網谷 勇気
2015.05.17
「カミングアウトが拓くもの」
網谷 勇気 - NPO法人バブリング 代表理事 / NPO法人ブリッジフォースマイル 職員
実行委員として関わっている児童養護施設からの進学を応援する奨学金支援プログラム、カナエールで一緒に仕事することになったのが、網谷勇気さんでした。プロジェクト内では皆ニックネームなので、今回の取材でも「あーみー」と呼んでいます。自分にとってLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)が関心が高い社会問題だったかと問われれば、高いと言えば嘘になる、という按配だった気がします。網谷さんはカミングアウトしている同性愛者として、2006年にNewsweek誌の表紙になっています。とは言え、網谷さんから聞いたのは、いつも通りの仕事仲間の働き方、そして生き方についてでした。1年間休眠していたET Luv.Lab.、復帰戦一発目、なかなかET Luv.Lab.らしいインタビューになったと思います。
LGBTというフォークソノミー
【加藤】最初、何の話から始めようかと思ったのだけれど、去年すごいなと思ったことがあって、僕がカナエールの枠でイベントとして面白くて勉強になるからと行かせてもらったTokyo Super Star Awards、あーみーも行ってたじゃん。あの時にあのプログラムがカナエールを支援してた理由というのが、同性婚をする人たちが子育てをするのが難しいから、カナエールみたいな子供のためのプロジェクトを支援しているという話があって、それってあまり世の中的に知られていないし、あまり認識されてないし、カナエールやってる僕らも知らないなと思って、すごいインパクトあったんだよね。あの時、あーみー、どう思ったのかなというのをまず聞いてみたくて。
【網谷】TSSAでというよりも、同性愛者と子供みたいなことはブリッジフォースマイルに入ってから余計に考えるようになったのだけれど、同性カップルが身寄りのない子供の受け皿になり得るとは思っていて、ただ、ハードルは高くて、それはTSSAみたいなアプローチではなくて、里親のような話で考えてたの。今、実際にごく少数だと思うのだけど、同性カップルが子育てをしているという話を聞くのね。ただ、まだあまりメディアとかには出て来てなくて、同性カップルが結婚式をやりました、みたいな話は出てくるけれども。
【加藤】ゼクシイとかね。
【網谷】そうそう。
【加藤】なんかTSSA行った時も思ったのだけれど、言い方が適切かわからないけど、ファッションコンシャスなラインからアプローチがある世界というのがあって、一方で今、Change.orgで出ているLGBTの同性婚を認めるための署名みたいなガチなラインとあるじゃん。その辺で面白いなと思ったのが、LGBTみたいなこととどういう風に接点を持つかというのが僕自身がわかんなくて、僕も今までの人生で何人かそういう人と話したことはあるけれど、仕事をするのはあーみーが初めてで。その時にすごい思ったのが、そういう世界を全然知らないと、ゲイの人、というのががいる、というような認知だったの、それまでは。だけれど、タクソノミーとフォークソノミー、カテゴリとタグの違いというか、ゲイっていうカテゴリじゃなくて、ゲイってセクシャリティのタグがついているけど、他にも色々な要素があって、セクシャリティのところがゲイ、ってことなんだなあ、ということを思ったんだよね。
【網谷】ああ、タグね。そうだ。
【加藤】言ってる意味わかるでしょ?
【網谷】タグかも。
【加藤】それこそ僕らのガキの頃の芸人さんがネタでやってたりとか、あと、ドラァグクイーンがテレビ出てくるのとかも、それを否定するわけではないんだけど、あまり日常感みたいなのはなくてさ。一緒に仕事をするようになってから、ああそういうもんなんだな、みたいな感覚があって。
【加藤】僕の話の前置きが長くなっちゃったけど、あーみーがカミングアウトをしているということを初めて知ったのは、以前、Newsweekの表紙に出ました、ってFacebookに投稿しているのを見たからだったんだよね。あれはどういう経緯で出た形なの?
