村上 玲子
2013.11.03
「人、そこに在る暮らし、そこを巡るは旅人」
村上 玲子 - 旅人
村上玲子さんは、お世話になっている方が開いた懇親会でお話しする機会があって、ただ、ソーシャル・メディアでは繋がりつつも、以降お会いする機会はなく。なんですが、僕があっち行ってると、翌日くらいから玲子さんがそこにいるのをソーシャルメディアで目にしたり、玲子さんが行っている場所が、僕が翌週から行く場所だったり。なんというか、多分、旅先で一番ニアミスしている人、なんです。
この数年ですっかり僕の仕事や暮らしに不可欠なものになった、旅。その話をするために一番面白そうだなと思った相手が、村上玲子さんその人でした。その晩も、玲子さんは旅に出る前日。荷造りこれからというところを捕まえて、旅人に寄る旅人のための旅人の話をして来ました。
人に会いに行く旅
【加藤】なんか玲子さんとは全国各地でニアミスしてるなと思って。
【村上】そうそう、本当にニアミスで。四国だったら四国、九州だったら九州って、普通は訪問先もテリトリーがあるじゃないですか、なんとなく。でも全然違う色々な地方でニアミスしてるから。
【加藤】そうですよね。東北だったら石巻とか。九州だったら阿蘇とか。
【村上】そう、私、竹田の方に知り合いがいたりね。今は耶馬溪にも友達が戻っていて。
【加藤】あそこ、すごい良いらしいですね。
【村上】うん、だから、今度行こうと思っていて。
【加藤】なんでこの人行ってるんだろうなあとずっと気になってて。僕は物好きだから行ってるにせよ、この人はなんで色々なところ行ってるんだろうと思って。
【村上】変わんないですよ。物好きなだけで。
【加藤】玲子さんが旅に行かれる時は、プライベートとビジネスとどちらが多いんですか?
【村上】プライベートが多いですね。ビジネス2割、プライベート8割くらい、かなあ。ただ、プライベートだけど、そこではビジネスに繋がるようなものを探している部分もあって。ビジネスにしたいか、したくないかというよりは、色々なところで生まれてる「価値」があって、それをその人達と一緒に「実」にして楽しくできたらいいなっていう、その「種」を探しをしている。
【加藤】ああ、とっかかりってやつですね。
【村上】基本はそこに知っている人がいる旅がほとんどで、行って話をして、無償だけども、完全プライベートかって言うと、遊びだけれど、違うバリューを生み出す何かが旅、というか。
【加藤】多分、僕も同じ質問されたら、同じように答えると思います。
【村上】ははは。そういう感じ。だから、似てるだろうなと。
【加藤】ですよね。どうやって旅先見つけてますか。面白い場所?それとも人で探してます?
【村上】人。基本、見つけないで、呼ばれて行く感じ。最近、自分の今までやって来た旅を振り返ってて、私の最初のきっかけになってるのは、同じ空間と同じ時間を共有していた、いわゆる友達が世界各国、日本各地にいっぱいいるということだと思う。その人達に会いに行く、というのが今私がやっている旅。だから、旅というよりは、友達に会いに行っている感じ。だけどそれって、当時とは、空間とか時間とかが変わっていったりする。時間は変わる。二度と同じ時間じゃないから。空間も同じで、私自体が動いているし、友達も皆結構動いてたりするので、同じ空間で違う時間を過ごすか、違う空間で違う時間を過ごすか、というパターンになっていて、それはそれでまた面白い発見がある。
【加藤】動いている人達に対してヒット・アンド・アウェイをやっている感じですよね。
【村上】そうそう。それが今の自分の楽しいことだし、私が行くことによって、向こうも楽しんでもらえることが最近すごく多くあって、それが今の年齢になってくると、仕事に繋げていけるところ。それぞれがプロフェッションを持っていて、じゃあこれちょっとなんかしたらできるんじゃないのとか、自分の仕事と別のところで、遊びと仕事を良い具合に結びつける。
【加藤】あと、離れている2つのHUBというか、ここ繋がると面白いかなとか。
【村上】ここにこういう人がいてね、とかもやることが多くって。実際に動くか動かないかはわからないし、行ってみないとわからないことが多いけど、それを繰り返していたら、行かなきゃいけない、ってなって。
【加藤】今日、僕、旅人にインタビューして来る、ってTwitterに書いて出て来ました。
【村上】ははは、ほんとに。最近は本業はそれぞれ別に持ってていいと思っていて、ライフワークとして私はわかりやすく言うと、旅人で伝わるのかな。それぞれの人が思う旅人ってあるじゃないですか。でも、だから「それってなんですか?」ってあまり聞かれない。
【加藤】ああ、なるほど。
【村上】それが一番しっくりくる言葉だったの。
人に通う
【加藤】そういう風に色々な場所にいる、色々な人に会いに行くということを、定常的にやるようになったのって、いつくらいからですか。前のお仕事されてた時にもやっていた?
