坂田 一倫
2012.11.27
「Non-Designer UXer」
坂田 一倫 - 楽天株式会社 UX ストラテジスト / エバンジェリスト
高校と大学のラグビーの後輩にあたる坂田一倫君。学生の頃からデザインが好きだったようで、ただ、僕とはちょっと違う志向性だったようで。彼の口から、徐々にUXという言葉を聞くようになって、気がつけば、UXの専門家として仕事をするようになっておりました。
とは言え、あんまり洒落た話になってもなんですから、そこはラグビー仲間、アメリカンダイナーで肉をほうばることを楽しみに、まずはひとまず、UXについて講釈してもらうことに。チームのキャプテンをしていた当時の彼とは、また違う顔ですね。
UXってなんだ?
【加藤】こないだ若い子とUXの話をする機会があったんだけど、UXがさ、と言ったら、そもそもUXってなんですか?って言われちゃったんだけど、まだあまり市民権はないのかなあという感じもしていて、今、UXについてどういう説明の仕方をしているの?
【坂田】端的によく訳されるのが、その名のとおりユーザの体験です。最近ではUXって固有名詞になってしまっているので、正式名称はユーザ・エクスペリエンスなんですけど、人はもうUXって覚えちゃっているので、しまいにはUIとUXが混同されていたりします。僕は最近ではUX業界じゃない人、サービスをやっているような人と動く時には、UXって言葉を使わないんですよ。どちらかと言うと、カスタマー・エクスペリエンス、ユーザではなくお客様というように位置づけしてあげた方がわかりやすいんですよね。ユーザと言ってしまうと、二の足を踏んでしまうというか。
【加藤】実態がサービスをやっている人にとって掴みづらいということだね。
【坂田】だからカスタマー・エクスペリエンスを作るのをお手伝いする人です、って言ってます。
【加藤】それってでも10年前とかにカスタマー・エクスペリエンスと言ってた頃とは毛色が違うわけだよね。
【坂田】毛色は違いますね。色々な呼び方があって、UXとかカスタマー・エクスペリエンスを向上させるプロセスがISOという国際規格に定義されているんです。HCD。
【加藤】Human Centered Design。
【坂田】古くはWEBサイトのアクセサビリティやユーザビリティをどう向上させるかから始まって、徐々にUXという言葉がそこから派生したんですけど、最終的にHCDはUXの向上を目的としていて、HCDのゴールはUXと位置付けられたんです。それからUCD、UXを向上させるデザインという考え方が生まれてきて。
【加藤】それは、User Centered Designってこと?
【坂田】そうです。ただ、なんでISOではHCDって言ってるかというと、例えば業務支援ツールとか、社内のツールを作る時にユーザって言い方もおかしいでしょう、社内の人間なのに、というところで、UじゃなくてHだよね、Humanだよね、というところでHCDになったんです。そこからまた元に戻っていると思っていて、昨今UCDって言われているものが色々なところに取り入れられてるんです。アジャイル開発は、エンジニアがビジネス価値が見え辛かったり、効率よく開発できないってところから、ユーザのインサイトを取り入れつつビジネスを効率よく回していくためのものです。元々UCDのエッセンスはアジャイル開発に入ってるんです。かつ、ここ1、2年の話で言うと、サービス・デザイン、それはどちらかと言うとサービスサイドの人間が、より良いサービスを作るためにデザイン・シンキングみたいな考え方を取り入れて、サービスを作っていく、ということが行われていますし、サービス・デザイナーという人もいます。
【坂田】サービスのデザインとなると、ユーザだけじゃないんですよね。Eコマースだったら、店舗さんもそうだし、見なきゃいけない相手が増えます。だから突き詰めて考えないといけないのは、UXじゃなくてHX、ヒューマン・エクスペリエンスなんじゃないの?というのに逆戻りしている気がします。もっと大きな枠組で、ユーザだけじゃなく、サービスを充実させるにはどうしたら良いか、ということを考えないといけないと思います。ユーザに取ってのサービスって、それ以外の人が関わっているからこそ成り立つものであって、店舗さんのことも考えないと、お客様に気持ちよく買い物していただけませんし、そういう意味でヒューマン・エクスペリエンスということを言っています。