カミングアウトとは
【網谷】友だちの紹介だね。
【加藤】あれってカミングアウトをしました、ということだと思うのだけど、カミングアウトってイマイチ感覚がわからなくて、その辺のことを教えてもらえたらなあと。
【網谷】まず、Newsweek出たのが2006年なのだけど、2006年時点ではもう所属しているコミュニティの大体の人が自分がゲイだって知ってたのね。
【加藤】ああ、それは会社含め。
【網谷】そう、会社もだし、昔からの友だちもそうだし、親、兄妹も知ってたの。石川大我という今は豊島区の区議会議員でカミングアウトしている人がいるのだけど、その友だちがNewsweekが顔出しできる人探しているという話を持って来て。俺は顔出ししても何もないから、いいよということで、Newsweekの編集の人と会って、ただ、会った時は表紙のたくさんの人の中の1人のはずだったのだけど、当時、大阪の府議だった尾辻かな子さんという人と俺だけが出れるとなって、結局、2人だけの写真になったの。
【網谷】その時働いてのはコールセンターだったのだけど、例えばコールセンターのクライアントにはわざわざ自分がゲイってことは言ってなかったし、同じ職場の中にゲイの人たち結構いたんだよ、俺が紹介で入れてたこともあって。その一部の人たちはバラしてなかったけど、俺が出ることで芋づる式にバレちゃうみたいな心配もあって、ちょっと迷惑がられたんだけど、ただ出ちゃったし、その後みんな開き直ってすごくオープンになっていって、仲よかったクライアントも「見たよ」って言ってくれたりとかしてくれたから、良かったかなと思っている。
【加藤】じゃあ、あーみーとしては、最初のおおっぴらにカミングアウトするみたいなことのハードルはあまり感じていなくて、もしかしたら、その手前はあったかも知れない?身内というか、身の回りに知ってもらう段階。
【網谷】ああ、そうだね。
【加藤】それはやっぱりあるんだ。
【網谷】身の回りに知ってもらう段階のハードルはもちろんあったけど、Newsweek時点ではポイントとなる人たちはおさえていたから、何か起こったとしても、大したことは起こらないだろうと思ってたの、Newsweek出たところで。何が起こるかわからない恐怖というか、プレッシャーはあったけれど。
【加藤】俺も自分が昔体調崩したことを大っぴらに言うとなったら身動ぎしちゃうなみたいなのはあるからね、身の回りの人はだいたい知っているけれど。また違う性質のことかなあという気がする。逆にその段階でNewsweekに出るということが、社会的に意味があるとか、世の中のLGBTの人にとって助けになるみたいな意識はあったの?
【網谷】あったあった。あったし、あとその時イベントやってたの。だからイベントの認知にもなるかなと思って。
【加藤】そのイベントはなんのイベントだったの?
【網谷】同性愛者と異性愛者をごちゃごちゃ混ぜて皆で友だちになろうというイベント。最初ただの飲み会だったのだけれど、月を重ねていたら100人になっちゃって、飲み会の形式でやるのが限界が来て、ロフトプラスワンという新宿の箱を借りて、ステージものをやったりもするイベントのスタイルにしたの。ステージものをやり始める頃に、自分のイベントをチームにするというか、組織化して、複数人でやるようになったのが、今やっているNPO、バブリングの前身。そこまでイベントのことを考えてNewsweekに出たというわけでもないのだけれど、ただその当時にNewsweekみたいな雑誌でLGBTについて特集をやるということは影響のあることだと思ったし、その企画自体はちゃんと進んで欲しいというのがあったから出た、というところが大きいかな。
【加藤】それでもすごい難しいよね。普通の人だとさ、自分のやりたい仕事があります、じゃあこういう仕事に就きます、夢を叶えましょう、みたいな話だけれど、あーみーがそのタイミングで目指してたことって、必ずしも自分の仕事の延長線上に置けないものというか、なかなか仕事にしづらいものだったりするじゃない。そうすると普段のコールセンターでのマネージャーの仕事と、課外活動としてのイベントのこととか、セクシャリティの理解とか啓蒙に関わるようなことというのを、自分の中でどういう風な切り分けにしてたの?例えばビジネスとプライベートみたいな考え方にしてたか。
【網谷】してない、全部大事なことというか、俺、その頃インディーズのバンドのマネージャーもやっていたの。三足のわらじの期間で、仕事もちょうど楽しくなって来ていたから、全部大事で、全部並行してやりたかったんだよね。どれが仕事、という認識もなくて、お金入るものはコールセンターの仕事だけど、他の2つも本気でやっていて。
【加藤】全部大事なことというのはすごいわかる。俺も色々手を出すから。
【網谷】そうだよね。そうそうそう。
社会起業のセクターへ
【加藤】どこかのタイミングで、コールセンターの仕事をやめて、次の仕事はブリッジフォースマイルだったの?