【村上】忙しすぎて無理。
【加藤】ですよね。ですよね。
【村上】前職の時は確実に無理で、仕事していた時は国内すら移動したことがなくて、会社と家を行ったり来たりくらいの感じだったんだけど、それを辞めてからですね。辞めたきっかけは別に嫌だから辞めたとかではなくて、ただ次のステップに何をしようかなという時に、とりあえずリセットじゃないけど、気持ちをリフレッシュしたいと思っていて。そういう時に、友達からブラジルの空の写真が送られてきて、すごい青かったんですよ。こんな青いわけがない、こんなに青いんだったら観に行ってみるか、と思って行っちゃったんです。それがきっかけかも知れないですね。でも定期的に色々な場所に行くようになったのは、ここ数年。震災後かなあ。震災前に旅とかはしてたし、私は香港で育って、小学校から大学まではカナダだったので、色々なところに旅をしたり、色々な国の人と会うことは多くて。
【加藤】香港もカナダも色々な国の方がおられる場所ですよね。
【村上】そういう環境にいたから、そこにいる皆が大体「旅人」。その状況で育って日本に帰って来て、国内でもそんなに移動しなかったけど、自分の時間を取るようになって、旅も多少はしてたけど、そんなに「旅が好きです」という感じではなかった。香港には里帰り、というくらいでよく帰っていたけど。私に取って香港は旅じゃなくて里帰り、故郷に帰る感じだったので、それくらいだったんですよ行くとしたら。特に震災があった後に、東北に行くようになって、雄勝で支援活動を行う東京側の事務局をやってたんですけど、現地にいるメンバーとやり取りをして。そこに集まる繋がる人達は国内外様々で。それは会社員だったりフリーランスだったり色々な人達がいて、そういう人達と繋がるようになってから、私にとって「旅に行く」、「移動する」ことの意味は、人に会いに行く、に変わって来たんだと思う。
【加藤】なんか僕も震災の後から色々なところに行くようになって、それまで旅って結構、場所に行く、って感じだったんだけど、人に会うってなると、場所に通う、みたいな感覚になって、その辺がすごい面白かったですね。観光地を巡って観光をする旅じゃなくて、何かその人に会いに行くってなると、通うになるのかなと。
【加藤】雄勝は僕は観に行っただけなんですけど、海側は全部。
【村上】そうですね、ほとんど。丘のところまで大分上がってきちゃってたんで。最初入ったのは石巻のツナプロ、調査隊で行ってたんですね。2011年の4月の最初の週に向こうに行って、最初の状態を見てたんですよ。女川から、牡鹿半島のエリアをアサインされて。
【加藤】宮城で一番被害が大きかった辺りですよね。
【村上】そうですね。本当に集落がたくさん点々とあったから、情報の伝達もなかなかできてなくて。石巻の市内だと、市役所の機能があったけど、雄勝とか牡鹿の方ってそれすらもなかなか届かいてなかった。
【加藤】僕、逆に言うと、被災地入ったのが1年後だったんで、全然何もできてないですけど、当時そういう風に動かれていた方が、今でも通ってるってのはすごい大事ですよね。