【加藤】だから、単一のプロジェクトを見ている間では最初言っていたUXみたいな視点でよかったんだけど、例えば会社としてサービス全体を見るとか、事業部として事業全体を見るとか、裾野を広くして言った時にUXという言葉だと足りなくなって来るということだよね。
【坂田】ユーザになっちゃうと視野が狭くなっちゃうんじゃないですかね、どうしても。
【加藤】それはフォーカスの範囲ということだよね。どこからどこまで面倒みるかで、方法論が変わってくるという。
【坂田】そうですね。
【加藤】そういう意味で言うと、楽天でUXをやってる、というイメージがなかなか皆湧きづらいんじゃないかと思うんだよね。でも、単一の楽天のサービスというよりは、もう少し広い視野でやっている仕事なのかね、よくわからないのだけれども。
【坂田】そうですね、横串で見る場合、楽天というグループ全体で見る場合と、縦串で見る場合、サービスごとに縦で見るという場合とを独りでやっています。
【加藤】独りでやってるんだ。
【坂田】そうですね。ただうち47サービスがあるので、全部見れるわけじゃなく、いくつかに絞ってやってるという感じです。よく楽天でUXやってますって言うと、皆さん、いわゆる楽天のページを思い浮かべるわけじゃないですか。でも、中に入ってみて面白いのは、楽天ができたのが1998年。その頃はインターネットが普及してなかった、Eコマースショップなんてなかった、というのが前提で。
【加藤】僕が仕事始めた年ですね。
【坂田】今で言うAmazonもなかったわけですから、こういう風にネットショップをするんですよ、という前提がまずなかった。ユーザビリティって概念も出始めたところだったので。
【加藤】なんだっけ、ヤコブセンじゃなくて、ニールセンじゃなくて。
【坂田】ヤコブ・ニールセンですね。だから前例ない中でエンジニア主導で組んで、そこから派生して今があるんですよ。歴史を辿っていくと、それがデファクト・スタンダードになってしまっていて、逆に言うとあれが使いやすくなっちゃってる。怖いことに、最近痛感しているんですけど、ユーザって学習できるんですよ。学習できるのでロボットじゃないので、確かに一見、楽天のページを見て使い辛いだろうと思うかも知れないですけど、よくよく使ってみると使えるんですよ。
【加藤】実は俺、楽天ダイヤモンド会員でさ。すごい使ってて。あれはデザインとしてどうなの?って話はあるんだろうけど、あれはあれで文化として日本に根付いたのかな、という気がするよね。
【坂田】うちのポータルは置いておいて、それこそ店舗さんのページ、一枚長いじゃないですか。最近、社長が言っているのは、長いことこそアイデンティティだと。うまい言い方をすると、あの一枚で商品の全てを語ってるんですよ。よくよくサイトを分析してみると、ちゃんとストーリーになっているんですよね。丹精込めて作ってますとか、丁寧に包装してますとか、お客様の声をいただいてます、どうかお買い上げいただけますか、という。そういう意味ではUXを意識しているんです。
【加藤】とは言え、僕の立場からしても楽天のやり方がベストだとは言えないと思うんだけれども、楽天のやり方は方法論としてあるし、あれが機能しているところでは機能しているし、逆に言うと、一つのエコシステムの中で、あたるものもあれば、あたらないものもあるわけでしょ。でも少なからずあたるものを出せるというのは、それなりにフェアなプラットフォームになっているのかなという気もするよね。
【坂田】エコシステムの話になりましたけど、サービス間のシナジーとか、楽天って47もサービスやっているので、お客様との接点が増えているんですよ。ショッピング以外のことで。そこをなんかもっとデザインしていきたいなと思います。それこそ本当にエクスペリエンスなので。
【加藤】いわゆる、コンタクト・ポイントってやつだね。
【坂田】そうですね、増えてるので。
エヴァンジェリストからファシリテイターへ
【加藤】あと聞いてみたいなあと思っていたのが、とは言え、僕の周りでUXやってる人って、例えばモバイルデバイスのアプリ系やってたとか、WEBサービスの設計やデザインやってたとか、いるんだけど、ある意味、坂田君ってNon-Designer UXerみたいな感じじゃん。元々デザインの畑にはいたけれども、手を動かすデザインを元からやってない状態でどんどんUXに入ってった。僕らは30代なわけだけれども、これから、最初からUX、という人が増えてくるのかなあという気がしていて、坂田君が今UXの業界へNon-Designerで入っていって、周りには元々デザイナー、という人も多いと思うんだけど、その辺の温度差とかあるのかなとか、逆にやりやすかったりすることとかあるのかな、と思って。
