舟越 奈都子
2013.01.29
「アートへのホスピタリティ」
舟越 奈都子 - 一時画伯推進委員会 副推進委員長 事務局長
僕が9月に石巻に行ったのは一時画伯というプロジェクトのワークショップのサポートスタッフとしてでした。実は一時画伯に関しては僕はそもそもWEB制作を仕事として請けていて、そういう意味では外部からお手伝いする立場だったのですが、去年の夏を境に、メンバーとして中に入ってお手伝いすることになったのです。その一時画伯推進委員会の副推進委員長であり、事務局長を務めるのが、舟越奈都子さんです。
一時画伯には色々な人達がいて、それぞれに一時画伯のことを聞いたらそれぞれに面白い話が聞けると思うのですが、どうしようという時に、割と素直に舟越さんに聞きたいという僕の動機もありまして。そういう目論見自体もインタビューに見え隠れしていますが、舟越さんの会社近くの鳥からあげの専門店で、ジョッキ片手に語らった、事務局長とのお話です。
アーティストによる子ども向けワークショップ プロジェクト、一時画伯
【加藤】唐桑でのワークショップが昨年内最後だったんですね。あれは何名で行かれたんですか。
【舟越】一時画伯の役員から、私、流 麻二果、田中裕人、担当アーティストの渡辺元佳さん、フォトグラファーさんとデザイナーさん、ですから東京からは6人。現地で合流した宮城大関係の人達が4人。
【加藤】あの時、写真素敵でしたよね。
【舟越】そのフォトグラファーさんが渡辺さんの仲良しの友達で、元々、9月の石巻も行こうとしてたんですね。
【加藤】僕が伺ったやつですね。
【舟越】そうそう、一時画伯での渡辺さんのワークショップや子ども達を撮りたいと言ってくれていて。ただ、フリーのフォトグラファーなので、日程調整がなかなか難しくて。2回調整して、2回とも調整つかなかったんですけど、3回目の正直だったんですよ、今回。
【加藤】一時画伯って基本的に専従の人はほとんどいないというか、皆さんお仕事持ってらっしゃいますものね。そういう意味じゃ常時見てるのって舟越さんくらいですよね。
【舟越】私、会社にいる時にもやらせてもらっていて、今の会社との縁も一時画伯からなので。
【加藤】今、一時画伯ってどういう説明の仕方をしているんですかね。
【舟越】基本のコンセプトは子ども達のためにアートのないところにアートを、ということですね。一時画伯の発起人で画家の流 麻二果もそうだし、私もそうなんですけど、家族や親戚にアート関係の人間がいるので、小さい時に美術館などに連れていってもらったりとか、アートに触れることのできる環境に育っているけれど、一方で、美術館に一回も行かない子たちって、結構普通だったりするじゃないですか。でもそれじゃもったいないよね、ということ。小さい時にアーティストという何かをクリエイトすることを生業としている人に出会って、なにか作ったなという思い出や時間を共有して欲しいんです。上手い下手じゃなくて、作って楽しい、アートって楽しい、という気持ちを芽生えさせる。「アーティストになって」、ということではなくて、こういう世界もあるんだよ、ということに触れてもらうというのがメインのコンセプトです。ただ、震災後に集まったメンバーなので、今は復興支援という形で東北を中心に活動をしているということですね。
【加藤】そういう話って、震災の前から流としていた話だったんですか?