【網谷】ブリッジフォースマイルの一つ前がITベンチャーで、それはコールセンターの部門の立ち上げ。
【加藤】それはある意味、前の仕事の延長で、部門の立ち上げをやって。
【網谷】そう。そこは割とすぐ7ヶ月くらいで辞めて、ブリッジフォースマイル来たの。
【加藤】ブリッジフォースマイルへの転職は結構シフトチェンジというか、今までのキャリアとはぜんぜん違うチョイスじゃん。それはどういう経緯であそこ良さそう、となったの。
【網谷】DRIVEという求人サイトを観ていて。
【加藤】ETICがやってるやつね。
【網谷】そうそう。DRIVEの80個くらいある求人を全部見てて、唯一気になったのがブリッジフォースマイル。
【加藤】そうか、ブリッジフォースマイル気になった理由も聞きたいんだけど、その前にDRIVEで次の就職先を探していたというのは、理由あったの?あれ結構特殊じゃん。
【網谷】そうだね。ソーシャルベンチャーとかNPOとかをその当時大して知らなくて、どういう仕事があってとか。ただ俺がやりたいことってそっちの界隈にあるんじゃないかなと思ってて、それでネットで検索してたらDRIVEが見つかって、それでDRIVEで仕事を探すようになったの。
【加藤】それ何歳くらいの時?
【網谷】ブリッジフォースマイル入る直前だよ。2014年の2月。
【加藤】あ、そうだよね。DRIVE自体が新しいものね。その中でブリッジフォースマイルが気になったというのはどういう?
【網谷】いくつか関わりたい業界があって。俺「ご両親なにしてるんですか?」という質問が嫌いなのね。両親がいる前提の質問だから。片親の友だちとかそういう質問を受けていて、離婚してるから片方いないんだよって言ったりとか、いなくなった親の昔の仕事を引っ張りだして言ってる人とか、そこで正直に言う人と嘘をつかなきゃいけない人が出て来てしまうみたいなことが、自分と重なる部分があって。その質問が変わる世の中が良いなと思っていて。
【加藤】それは例えば「彼女いるの?」みたいなことか。
【網谷】そうそう、そういうこと。世の中で当たり前になっていることがベースになっている質問というのがいくつかあって、その質問自体が変わる世の中を望んでいるのね。施設の子供たちにその質問をぶつけた時のことを考えたら、自分がやりたい業界と一致した。
【加藤】ある意味、捻じれというか、本当は当たり前じゃないのに、前提条件として当たり前とされていることを置かれてしまって、ある種、傷つくというか、気分の悪い思いをすることがあり得る世界、ということだよね。
【網谷】そうそう。だから、ここは自分と関係があるかもというところで、ブリッジフォースマイルについて調べ始めて、応募書類を送って、という流れかな。社会的養護じゃなくても、自分が関わりたいエリアの人たち、犯罪の被害者とかもそうなんだけど、いくつかあって、いくつかのうちのどこでも良かったのだけど、現場が良かったの。
【加藤】あーみーが言ってる現場というのは、何かを抱えてる人と直接やるということだよね。
【網谷】そうそう、当事者と。
【加藤】なるほど、当事者か。実際、あーみーはあーみーで違うものを抱えているけれども、当事者の現場に行ってどうでした?