【坂田】そうですね。Non-Designerからのユーザ・エクスペリエンスのスペシャリストってなかなか認められ辛い。そういう意味では当時抵抗はありました。やはり経験が担保するというところもあって、経験から得られる信頼ってあるじゃないですか。
【加藤】いわゆる、実績だよね。
【坂田】となると、ペーペーがUX周りやってます、と言うと、なんじゃおまえ、と突っ込まれる時はありましたね。そういう時に意識したこととしては、確かに僕は深くデザインをやってないですけど、バックグラウンドとして、僕はユーザというより人間そのものを見るようにしてます、という言い方をしていて、僕がサイトを設計したりサービスをデザインしたりする時に意識しているのが、人間がこう考えるからサービスとしてこうあるべきだ、ということなんですね。ベーシックなところに立ち戻ってアプローチするということを最近していて、人間工学とか、脳科学を勉強したり、人間のメンタルモデルや思考プロセスを踏まえてデザインしましょうとか、その領域に入っていかないと、説得力が働かないと思うんですよね。デザインの話になると、誰でも口出しやすいんですよ、システムよりも。見えるので。そうじゃなくて、人間としてはこういったものが使いやすいと思います、ということが言えないと、表に見えるだけの世界をなかなか超えられないので、そういうところを自分の強みにしてやってきた、というところがあります。
【加藤】こないだ、今度やるイベントの話をしていて、僕の仲間が言っていたのだけれど、UXデザインをする人はUXデザインをする人なんだけど、UX自体は皆で考えた方が良いものだ、という言い方をしていて、つまりUXを考える事とUXデザインは違う、ってところもポイントなのかなあと。
【坂田】違うんだと思いますよ。この職種は数年後にはなくなると思いますし、なくなって欲しいです。最近そういう仕事もしていて、デベロッパーの方がアジャイルを取り入れていて、ストーリー・マッピングしてお客様のストーリーを考えましょうとか、開発側の人間もお客様視点になって来ているんですよね。そういうことをやっていくと、僕ら抜きでも実装できるようになる。僕はそれで良いと思ってまして、僕は今中立的な立場で話をしますけど、彼らはサービスにコミットしているので、彼らに主導権があるわけです。ただ、その中で今後どう生きて行くべきかというと、ファシリテイターとかコラボレイターとしての位置付けが一番近いと思っていて、サービス・デザインとかアジャイル開発に、こういう手法を使ってみてはどうですかとか、こう工夫してみてはどうですかとか、ガイドしてあげる位置付けに近いんだと思うんです。さっきの話で言うと、デザインはしない。ただ、皆が考えるファシリテイトをしていくというのは今後の需要としては生まれつつあるかなと思います。
【加藤】古くはIDEO、Method Cardみたいな話で、皆で考えていくというのもそうなのだろうし、僕の昔のボスが、ブランディング・プランナーの仕事は、そこにブランディング・プランナーが必要なくなるようにする仕事、って話をしていたけど、それで似ているのかも知れなくて、今は組織に対するある種のエヴァンジェリストなんだと思うんだけれども、そのフェイズが終わったら次のフェイズがあるかも知れなくて、それがさっき言っていたファシリテイターとかコラボレイターとかいうことかも知れないよね。
【坂田】そうですね。そういう動き方をしていて、数週間前に楽天の全社朝会というのがあって、発表する機会があったんです。ビジネスの事業戦略にUXをどう取り入れるべきかというトピックで5分半、事例を取り入れつつ話したんです。そこで話した内容はカスタマー・エクスペリエンスの話で、お客さんは誰かというのを掴みましょう。その人がいつどこで何をどうしているのか視えるかしましょう、というのを訴えたんです。そうしたらフィードバックがかなりもらえて、うちでも取り入れたいんですけど、という需要もあって、皆さんわかってるんですそれが重要だと。だけど、やり方がわからないとか、わかってるんだけどどう形にしていいかわからないんです。だから、やり方を紹介して、どういう風に取り組むと良いと思いますよ、というファシリテイトが必要なんだと思います。
【加藤】実践するためのプログラムを導入してあげる、ということだよね。
【坂田】需要はあるということはわかったので。
【加藤】Gifteeを手伝っているという話もあったよね。あれはどんな感じでやっているの?