【舟越】全然していなくて、彼女との出会いは前の職場で私が美容師さん向けのイベントと雑誌を作っていて、美容師さんとアートをもっと繋げたいというのがあったんです。その時に美容師さんを話の聞き手にして、アーティストとのトークイベントをしたいと思ったんですよ。美容師さんもクリエイターだから、クリエイト、作るということが共通。カタチを生み出す、ということが。ただ、アーティストが美術評論家とかと対話すると、オーディエンスにとっては難しく距離を感じる話になってしまう可能性が高い、読者とイベント参加者は、基本的には美容師さんや美容学生さんだったので、自分と同じ立場にある人がアーティストに話を聞くイベントをシリーズでやりたいと思って。アートキュレーター・ディレクターの清水敏男さんの事務所の方に、こういうイベントをやりたいんだけれども、誰か良いアーティストさんいませんかと相談したところ、紹介してもらったのが流だったんですよ。美容師さんを「チャライ感じの、アートなんてよくわかってない人たちでしょ」と決めつける人ではなくて、違う分野でクリエイトしているということを、面白がってくれるというか、一緒にクリエイターとして位置づけるアーティストさんを探していて。そこで流と出会ったんです。
【舟越】その後、TwitterとかFacebookでは繋がっていて、震災があった時に流が子ども達の心のケアが心配だから、ワークショップをやりたい、というのをアップしていて、それに私を始めとして、そうだそうだ、と賛同した人の中から、最初に戦力になる人ということで、イベント企画している人間とか、キュレーター事務所にいる人間とかを彼女がピックアップして、集めて、最初は流とキュレーター事務所の中村と私で集まって話しているうちに、中村が田中を呼ぼうと言ったんです。彼は活動や団体を組織化するということをやって来ているから、皆繋がって、やりましょうということになり、そこで規約などを作って、団体としてスタートしたというのが最初です。
【加藤】あれですね、子どもの時に体験していたアートとの接点を作るということを、一時画伯で初めて挑戦した、というよりは、結構今までの仕事の中で、そういうことを試みてきたってことですね。
【舟越】そうですね。面白いことに私はアートを作る人間ではないんですけど、一応美大を出ていて、ただものすごい作るの苦手なんです。絵を描いたりとか、工作したりというのがすごい苦手で、ただデザインすることは好きだから行けたんですけど。学校の成績は本当に悪くて、図工、ずっと3とかだったんですけど。カトリックの学校だったので、小学校の図工の先生がシスターだったんです。クラスで器用な子っているじゃないですか。そのシスターが、その子と私を良い例、悪い例って比較したんですよ。こちらはこんなに早くて上手いのに、舟越さんはまだこんなことやってるんですか、みたいな感じで。小学校低学年にしたらすごくショックじゃないですか。しかも、優しいと思いがちなシスターに...。
【加藤】トラウマ、ってやつ?
【舟越】うん、えっ、という。そういう経験がたまたまあって、一時画伯で最初のワークショップをやった後に、スタッフの人と飲みながら打ち上げをしていた時に、結構そういう経験を皆持っている話になって。アートの現場に関わっていながら、そういう経験を持っている人が何人かいて、でも一時画伯でやる以上、そうじゃいけない。
【加藤】ある種の反面教師というか。
【舟越】上手いから良いよじゃなくて、甲乙はつけたくないんですよ。「これかっこいいね」とか「これかわいいね」とかはあるんですけど、「これじゃだめだよ」って言う。そうならないように見てあげる。絵の具とかも「これとこの色を合わせたら綺麗なんじゃない?」とか、あくまで主体は子どもなのだけど、混色の仕組みがわからない年齢の参加者も多いので、「これとこれを合わせたら真っ黒になるだけ」というのは避ける。そういう絵の具を傍に置いておいたりとか、「どの色が好き?」って聞くとか、強制はしないでその時間を楽しめるようにして点数は絶対つけないというのがスタッフ皆に共通してもらっている意識です。