【村上】それも会いに行ってるというか。別に支援って感じはしなくて、そこで自分ができることをやったのと、色々なことを学ばせてもらいに行っていたというか。それを自分ができることでお返ししているという感じで。鮎川浜地区のお母さん達がやっているぽっぽら食堂というのがあって、こないだ久し振りに行って来たんだけど、みんなすごい元気で、3~4人で1日に100食とかお弁当作ってるんだよ、週5くらいで。
【加藤】すごいですね。じゃあ、大回転中ってことだ。
【村上】そういうのとか見てるとすごいなあって。
【加藤】おっしゃってる意味はわかります。なんか地方の良いものに対しても、色々な考え方あると思うんですけど、良いものを見つけに行って東京に持って来る、それもすごい大事なことなんだけど、地産地消みたいなこととはまた違って、地方が自分の身近な人達と一緒に商売していくとか、暮らしを回すとかそういうの大事な気がして。別に東京に持って来ることは否定しないんだけど、それだけだとやっぱりスポットになっちゃうって言うか、続く仕組みにならないというか。
【村上】似たようなものが来るから、そうしたらそれが奪われるという。
【加藤】そうですよね、百貨店の陳列棚を一定期間埋めるだけになっちゃう。そう考えると食堂で地元の人達が食べる弁当を100食ってパワーがある話ですよね。
【村上】うん、すごい。
場所と暮らし
【加藤】最近、面白かったところというか、印象深かった所ってありますか?どこも面白いと思うんですが。あえて言うなら。
【村上】うーん。うーん。一番印象深かったところかあ。
【加藤】じゃあ、最近、旅先で一番美味しい物があった場所!w
【村上】それなら、バンクーバー。バンクーバーの中華はやっぱり美味しいなと。更に美味しくなってた。
【加藤】へー、面白い。バンクーバーって中華美味しいんですか。
【村上】うん、美味しい。中華系の移民の人がすごく多いので。私が行ってた大学の頃が、香港が返還される時だったから、香港からの移民の人がすごく来てたのね。でも今は中国大陸の人がすごく増えていて、だから色々なタイプの人がいて、華僑の人達、元々結構コミュニティは大きかったんだけど、更に拡大していて。
【加藤】面白いなあ。カナダってどっちかって言うと、イギリスかフランスか、みたいな感じですよね、知識的に入ってくるものは。バンクーバーはイギリス系なんですか。
【村上】うん、そう。
【加藤】大学がバンクーバー?
【村上】そう、高校はビクトリアって言って、バンクーバーアイランドにあるんだけど、大学はブリティッシュ・コロンビア州立大学で、ダウンタウンより大学の敷地面積が広いという。
【加藤】そんな広くて何するんだという。狩りをするのかとか。
【村上】ゴルフ場とか農場とか全部入ってましたね。すごい面白いところだった。美味しいものとしてはそれかなあ。あと、バルセロナの生ハムはやっぱり美味しかったです。
【加藤】いつ行かれたんですか?