【坂田】Gifteeは正社員じゃないです。一応、アドバイザーとしてやらせていただいているという形ですね。あそこはスタートアップなので、大企業の楽天とはやり方が違うんです。スタートアップのやり方と楽天のやり方、カスタマー・エクスペリエンスの観点でどう違うのか、というのを知りたくて。
【加藤】それは僕も知りたい。
【坂田】スタートアップってやっぱり爆弾をいくつか抱えてるんですよね。資本金が切れちゃうとか、お客さんが来ないとか、次何をしていいかわからないとか、リソース不足だとか。そういうのがある中で、ユーザの母数も少ないので、果たして向かっている方向が正しいのかわからなかったりとか、そもそも成功事例がないので、不確実性が全てにおいて高い中でのユーザ・エクスペリエンスのデザインって、すごい冒険に近いんですよね。楽天であれば、ここをこうするだけで、どれくらいの効果の見込みがあるとか想定できなくはない。データも膨大にありますし。それこそビッグデータ。でもスタートアップには参考になるほどのデータはない。基本、仮説ベースで進むので、繰り返し検証するしかないんですよね。
【加藤】そういう意味では坂田君はGifteeにおいてどういう役回りをしているの?水先案内人というわけにも行かないでしょう。
【坂田】正しい意思決定をするための材料を揃えるということに近いですね。例えば、ユーザ調査を挟むタイミングとか、どこでサービスを変えたらいいか、というような意思決定をするための材料をかき集めるのが僕の仕事です。
【加藤】今日の話を聞いていてすごい思うのが、坂田君のやってる仕事って交通整理なんだよね、多分。
【坂田】本当そうですよ。
【加藤】UXという新しい概念とか、方法論とか、あるいは役割分担かも知れないけれども、そういうものが世の中的に必要とされた時に、役目的に何を担っているかというとすごい交通整理という感じがする。それがいわゆるファシリテーションということだと思うんだけれども、そういうことをやる人は中立である必要があって、中立性を保ちながら、自分がそのことについて一番勉強していますというやり方って、話を聞いていると結構機能しそうだなな、という気が、してきた。
【坂田】自分が自覚していることがもう一つあって、デザインって問題解決じゃないですか。問題があって解決してゴールがあるという。ユーザ・エクスペリエンスのデザインも、問題解決なんですよね。いかに優れたユーザ体験を実現するための問題解決をデザインするかという。だから問題を見つけてあげて、正しく解決するための、交通整理。よく相談受けるのが、UIリニューアルしたいんです、とか、サイトリニューアルしたいんです、ということなんですが、変えたいのわかりました、でも何を変えて何をメッセージとして打ち出しますか、という時に、解決するものがないと、変わったことにならないですし、リニューアルしても、問題が放置されたものだと、変えたことがマイナス面に取られてしまうので、問題を深彫りするところから始めています。最近、デザイン・シンキングって言葉が普及してますけど、僕はデザイン・シンキングの前にロジカル・シンキングだろと思っていて、問題がどこにあって、解決するための論点が何と何と何で、それをどうやって解決するのか、それを解決するためのエビデンスとしての情報は何があるのかというのをきちんと分析して導きだすかというのに取り組んでいます。
【加藤】今聞いてて思ったんだけど、実行部隊は他の人がやるわけじゃん。という時にその実行部隊が動けるように説明材料を揃えるのも坂田君の仕事なんだろうなという感じが今すごいして、問題がどうでこうだから、というところのロジックがはっきりしてないと、動く人たちも動けないよね。
【坂田】要件、を出した時に、なんでこれやるんですか、という説明をする義務があるわけじゃないですか。こういう問題があって、こう解決すれば、こうなるからなんですよ、と話せれば理解してもらえる。そういう共通の問題意識を持つためのファシリテーションが自分の仕事でもあるので。あと共通課題があると、皆が議論に乗りやすいんですよ。
【加藤】同じプラットフォームに乗せてあげるということだよね。共通の言語で喋れないと、というのが、専門の言語を理解しているかということではなくて、共通の問題意識を持っているかということになる。
【坂田】IDEOのデザイン・シンキングも発端はロジカル・シンキングなんですよね。ユーザ・オブ・ザ・ベースで観察をして、問題がどこにあるか突き止めて、そこからブレストをしてアイデアを作って、それを繰り返して。そのプロセスで行われていることはロジカル・シンキングなので。
【加藤】そうするとやはり色々なものを見た方が良いのだろうし、観察力とか洞察力が試させるんだと思うし、坂田君みたいに色々なことに興味があるのは良いことだと思うよ。