【舟越】ワークショップのプログラムは、アーティストが作っていて、小難しいことはやらないワークショップになるんですけど、例えば渡辺さんは、すごくストーリーがあるんですね、彼のワークショップって。カキがモチーフだとしたら、こういう気持ちになるんじゃない、とか、相手のことを考えて作ってくれるから、そういう意味で制限は全然ないんだけどその子のペースで自由にできるという感じでやってくれてます。彼のキャラクターもあるけど、こうしなさい、こうしなさい、じゃないので、それはすごく一時画伯のコンセプトをわかってくれている。アーティストではない人がお絵かき教室をやります、というのとは違いますよね。オリジナルの何かというのが絶対生まれるようになっているので。
【加藤】舟越さんの話聞いていると、結構「アーティストじゃないので」って出てくるんですけど、逆にそこの立ち位置を明確にされてるから、すごいなあと思って。
【舟越】見ると全然違うなって思いますよ。渡辺さんだけではなく流も山上さんも岸本さんも、私がこれまで立ち会ったワークショップのアーティストは、間違いなく全員そうです。この人が筆を持ったらとか、粘土を握ったらとか、そこから生み出されるだろうっていう瞬間がアーティストさんにはあるんですよ。私にはない。なんかすごいものが生まれるぞっていうのがワクワクする。その瞬間というのを色々な人達に体験してもらいたいというのはありますね。
舟越さんの行程表
【加藤】アーティストによるワークショップだから、ってところはあるんですけど、一方ででも回していくのに、舟越さんがやっておられることも絶対必要だなあと思っていて、多分、チームスポーツじゃないですか。一時画伯でやってることって。そこでうまい役割分担ができてるのがすごい面白いなと思っていて。僕が行った時の行程表が出てきたじゃないですか。すごいなあと思って。
【舟越】あれ、やらない人はやらないで済むんですよ。私はそれは性格です、完全に。特に加藤さんが行かれた石巻の時は、自分が行かないっていうのがわかってるんだけど、前準備しているのは私で。ということは、どういうやり取りがあって、どうなってるのかということを確実に伝えないといけないわけですね、行く人に。となると、どういう荷物があって、どういう工程で、どういう人が関わっていて、誰に対して何を決めてどういう風に動いてもらわないといけないのか、というのが私がいなくても見てわかるようにしないといけないので。
【加藤】ですよね。あれ意図が組み込まれている行程表だなと思って。僕もたまにイベントの立ち会いとか、ビジネスでツアーみたいなことに帯同する機会もあるんですけど、今回のが一番よくできているというか、動きやすい感じがして、だから舟越さんに一回インタビューしたいと思ったんです。
【舟越】ありがとうございます。でもね、あれは本当に性格だと思いますよ。任せちゃえ、って決断力のある人だったら、あそこまでやらなくて良いでしょうし、裏を返せば皆を信用してないのかってなっちゃうんですけど、でも落ち着かないんですよね。向こうに行って変なことに時間を費やしてもらいたくないし、やり取りした人が東北に住んでいて、その人達の時間をもらってやるわけだから、スムーズにできるように、後はアーティストやスタッフを無事に東京まで帰れるようにしなければいけないので。あと、仕事でヘアカットライブのシリーズを担当していたことがあったんで、そういう意味では分刻みでここで〇〇さんがはさみ入れます、ここでブローします、照明変わります、というのの表を作っていたから、それと同じような感覚かも知れないです。本番までのシミュレーションを紙の上で10回とか20回とかします。私の場合、イベントごとは大体そうで。想像して、でも紙通りに行かないことってたくさんあるので、紙のスケジュールからそれた方が良いこともたくさんあるから、それは本当にその場その場で良い判断があるだろうし。ああいうのがなくても動ける人はいっぱいいますよ。