【網谷】似てる、と思った。
【加藤】それは抱えてるものが?メンタリティ的に?
【網谷】ええと、カミングアウトの問題とか。
【加藤】ああそうか、同級生に言うか言わないか、とかの話か。
【網谷】そうそう。すごく似てると思うし、同級生に自分が児童養護施設にいるって言ってる子の言い方とかも、俺らと似ているし。今、色々な業界のカミングアウトを分析しているのだけれども、それが思春期、中高生の段階でカミングアウトに直面するものという意味でも近い。
【網谷】ただ一方で、違いとしては、例えば人数とか、個別性という話はあるかな。施設出身者って言っても色々な背景があって、セクシャリティも最近はカテゴリが分かれているけど、一括りに言えない感じは施設出身者の方が強いかな。
【加藤】経緯が色々違ったりするよね。
【網谷】そうそう。入所経緯とか。
【加藤】そういう子たちと話す時、あーみーは自分のセクシャリティの話はするの?
【網谷】積極的にはしないけど、聞かれたら答えている。
【加藤】そういう時、向こうの反応、一概には全然言えないと思うのだけど、印象としてはどう?
【網谷】一概に言えない。普通に施設出身者じゃない人に言ってるのと同じ反応。個人個人で捉え方全然違うし、LGBTが周りにいる子は、そうなんだ周りにいるよってなるし、ええそうなの!っていう子もいるし。
【加藤】そうするとLGBTの話としてはそうだったとして、ある意味での打ち明け話だったりするじゃん。そういうことって、現状にあっては特別な話だから。そういう時に話し相手って打ち明け話されたという感覚はあるのかね。
【網谷】ないと思う。俺の言い方かもわからないけど。最近は重く言わないから。
【加藤】それってなんか理由があるの?
【網谷】一つはあまりそもそも俺が自分のセクシャリティのことを重く捉えなくなったから。もう一つは受け取る側が重くない方が楽だから。俺がすごい言いづらそうにカミングアウトしていた時期もあるのだけど、その時の受け止められ方と、今、軽く言ってる時の受け止められ方って全然違っていて、相手の負担を考えると軽く言ったほうが良い。
【加藤】それでも面白くてさ、もしかすると対社会でも一緒かも知れなくて、最初に言ってたLGBTがファッションと一緒になったりして問題をライトに世の中に伝えていくみたいな話と実は一致しているのかなと思って。
【網谷】そう思うよ。
【加藤】結局、受け入れる側が傷まないっていうかさ、おもてなしじゃないけど、ホスピタリティか。そういうのがある伝え方だよね。どこかのタイミングまではさ、相手がどう受け取るかなんて考える余裕ないじゃん。
【網谷】ないない。最初は無理なんだよ、多分。だから、施設の子たちももしかしたらそうかもしれないし、LGBTの若い子たちも言えてる子は普通に言ってるかも知れないけど、1人には言えてるのと、ゼロの人では恐怖の度合いは全然違うし、1人に少なくとも言えたら他のコミュニティの誰かに言うとかね。幼馴染に言えました、次、会社の同僚に言えたとか、あとコミュニティが変わればハードルがリセットになっちゃうから、全コミュニティをクリアして、そしたらちょっと気が楽になるのかなと思う。
【加藤】なるほどね。どこに行っても自分が同じでいられるということだ、逆に。
【網谷】うんうん。
【加藤】そういうのって多分、イニシエーション、って宗教とかで通過儀礼という言い方をするけど、洗礼を受けるとか、越えなきゃいけないハードルが段階的にいくつかあるんだろうね。
【網谷】あるんじゃないかな。少なくとも俺はあったし、あったから今、相手に対する配慮みたいなのはできるようになったけど、そこまで考えてなかったもん、ずっと。
【加藤】逆に言うと、言う必要があれば言うにしても、理解されたい欲求みたいなのはあるの?相手に依るか。