【坂田】ミーハーですからね。
【加藤】ああ、僕もミーハー。
UXerを偏在させる
【加藤】ミーハーついでに、もう一つ話がしたかったのが、最近、Chiris Andersonが『MAKERS』出して、3Dプリンタとか使って、色々な人が世の中を革新できるハードウェアを作れるかも知れない、という時に、この国はずっと「モノ作り日本」と言われていて、基本的にはハードウェアを作って国を育ててきたわけでしょう?というところで、UXというものが、最初はOSのUIから始まり、ブラウザが出て来て、WEBデザインがあって、実はそれと並行してゲームの話があると思うだけれども、そういう経緯を辿ってきた中で、ハードウェアそのものにUXがどういう影響を与えられるかというのがすごい興味があって、坂田君はどう思っているのかなあと。
【坂田】そうですね。設計している側としてはかなりハードウェアに対しては限界があると思っていて、WEBサイトというのを見ると、最近はデバイスが増えてきましたけど、基本的にはモニタとマウスとキーボード、というハードウェアのインターフェイスは変わらないわけですよね。
【加藤】タッチデバイスは出てきたにしろ。
【坂田】結局それらありきになっちゃう。僕、本来やりたいのはハードウェアからの設計。Appleがやったように、ハードウェアからソフトウェアまでに完全なエクスペリエンスを提供する、ハードウェアに最終的には手をつけないと優れたものはできないと思うんです。机と椅子でパソコンに向かっている、という状態で使ってもらいたいんだっけ、このサービス、もっとカジュアルにフィンガー・ティップ・ユーザビリティで気軽にブラウジングしながら買えればいいよね、と思うと、ハードウェアから携わりたくなる。だから向かっている方向としてではありだと思いますし、良い方向に向かっているなと思います。
【加藤】それはわかりやすい話だとパソコンの周辺とか、AV機器とか、ゲームとかだと思うんだけど、例えば生活家電とかどう?
【坂田】そうですね。スマートフォンで冷蔵庫のエコがわかるとか、洗剤の量を調整できるとか、身近なデバイスを経由して、操作ができるというのはありだと思うんですよ。ただ惜しいなと思うのは、デバイスならではの特性を活かしてなくて、モバイルデバイスって通信だから本来的には遠隔操作が味噌なんですよ。今いるスーパーから家の冷蔵庫の中身が確認できたりとかするのが潜在的なニーズだと思うんですけど、そこまで辿り着いてない感じがします。それは多分ハードの限界があるから、通信の限界があるからだと思っていて、それさえとっぱらってしまえば、僕は良いと思っています。
【加藤】それはジャストアイデアなんだけど、僕が思うのは、冷蔵庫を作っている人達には冷蔵庫を作っている人達のロジックがあって、モバイルデバイスを作っている人達にはモバイルデバイスを作っている人達のロジックがあって、今両方の専門事業部から人が出てきて、じゃあどうしましょうかね、ということをやっているんだと思うんだけれども、そこにファシリテーターが必要なんじゃないかと思うんだよね。それが単純に情報家電という話じゃなくて、ちゃんとUXを、例えば一人暮らしの僕の家でどういう風に実践したらいいんですかというペルソナが考えられる人が多分必要で、そういうことができる人達がそういうところにポツポツポツって入っていければ面白いんじゃないかなあと。
【坂田】まさに会社で言うとサービス事業部とサービス事業部をかけ持つということに近くて、2つあるとお互いが違う目的に向かって走るので、どうしても食い違っちゃうんですよね。だから間に立つ人とか、合併会社作るとか、していかないと、お客様の声には応えられないんじゃないかと思います。
【加藤】だから横串と縦串って話だよね。まさに。だから面白いと思うのは、坂田君がUXに対して今楽天でやっているようなやり方をあんまりする立場にある人がいないんじゃないかなあ、という気がしていて、これから坂田君みたいな動き方というか、組織での位置付けをもらえる人が、色々な会社に増えていったりすると、面白いんじゃないかな、という気が話を聞いててしたな。
【坂田】逆にファシリテーターとしての価値を理解してもらうのは難しいんですよ。アウトプットがないから。
【加藤】それさ、ファシリテーターを育てるにはどうしたら良いと思う?坂田君もそろそろ30歳近くなってきたわけだしさ。
【坂田】多分、役職にとらわれずに、本質を捉えられているかだと思っていて、それができるなら所属はどこでも良いと思うんですよね。根底にある考え方とか見方を失わないようにするにはどうしたらいいかというのを常に意識していて、そういう人が次代を担うと思うんですよ。僕がよく言うのは、エゴを捨てる人ということで。