【加藤】でも、なんて言うかな、なんかの担保になってる気がするんですよね。仮にそういうものがなくても動ける人にとってみても。僕商売柄企画書みたいなものを結構書かなければいけないんですけど、頭にあるうちはある種形のないものじゃないですか。それをある種形のあるものにしないといけないという作業があって、さっきのアーティストじゃない、って話しありましたけど、それが企画書であっても、行程表であっても、やらなきゃいけないことは基本的には一緒で、その構造はすごい楽しい気がしますし、大変なんだろうけど、楽しんでやってるんだろうなと思いながら。
【舟越】私たちはワークショップの内容に関してはほとんどいじらない、ワークショップが始まってから終わるまでは、アーティストにタイムスケジュールを作ってくださいとも言いますし。アーティストによって準備の仕方が全然違いますし、例えば流は画家だから絵の具を選ぶことにすごい慎重で、渡辺さんは彫刻家だから絵の具選びよりも、モノを成形する、カキ殻を作るみたいなことにすごい緻密で、それはやっぱりアーティストさんそれぞれでこだわるところが違う。わかりやすい例えとしては流はワークショップのレイアウトなども前もって決める。事前に図面をもらえる時はもらって、割と作っていく。渡辺さんはホワっと決めていて、現場であわせていくタイプ。それはそれぞれの色なので、最初のうちはわからないところもあったけど、一回一緒にやると、この人はこういうやり方で大丈夫な人なんだってわかっちゃえば、それからはお任せできますし、それぞれのスタイルがあります。あと、私、デザイン科にいたので、デザイン科と彫刻科って本当に違うんだなと渡辺さんと会って思ったんですけど、この筆は予算的にちょっと買えないんだよね、というと、私だけかも知れないけどデザイナーとしては筆がないならどうしよう、となっちゃうんですけど、渡辺さんは作っちゃうから大丈夫です、ってなるんですよね。
【加藤】割り箸ペン。
【舟越】その場にあるもので代用OK。
【加藤】すごい当たり前の話していいですか。前から美容(ヘア)とアートのカルチャー誌のお仕事をされて来たってうかがってて、一時画伯もアートの仕事だと思うんですけど、でも今日改めて話を聞いていると、基本的に人というか、特殊な技術を持っている人というか、特殊な才能を持っている人のために、どういうマネージメントをしていくかって部分が共通しているのかなあと感じました。
【舟越】ここ最近ですよクリエイターの人と仕事をしていると、色々なアイデアが出てきて、それを実現させる側にいて形を作るというのがすごく面白くて、それは今の会社の仕事でもそうですけど、プレゼンシート作る、レイアウト作るというのでも同じだし、何か人の考えを形にしていくのは楽しいです。
【加藤】僕も最近他力本願なプロジェクトばかりやっているので、気持ちはスゴイ分かります。絶対自分じゃできないもん。あと、一時画伯は特徴的だなあと思ったんですけど、たまたま昨日やってた友人のワークショップがそうじゃないからなんですけど、ダンボール三箱になるじゃないですか。あれ大変ですよね。
【舟越】そうなんですよ。ただこれまた性格で、多分私じゃない人が荷造りしたら多分減るんですよ。小学校の時から荷物多いと言われるタイプで。保険でこの絵の具がなくなると困るから、じゃあ代わりにこれも入れておこうとか。自分がアーティストで自分がやるのであれば、なくても大丈夫、って判断できますけど、そうじゃないから。なくなったら困るだろうと思うと。
【加藤】世の中的に、「万全の体制」って言葉としてあると思うんですけど、なかなかやろうと思えないというか。
【舟越】ただ東京でやるんだったら、何か足りない物がでてきた場合に100円ショップで買って来ます、で済みますけど、そうじゃない場所での開催も多いですし、向こうの人にモノを借りたり、というのもなるべくしたくないというのもありますし。
【加藤】僕はたまたま舟越さんが同行しない時に行ったんで、そういう事務局側のホスピタリティみたいなものが、道具とか行程表とか、ああいうものに落とし込まれているのが目に見えてわかったので、スゴイ楽しい、というか勉強になりました、というのが感想です。
【舟越】やっぱり誰が見てもわかるものを作らないと。
【加藤】僕、一時画伯超初心者で行ったしね。