【村上】バルセロナは先月。
【加藤】今月、僕の石巻の友達と、また違う世界中をホームステイして地元の家庭料理を覚えながら旅するって友達がバルセロナで遭遇していたらしくて、なんかたまたま会って話したら、共通の知り合いが加藤で笑い話になったらしいんですけど。
【村上】へえ、すごい。
【加藤】もしかしたら、ニアミスしてるかも知れないですね。
【村上】そうだね。8月の最終週くらい。
【加藤】じゃあ、かぶってないかな。知り合いのニアミスとかを調べるともっとすごいことになってそう。
【村上】確かに。どっかで絶対すれ違ってそう。バルセロナも友達が企画してた、暮らしながら旅をするっていうプログラムでバルセロナに住んでいる人の家に泊めてもらって。
【加藤】今日、旅の話するって来たんですけど、もう一つ面白いトピックがあるなあと思うのは、知り合いに会いに行く旅で一番良いなと思うのって、暮らしが見えるとか、暮らしのことが考えられるって言うのがすごい良いんじゃないかと思っていて。今、東京住んでいるじゃないですか。今、東京でしている暮らしと、他の人の、例えばバルセロナにある暮らしと、比較して考えたりすることってありますか。
【村上】よくあるし、暮らしの会話に絶対なる。向こうに行って、その土地にいる人と喋って、向こうは「東京どんな場所なの?」ってすごい気になるし、観光としてじゃなくて、東京で暮らしている人の話をすると、意外とそんなに高くないんだ、とか、人レベルで、暮らしレベルで会話をすると、似てるところ、似てないところ、会話の中で自然に出てきて。あと、私、色々なところを見ているからというところもあるかも知れないけど、その土地に行って、面白いものを見つけるのがすごい得意で、それって意外と住んでいる人が知らないこととかもあって、当たり前過ぎて気づかないことが。知らなかったとか、そんな角度で見たことなかったとか。だから、私が行って、その土地で面白いなと思うものを、東京だったりとか違うところでフィードバックすることもあるんだけど、その土地に行って、その土地の人に面白さを逆に伝えるというのもあって、その両方がすごい楽しいなあ。
【加藤】なるほど。
【村上】そういう時に暮らしのこととかをやはり聞きながら、普段こういうことをしてるんだというのを想像して歩いてみたりとかも好きだし、こういう暮らししてたらこういうところ行かないかもなと思って行ってみたり。
【加藤】ふらーっとする感じですよね。
【村上】薦められたところ以外のところもちゃんと見る。
【加藤】僕もなんかこないだ糸島行ってた時に、目的地は糸島のシェアハウスって僕の仲間がいる集落の中にあるシェアハウスだったんですけど、昼くらいに来て下さいって言われてたんで、隣の駅の、海まで歩くと一番近そうな駅行って、海ボーッと眺めてたんですけど、やっぱりそういうの気持ち良くて、そこの海の横に、小学校があるんですよ。小学校の校庭が海に面している、とか良いよな、と思って。ここに住んでいる人達には当たり前だし、バトミントンやると海風でシャトル流れてっちゃってめんどうなんだろうなとかあるんだけど、でもそこで子育てできるとしたら、価値だと思える親御さんもいるかも知れないし、なんか色々気付くことってありますよね。
【村上】ある。それって本当に行かないとわかんないし、ガイドブックだったり、インターネットだったり、って言うのも全部含めて、誰かのフィルターがかかわっているわけだから、フィルターのかかってない、自分の目で見た、本当の何かっていうのは、自分が行かないと見えないものがいっぱいあるんだなあと思う。
【加藤】嗅覚ですよね、それ。
【村上】いやいやいや。そんなことないですよ。大体、縁で繋がっていくな。大三島も。大三島で私がやっていることもそれに近しい。大三島に行って、勝手に私がすごい好きだってブログに書いている。その隣の島が実は父親が出身の島で、両親は愛媛の出身の人なので、出身「DNA的には四国出身」って言ってるんだけど。
【加藤】瀬戸内も良いですよね。
【村上】大好き。あの景色にすごい癒されるというか、旅もしているし、色々な場所に住んだりもしたけど、瀬戸内の景色は毎回行って、じんわり来るというか。
【加藤】独特ですよね。
【村上】やっぱりすごいなと毎回思ってしまう。色々なところ見てても、すごいなと思うのだったら、意外とすごいのかも知れない、と思うんですけど。