【加藤】ある意味での美学だよね。
【坂田】そうその美学を捨てれる人。自分が評価されることも必要なんだけれども、僕はUXデザイナーなので、こういうことができます、させてください、ではなくて、あくまでも手法なので、自分の全体における立ち位置を理解して、エゴを捨てて、何のためにやるのか常に把握しながら全体のバランスを見て取り組む、というのが大事だと思います。だからラグビーに近いですね。
【加藤】西洋医学って対処療法なわけじゃん。問題が顕在化したら手術するなり薬を投与するなりする。東洋医学って言うのは体調が悪くなるきらいがある時に、それを顕在化する一歩手前で見つけて、それに対して予防の手を打っていくって話じゃない。UXの話って、なんか骨折りました、みたいなことを解決するって言うよりも、そういう病巣の芽になるものを見つけて、早めに対策してあげるってことなのかなあと。
【坂田】やってることは医者に近いので。
【加藤】さっきも言ってた問題を見つけるというのは、見えやすい状態になってれば皆わかるでしょう。そういう話ではないってことだよね、UXの話って。それをやっていくと中長期的に良い結果が見込めるんじゃないかという。
【坂田】骨折しませんよ、と。どうしても中長期的になってしまうんですよね。
【加藤】短期的な成果が見え辛い。
【坂田】見え辛い。どうしても事業者の立場からすると短期的に効果が見えるものを求められるんです。長い目で見て、というのは費用対効果が見え辛いというのがあるので。そういう時の説得材料は毎回迷いますけどね。
【加藤】それは先輩が常に正解を持っている、という業界でもないわけだから、試行錯誤の中でやっていくしかないわけでしょう。
【坂田】そうですね。後はそれありきで、スタートアップとかに入っておくという。そういうポジショニングを確保するのも重要だと思います。
【加藤】ところで今週29日にイベントがあるんですよ。石巻工業高校の生徒さんにUXを教えるという、割とチャレンジングな内容で、何か坂田君として思うところがあれば。
【坂田】僕だったら、より身近に感じてもらえるようなことをやりたいですね。普段から自分たちも一人の客として人間として、UXは常に身の周りにあるものなんですよ、ということを理解してもらいたい。災害の経験とか、カフェで友人と話す時とか、家での親との会話とか、そういった体験を視える化してもらいたい。なんでそう思うんでしたっけ、という。それってデザインされているものかも知れないし、何を以てそういう経験をしたのかということを、絵日記みたいにしたら良いと思う。絵日記もすごいエクスペリエンスなんですよね。
【加藤】あれはすごいそうだよね。
【坂田】そういう身近になるものなんですよというのを、理解してもらいたくて、そこに目をつけてデザインをしている人もいるんですよ。それが僕みたいな職種であって、そういうことを加味してデザインするのがUXのデザインなんですよね。
【加藤】そうやって、ある意味、すごくつまらないことが最先端になってしまったというか、良くも悪くもね。本当はすごい身近で当たり前のことを言ってる話じゃない。UXの話って。それがすごい特別なものになりかけちゃっているのを、うまく人が自分の仕事や暮らしと紐付けて考えられるようになるといいなあと思う。
【坂田】恋愛とかもそうじゃないですか。あの子と付き合いたい。あの子とどうしたら付き合えるか。どうしたら喜んでもらえるか。あれも完璧にエクスペリエンスであって、デザインしたのは自分なんですよね。そういった本来普通に持っている力をいかに身近なものにできるか。全然特別じゃなくて、身の周りにある、皆がやっていることなんだと思います。
【加藤】当たり前なんですよね、というのがもう少し当たり前になったら、日本のモノ作りも変わってくるのかなとも思うけど、そこまではまだまだ険しい道程のようにも思うので、頑張ってください。
【坂田】頑張ります。

坂田 一倫(サカタカズミチ)
1984年、ブラジル生まれアメリカ育ち。楽天株式会社に務める UX ストラテジスト / エバンジェリスト。2012年4月より株式会社ギフティの UX アドバイザーを兼務。インターネットメディア企業でユーザエクスペリエンス設計業務を担当する人が集うコミュニティ ShibuyaUX を主宰。HCD-Net 認定 人間中心設計専門家。Web サイトからモバイルまでを含めた戦略立案、ファシリテーションを行う傍ら、人間中心設計思想の導入と普及を目的とし、インターネット企業に出向いて人間中心設計ワークショップを担当。
現在は来年2月に開催予定の情報アーキテクチャのコミュニティに関わる人々を結集するイベント World IA Day (WIAD) のコーディネーターとして活動中。