【舟越】いやいやいや。自分が行った方がよっぽど楽なんですよ。本当は。別にあんなにリストを完璧にしなくていいし、自分の頭に入っていればよいし、新幹線の中で打ち合わせすればよいし。でも自分が行かないとやっぱり不安になっちゃう。
【加藤】よく属人的、ってことばありますけど、ノウハウが全て人に収斂されちゃうと組織って回っていかない部分があって、多分舟越さんが作っているマニュアルとか、って言うのも後のことを考えたら、それ自体が受け継ぐべき資産になったりするわけじゃないですか。別にどっかで引退してください、とか言ってるわけじゃなくて。そういうのも大事ですよね、一方で事務局の資産を残していくというかさ。
【舟越】まずは自分が楽なようにしないと、というのはあるので。
【加藤】そうじゃないと次の人も楽できないですしね。僕それラグビーのチームとかリーグの運営とかでスゴイ思います。
【舟越】そうですよね。そうだと思います。あと後でこの資料が必要だと言われた時に、ハチャメチャになっていると出せなかったりして、結局そこで大変だったりするので・・・。でも整理整頓できないんですよ、私。自分の部屋とか。でも変なところがA型で、こだわるところはきっちりやらないと気が済まないところがあって。
【加藤】僕はそういう意味じゃ恩恵を被っているので。会社のレストランの仕事で。
【舟越】あれも自分がデザインをやっているから、こちらのエゴで、それは加藤さんに失礼かも知れないですけど。
【加藤】全然。
【舟越】ばっと渡して、自分が意図してないものができてくるのが嫌なんです。だから最初から明確にして一発で、加藤さん作業も早いし勘も良いので、こっちがどうしたいというのをわかってくださいますけど、何となくの言葉、ニュアンスで伝えても、良いものにならないこともあるから、映像とかは指示できないんですけど、グラフィック、二次元のところであれば、ある程度までは指示を視覚化できるので。
【加藤】わかります。デザインの仕事ってコミュニケーションの仕事で、デザインの目的がコミュニケーションである、というところもあるけど、一方で、デザインという仕事を進めること自体にコミュニケーションがすごい発生するから、本来的に。やっぱり仕事を回していて何が一番問題になるかというと、コミュニケーションコストみたいなところだったりするじゃないですか。それが許される現場と、許されない現場というのが多分あると思っていて、僕の仕事は変な話ある意味少し許されると思うんですけど、一時画伯の現場だとやっぱりリアルタイムでものが動いていくし、一回上げたものをWEBだから修正みたいにもいかないし、そういうところに戻ってくるんでしょうね。
【舟越】それはそうかも知れないですね。
【加藤】デザイン科にいた頃って多分モノ作るところで止まるじゃないですか。僕も最近気がついたんですけど、モノを作れる人が人前に出ていくと、時間とか場所を作れるんだなあというのをすごい感じていて。
【舟越】多分、広告会社にいてデザインの仕事をしていた時は、自分でレイアウトをするとか、誌面に落とすとか、そういうことにしか全く興味が向いてないなかったし、しかもそれは上司に言われたことだけで完結しようとしていたけれど、そうじゃなくて、美容師さんとのお仕事の時は、一緒に集まって会話して、こういうものを作りたい作ろう、という話をしながら段々形にしていく。それまではデザイナーだったので、二次元しか落とし込めなかったんだけど。そこの人達が好きでやっていることに興味があったから、一緒にやりたいって言って仲間に入れてもらいたいという経緯があって。ただ雑誌の編集ってなんぞや、という編集の経験が全くなくていたのに、編集を経験して、イベント企画を経験すると、編集もイベント企画も組み立ててアウトプットするというのは一緒なんですよね。それは多分、デザイナーでも、アーティストでも、美容師でも一緒で、頭にある何かの考えを何かにアウトプットする、というのは同じ。ただデザイナーしかやってなかったら、多分、私はデザイナーとしてのアウトプットの仕方しか知らなかったけど、幸運なことに色々な形でのアウトプットの仕方に触れることができて、そこで広がった感じがします。だから自分が今何屋なのかよくわからないです。