【加藤】今日たまたま、打ち合わせで江ノ島行ってたんですよ。で、江ノ島って子供の頃観ると、島とか行ったことないから、神奈川県民としては「これが島か」と思うんですけど、瀬戸内行くと、「こんなにどうやって作ったの?」ってなる。その辺の聖性というか、圧倒的な感じがありますよね。とても厳かだしね。
【村上】特にしまなみの方は。香川側よりも愛媛側のしまなみ街道の方が、島がギュッとしてて。
【加藤】僕まだあっち行ったことないんですよ。
【村上】ええー。是非。
【加藤】はい。仲間にも薦められてて。
【村上】景色もまた全然違うし。でも小豆島みたいな離島とか、船でしか行けない場所は、それはそれで素敵な景色が見えるし、橋がない状態って言うのも良いけど、橋がかかってる島の雰囲気もまた面白くて、本当に島と島が近い。びっくりする。最初多分、橋を通ったら、島を渡ってるって思わない。ずーっと半島を行ってるようなイメージ。
【加藤】なるほどなるほど。楽しみだなあ。
【村上】夏とかね。自転車やる?サイクリングできるから。
【加藤】ああそうなんですね。良さそう。
時間と空間の間を旅する
【加藤】今のお仕事と、動き回っていることは直接的に結びついている感じなんですか。
【村上】直接的にはあんまり結びついてないかな。間接的には結びついているけど。
【加藤】間接的にはあるってことですよね。僕も動き回ってても、至る所で仕事取ってるとか、そういうのじゃないんで。
【村上】ははは。そうなんですよね。アイデアだったりをお客さんとして探しに行くのではなくて、もらいに行ったりとか。人として私は動いている、という時に、私は村上玲子として仕事をたまにもらえることがあって、IT屋さんだからとかじゃなくて、村上玲子に何となく振ったらいいんじゃないか、ということに繋がったりもします。
【加藤】そうですよね。僕も一応、建前上Web屋ってことになってますけど、建前上なだけで、何でも屋と言えば何でも屋なんですよね。そこで聞いてみたいんですけど、僕が学生の時に広告代理店の人に言われたことで、「何でもできるのは何もできないのと同じこと」というのがあって、だから何でもやりますは駄目なんだよ、というのがあったのです。確かにそうだなと思って20代過ごして来たんですけど、30代になって思うのは、その辺は結構機能するというか、勿論、自分の食い扶持を稼ぐための落としどころは必要だと思っていて、ただ、じゃあそれしかしません、って言う風にする必要は全くないなという気がするんですよね。
【村上】すごいそれは思いますね。でもやっぱりそれは20代に1つの軸である種のスキルを身につけてできることなのかなと。
【加藤】そうなんですよね。多分、玲子さんの働き方も、僕の働き方も、そうだと思うんだけど、20代で新卒のタイミングで、いきなりプライベートで色々なところ行きまくって、仕事も自分の名前でしてみたいなの不可能じゃないですか。
【村上】うん。
【加藤】ある程度、キャリア作って、ある種、自由にできるお金も生まれるくらいのタイミングで始めないと、機能しなかったのかなあという気は振り返るとしますね。
【村上】私も企業に入って、色々な経験をしたし、それはそれで学んだことはあったから、最初から独りでやってる人もすごいと思うし、組織の中でやってる人もすごいと思うし。学生とかも極端というか、「会社員になりたくない」「とりあえず就職しなきゃ」どっちでもそのタイミングによって良いけど、助言する方としては「フリーでやった方がいいよ」とも言い切れないし、「就職した方がいいよ」とも言い切れないけど、そういった視野を広げて見ているか、っていうのが重要だと思う。
【加藤】なんか22歳の時に人生の決断を迫られているっていうストーリー作りが続いてきた気がしますけど、全然そんなことないというか、勿論、大企業に就職する時の、何と言うかアタックする人が一番多いタイミングだとは思いますけど、まあ、それが全てじゃないですよね。
【村上】そうなんですよね。
【加藤】なんか無責任な言い方になるけど、あんまり深刻な顔して、人の相談に乗るのも良くない。あんまりいい加減なことも言えないけど。
【村上】そうそう、その匙加減がね。
【加藤】昔よりも就活が難しくなってるみたいな話はあるじゃないですか。だから「真剣にやれ」って話は絶対にしないといけないと思うんですよ。何となく決まるって時代でもないから。でもその上で、それで君の人生が決まるみたいなことを、他の人は言うかも知れないから、こっち側は肩の力を抜いた方が、話のバランスが全体観として取れるのかなとか思いますね。
【村上】そうなんですね。
【加藤】今、仕事で楽しみにしていることなんですか?
