元。
【marico】手芸屋さんの店員さんを教育しにいったんだけど、すごく喜んでくれてさ、福岡の人が他を回っている間に鹿児島にもう一回来てくれたりとか。そこまでして来る?みたいな。
【加藤】嬉しいですね。そうやって、弟子じゃないけど、色々なところに自分の分身みたいな人が出てくると楽しいですよね。
【marico】また、私の教え方というのが、結構、放置プレイでね。考えなさい、っていうやり方をする。一から十まで教えたら覚えられないから、この原理ってどうなってると思う?と問いかける。私の師匠の受け売りなんだけど、大事だなあと思っていて。紐って日本人が昔から使ってるものだから言葉になってるでしょう。紐づくとか。紐解くとか。よりを戻すとか。そういう話をワークショップ中に入れながら皆で作っていくと、生徒さんたちもそれ楽しいですね、みたいな空気が生まれるの。
【加藤】そうすると一つ一つの作業が表情豊かになる気がしますよね。面白いなあ。
【marico】面白いですよ。小さい子とかもできるし、おばあちゃん達とかもできるし、それがいいよね。
【加藤】老若男女。
【marico】養護学校行ったりもしてたんだけど、老人ホーム行きたいなとか思ってて、行きたいところいっぱいあるんです。
【加藤】そういう意味では場所とかの制約もないし、年齢的な制約もないし、本当に自由に動けるから、機会があれば、どんどん次の機会を作れちゃいそうですよね。
【marico】アンテナ張って。
【加藤】後は自分を必要としてくれるところが見つけられれば。
【marico】それも本当にタイミングだから。
【加藤】できるから、できるから、と言って押し付けたいわけでもないから。
【marico】そうそう。ヘンプを好きに思ってくれる人達が増えてくれたら嬉しいしね。
【加藤】そうですね。元々、メジャーじゃなかったヘンプが、でも少しずつ広まっていって。
【marico】10年経つからねえ。
【加藤】すごい個人的な話なんですけど、最近、自分の働き方を50歳、60歳まで続けられるかということを考えていて、今のままで最後までできればいいんだろうけど、そういうわけにもいかないかなあというのが僕も10年くらいやっててしていて、どこかのタイミングでもう少し幅を出すというか、人を育てるというか、僕の後が続くようにするというか、そういうことを少しずつ考えないといけない年齢になって来たのかなあという気がしますね。
【marico】そうだよねえ。自分がずっと走り続けられるわけじゃないから。
【加藤】別に引退しようとか思ってるわけじゃないんですけど。
【marico】仲間が増えたら、私の考えを広めてくれる人がまた増えるわけだから。
【加藤】僕が良い歳になったら、それはもしかしたら、僕のものじゃなくなるのかも知れないですけど、そういうバトンの受け渡しとかもなんかすごい楽しいことだし。ただそこを焦る気はないというか。そんな感じでやっていければいいなあと思います。
【加藤】最初に会った頃に、似たような仕事の仕方だねえという話をしていて、なんかお互い、ここまで同じこと続けられてるってのは、ありがたいことだなあと思います。
【marico】ホントだね。私思うんだけど、10年やりたいことを続けると、絶対なんかしら形になっている。ダンスもそうだったんだけど。ダンスは20年なんだけどね。気づけばそうなってて、続けようと思って続いてたわけじゃなくて、気づいたらそんな時間が経ってたんだけど、好きだからね。
【加藤】好きなことを続けられるのは、多分才能なので。
【marico】相変わらず商売ベタですけど。
【加藤】でも、そう考えると次の10年楽しみですよね。
【marico】本当にそう。次の10年もまた変わるだろうな。
【加藤】10年後にまたヒューガルデン飲みながら総括できるといいですよね。
【marico】そうだね。

hempアクセサリーデザイナーのmaricoです ワークショップや作品を通じてhempを知ってもらい、きっかけとして少しでも環境に興味を持ってもらえたら良いな~と考えていたり☆ hemp編みながらビールを呑むのが好きな、ただの祭り好き そして・・・もう一つの顔は、ダンサーであったりもwww