【加藤】一緒です。大丈夫です。何とかなります。
【舟越】よく留学していた時の外国人の友達に、「何やってるの?」って聞かれるんですけど。
【加藤】ああ、説明に困りますよね。
【舟越】そう、日本語でも説明できない。一時画伯の方がまだわかりやすくて、ワークショップをやってるんだ、って説明はできるんですけど。
【加藤】だから僕の仕事とかもわかりやすい話になると業務実績ということだと思うんですけど、仕事自体はわかりやすく説明できなくても、わかりやすいアウトプットがあれば、それはさっきおっしゃってたアウトプット出せる働き方のある種の強みだろうと思うし、そこは面白いですよね。溜まっていくしね。
【舟越】あと色々な人に出会えるじゃないですか。それはすごい自分の財産で。
自分の次に続くもの
【加藤】最後聞いておきたい話があって、最初の方で話に出ていたんですけど、一時画伯は今は被災地での活動に注力しているけれども、東京開催も増やしていずれ色々なところでやりたい。これからの一時画伯について、ってどうですか。
【舟越】これからの一時画伯。難しいですね。わかんない、と言えば、わかんない。現地からの要請があればいつでも行きたいし、求めてくれる人がいれば行くんですけど、私個人としては子ども達がモノを作ったり、時間を共有して、アーティストとアートに触れて一緒に遊ぶというのを経験してもらいたい。作って楽しいという気持ちを大事にして欲しくて、優劣じゃなくて、それで作ることに興味をもつ子もいるかも知れないし、私みたいにアーティストと関わって時間を創ることに興味を持つかも知れないし、美術史に興味を持つかも知れないし、わかんないですけど、アートのおもしろみを伝えてその子の将来の選択肢を広げる。そういうことがしたいのかと。意外と私は子どもの頃にワークショップとか行ってないんですよ。
【加藤】でもあんまり僕らの時代なかったでしょ。
【舟越】なかったのもあるかも知れないですけど。
【加藤】ある種、一時画伯って震災を契機に生まれたものじゃないですか。だけどこれから続けていく意味があるんだろうなあというのが、途中まで僕外野で見ていて。
【舟越】メチャ内野入っちゃいましたけどね。
【加藤】まあ、ちょっと内野入ったくらいの感じですけど、一緒にやっていけるのは多分楽しいし。
【舟越】あとセレクトしているというとおこがましいですけど、頼んでいるアーティストが割と同世代のアーティストで、というのも一緒にやりたいんですよね。お客様と主催者の関係になりたくないんです。アーティストだからってギャランティが出ている話じゃないから余計にそうなんですけど。一時画伯コアメンバーに意外と車の運転できる人少なくて。
【加藤】僕運転できないですもん。
【舟越】私、運転できるんですけど、下手なんで皆に止められちゃう...。アーティストに運転もしてもらうし、材料の手配もわからないところはやってもらうし、準備も片付けも一緒にやってもらう。泊まる部屋も一緒だったりとか。アーティストは現代美術の第一線で活躍しているアートで生業を立てているというのが条件なんですけど、同じ目線で動ける人にお願いしています。
【加藤】一流なんだけど、チームメイトとして動ける人ということですよね。
【舟越】そうですね、それはすごい重要。特に東北行く時は本当に重要で、始発の新幹線に乗ってもらうこともあれば、レンタカーも運転してもらうし、そうすると同世代になってくるんですよね。そうじゃないとわかってくれていても、誰かがケアに走らないといけない場合もあるでしょうし、きっと。そうすると一緒にやってる感が生まれにくいかな。
【加藤】ある意味、そういう人は動かせる人がいて、そういうことをやってる人もいて、なんだけど、僕らの同世代のそういう人を、一緒に動ける体制を作れてるのってそんなに多くないと思うので。
【舟越】それもそうだし、流は、第一線で活躍しているアーティストですけど、一時画伯は彼女が発起人で、でも最初に始める時に自分のプロジェクトにしなかったんですよね。流麻二果の一時画伯にはしたくないから、色々なアーティストを入れたいと。それは大きいですよね。皆でアーティストを推薦しあって話したりするわけですけど。