【村上】旅が好きで、通うっていう行為もすごい好きなんだけど、それをまたフレッシュな状態で感じるために、知人がいない、完全に初めての場所に旅をするというのも、挟むんですよ。で、観光客になりきる。誰かに会いに行っていると、なんとなく安心感があって、楽しめるだろうという前提もあって。
【加藤】約束されている、という。
【村上】うん。友達と会う時点で既に楽しいから。でも観光地、自分がどれだけそこで楽しめるかって、保証されてないよね。写真とかで見たり、何となく良さそうというのはあるけど、実際そこの場所に行って感じることは違うから、たまにそういう旅を挟む。それはそれで楽しくて、なるほどこうやって観光客って見るんだ、という両方を以て旅。私も別に遠くに行くことが旅じゃない。意識の問題だから。全部が旅であり、どれも旅じゃないかも知しれない。散歩に行くのも、旅って行いったら旅。今日、散歩を「新しい花を初めて見つける旅」と思って歩いたら旅だし、発見をするとか、ちょっと見方を変えることとか、多分好きなんです。新しいものを見つけることが好きなんですよね。その旅をする時に、旅の過程も楽しい。目的がその場所だった時に、行きも帰りもひっくるめて旅だから、道中も楽しくどうやって過ごすかとかもすごく好きで、その道中の時間も楽しめるようなものを今作ってる。
【加藤】えー、なにそれ、面白そう。
【村上】それはずっと自分が欲しいなと思っていたもの。今の自分こそできる、友達が色々なことできる人達がいるから、そういう人達と一緒に「形」をそろそろ作りたいなと。それが今仕込んでるヤツです。
【加藤】今、お話うかがっててすごい思ったのが、そういう旅に行って、アウトプットするつもりで旅に行くかって大事な気がしていて、仕事にひもづけるって言うのもそうだけど、ブログ書くとか、Facebookでシェアするとか何でも良いんだけど、自分が特殊な経験をシェアしたりパッケージする手段が増えてると思うんですよ。
【村上】うん、すごい増えてる。
【加藤】だから、プロセスに意味を持たせられるということもある気がして。最近付き合ってる60歳くらいのクライアントが、「人生とはGreat Journeyである」ってことをおっしゃるんですけど、今のお話うかがってて、人生がGreat Journeyであるのならば、散歩もGreat Journeyって言っちゃっていいよねって。
【村上】その通り。旅だと思う。
【加藤】ただ、人に会いに行くって言っちゃうと、時間軸が発生しないから、人に会いに行くことにどういう時間軸を持たせるとストーリーになるよね、っていうことっかも知れないですよね。
【村上】そうですね。だから、時間で言うと、小学校とか、大学、こないだ行った旅の例で言うと、バンクーバーに行ってたのは友だちの結婚式で行ったの。その手前のポートランドにも友達がいて、だから、東京から、サンフランシスコ経由で、ポートランドとバンクーバーに行った。ポートランドにいる友達も、バンクーバーにいる友達も、大学時代一緒にいたメンバーで、今大人になっていて。ポートランドの友達とはお互い、ポートランド、東京というそれぞれが今いる場所で一緒に過ごしたことがない。だけれど、時間はバンクーバーで共有している。それもすごい面白くて、ある程度の安心感があって、長い間会ってなくても、なんか繋がる、共有できる空気がある。これはこれで違う場所でも違う時間でもこの人とは友達なんだ、という再認識というか発見というか。でも喋っている内容は昔話だけじゃなくて、今の暮らしとか、こういう場所に住んでいてどう思っているかとか、今自分たちがやっていることが何かということもあわせて喋っていて、別の時間が共有できる。時間は超えてるんだけど、また新しい層ができるというか。それでバンクーバーに行くと、大学時代いたから場所は同じなんですよね。だけど過ごしていた時間が違うから、また違う層ができて、それがすごく面白かった。