【加藤】ちょっと気の長い話していいですか。やっぱり一時画伯みたいなプロジェクトって、例えばその流麻二果の一時画伯みたいなやり方を取ると、じゃあ100年後どうなっているの?というのがよくわからんくなってしまったりすると思うんですよ。
【舟越】そうですね。
【加藤】だけど、今の一時画伯の状態だったら、100年後一時画伯って言っても成立し得るというか、いわゆる、一時画伯で大事だなあと思うのは、舟越さんがおっしゃってたみたいな、震災のために何ができるかというのもあるけど、子どもの時にアートに触れた体験を色々な人に広めていきたいという、もう少し普遍的な課題というか問題設定があるから、そういうものはずっと続いていけば良いと思いますね。
【舟越】震災の直後に私たちは「アートの力で」って言葉を使わなかったんですよ。アートセラピーじゃないから、そこで劇的に何か変わるとか、癒しになるとか、それって全員がそういう意味での専門家ではないし、その言葉を使いたくないねというのがあって、でもアートを専門としている人達がメンバーにいて、地に足がついたというか、一時的じゃないというか。
【加藤】一時画伯なんだけどね。
【舟越】一時画伯の「一時」は、誰でも一時でも画伯になれるというコンセプトなので、参加した子ども達に対してのネーミングなんですけど、今は震災のこともあるから、協力してくれる人やギャラいらないですと言ってくれる人もいっぱいいると思うけど、これからですよね。震災関連じゃなくてもやってくれる、という人達がどれだけいて、どれだけ巻き込むことができるかというのは課題だと思います。
【加藤】そういうものがうまく今のラインに乗っかって、次の時代に繋がっていくと良いですね。面白い気がするなあ。
【舟越】フランスに留学していた時、美術館に行くと学校の実習か何かで、子ども達のグループを頻繁に見かけた。でも、あんまりそういうの日本で見なくって。日本と比べたらむこうの方はそういうのがあるんですよね。そういうもっと、自然にアートを見てもらいたい気がします。
【加藤】多分、アートは文化なんだけど、アートに親しむってことが文化に相変わらずなりづらいところがあって、そういうことやっていけると面白いんでしょうね。ただ、それだけ長丁場でやるってなると、事務局は大変ですね。
【舟越】ただ、事務局が私と田中でなくなった場合、私じゃない誰かがやるならその人の形になると思うから、それはそれで私良いと思うんです。皆で相談しているとは言え、今は私がやっているから私のやり方で回っているけど、そうじゃないやり方があってうまく作用するなら、それはそれで一時画伯の第二部じゃないですけど、全然それは否定しないし、むしろ誰かやって、と思います。
【加藤】そこまで渡せたら、そこから先眺めるのも楽しみですよね。
【舟越】ずっと同じことやっていたら飽きられちゃうかも知れないし、何か支障が起こるかも知れないし。
【加藤】そんなことはないと思うけど、老朽化しちゃう可能性もあるし。
【舟越】それはそれで新しい人が新しいことをやるってのは私は構わないですね。それで面白いことができたら面白い方が良いじゃないですか。
【加藤】じゃあ、比較的新しい部類としては、面白いことできるように頑張ります。
【舟越】是非是非。
【加藤】今後とも宜しくお願いします。
【舟越】今後とも宜しくお願いします。

舟越奈都子。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。2年間のフランス留学で、西欧やアフリカ等、異文化を垣間見て帰国した後、美容とアートのカルチャー誌のイベント企画&雑誌編集を担当。東日本大震災を機に、アート関係者の友人たちとアーティストによる子どもの為のワークショップグループ「一時画伯」を発足後は、建築・ビル業・まちづくりなどをおこなっている会社に所属し、事務局長として一時画伯の運営も担当している。
旅、サッカー、お酒、食べる事が好き。もちろんアートも好きだけど、なんだか「アートが好き」というのは、言葉的に違和感を感じている今日この頃。旅については『そこに行きたいと思ったときが、行くタイミング』が信条。