【加藤】距離が離れることによって、点と点を合わせやすくなるみたいなことってありますよね。
【村上】ずーっと一緒にいるのとは違うものが生まれるというか。
【加藤】一緒にいると、楽しいんだけど、ずーっと線で合わせている感じだと思うんですよ。距離が離れていることによるダイナミズムってある気がして、これくらいの年齢になっていると、一時、皆が東京とかにいた時代と比べると、仲間がちょっと離れているところにいることの価値があって、そうすることによって自分の価値も高めてもらえる、みたいなことがあると思います。
【村上】今回すごい面白かったのが、それを1つの旅で違う軸で、同じ人ではないから全く同じ検証ではないけど、でもなんとなく似たものを違う軸で見てもやっぱり層の重なり方は一緒だし、それがまた面白みを加えるというか。場所が違っていたとしても、それはそれで面白い。あの旅も面白かった。
【加藤】僕、国内しか動いてないんで、世界中とかなると、オリジンが何にあるかとかわかんなくなるって言うかどうでも良くなったりしません?多分、香港なんだろうけど。
【村上】いや、ないんですよ。だからないことが結構コンプレックスで、一つの場所に生まれて育って、というのがなかったから。いっぱい色々行けるからいいじゃんって言われるんだけど、自分の中ではそんなこと思っていなくて、フワフワしてる感じ?どこにもいないし、どこにも根を張ってない、根無し草なことが嫌だったの、どこかで。良いというのはわかってるんだけど、でもやっぱりどこか嫌というか、恥ずかしい部分、コンプレックスではあった。ただこの年になってくると、いやーやっぱり良かったわ、という感じで、そこを作ることはできないから、それが自分の良いところだし、自分にしかできないことはあるし、でも実家というか故郷があることに憧れはあるかなあ。うちは実家が動くから。転勤族の人とかは似てるのかも知れないけど。
【加藤】最初に言ったヒット・アンド・アウェイをしてるのの輪の部分になりますよね、実家が。でもずっと、2000年過ぎたくらいから、フリーランスだ、ノマドだ、あって、色々な人が話してて、単純な話だとカフェで仕事するモバイラーみたいなところから、玲子さんみたいに色々な場所を動き回っている人もいたりして、ただライフスタイルどうこうって言うよりは、それによってどういう価値が生み出せるかとか、それでどういう意味付けをできるかとか、そういうことが大事なのかなあと、今日お話をうかがっていて思いました。なんか楽しそうだしね。
【村上】ははは。ようはね、楽しければいいの。ずっと楽しいことばかりじゃないけど、でも楽しまないと。
【加藤】そうですよね。やっぱり楽しいって話ができないと、他の人を動かせない気がする。特に誰か雇って抱えて、その代わりに動いてもらうって仕事じゃない場合は、そこができないと、って感じはしますよね。なんか、割と似ている人の、僕よりもっとでかいスケールで動いている人と、話をする機会がなかったので、今日すごい面白かったです。
【村上】フワフワしてる根無し草ですから。
【加藤】僕も良い感じにフワフワして来たので、インタビューはこの辺で。ありがとうございました。
【村上】ははは。ありがとうございます。

村上 玲子。
日本、香港、カナダで育つ中、言葉や文化の違いの中で
それぞれが暮らす事、に興味をもつ。
カナダの大学を卒業後、日本に戻り、ITコンサルティング会社の研究開発部門に勤務。
退社後中医学の薬膳を学び、国際中医薬膳師の資格を取得。
最近は時間を見つけては、国内外問わず知り合いを訪ね、
その場所、その人の暮らし方から学ぶ旅をしている。
瀬戸内海に浮かぶ大三島の思い出を
クリッピングしている CLIPPING 大三島