【網谷】俺はもうない。今は理解をそもそも求めてないの。
【加藤】さっきタグの話の時に言おうかと思ってたのだけど、タグだから趣味嗜好性の問題だったりもするじゃん。すごい普通のこと言うと、僕が焼きもの好きです、という時になんでなんで、って言われたらめんどくさいわけだよ。焼きもの好きです、良い趣味ですね、それで終わりかなと思っていて、勿論、LGBTの話は趣味嗜好の問題では片付けられない根源的な話だとは思うけど、ある意味、外向きにはそういう扱いになっても良いのかな、と、あーみーとか見てると思う。
【網谷】俺とかは本当にそうで、タグとして認識して欲しくて、そのタグを持っているから、「彼女いるの?」って聞かないでねめんどくさいから、という会話の前提を作ってるのだと思うの、早めにタグを示すことで。一方で趣味嗜好の問題と混ざるにはすごいセンシティブで、LGBTの話は。選択ができるかどうかというと、選択ができないから、選択性の話で言うと、趣味嗜好性の話とは一緒にしないでという人は多い。
【加藤】その辺が逆に言うときちんと線を引いとかないといけないところではあるよね。
【網谷】趣味嗜好の話で括っても大して影響ないと個人的には思っているんだけど、がっつり社会問題として話をすると、趣味嗜好の話ではずれるんだよね。だから、難しいというか。
【加藤】本音と建前じゃないんだけど、考え方と見せ方が違ったりするのかも知れないよね。
【網谷】そうそう、それはあるよね。
大切な人へのカミングアウトを応援するNPO、バブリング
【加藤】NPOの話をちょっとしたくて、バブリングはどういう経緯で始めたの。今だって大変な仕事があって、その上でNPOを立ち上げた、ということでしょう。
【網谷】前身のバブルというイベントを動かしていたスタッフの1人がNPOにしない?って言い出したのがきっかけで、ちょうどブリッジフォースマイル入って2ヶ月くらいだったのだけれど、じゃあまあやるかみたいな感じ。
【加藤】それは何を目的とするNPO、みたいなことは決まっていたの?
【網谷】決まってなかった、その時。元々のイベントはテーマが友だちの友だちと友だちになる、ってことにしてたのね。それで手応えとして『セクシャリティのタグで見ないで、キャラクターとかコミュニケーションから仲良くなりたいかを判断する』というのが目の前で行われていて、そうすると後からついて来るんだよね、タグの話って。セクシャリティを超えて仲良くなっていくのを目にしていたし、例えばこの環境だったらストレートの友だち連れて来れるということになったりとか、連れてくるためにカミングアウトする人もいたりとか、手応えとしてはすごい面白かったんだよね。だけどそれはあくまでも身内のイベントの延長だったから、それが社会的効果を生む仕掛けだとは思っていなくて、やり方考えなきゃねということで、Vision、Missionみたいなものが決まったのも去年の12月かな。
【加藤】ではまさにこれから。
【網谷】欧米ではカミングアウトデーというのが10月11日にあって、そのカミングアウトデーの認知を日本で拡大していくということの活用も含めて、大切な人へのカミングアウトを応援するというのがミッションになっている。カミングアウトに迷っている人たちが、少しでもカミングアウトしやすいような土壌を作りたい。
【加藤】そういう意味で言うと、ブリッジフォースマイルは10年続いている組織だけど、一方で全然違うなと思ったのが、バブリングって当事者によるNPOじゃん。そこでなんか違いってありそう?
【網谷】あるんじゃないかな。当事者の言葉の説得力みたいな。
【加藤】それは何をしようってことに対する、ってこと?
【網谷】そうだね。うち半分くらいが同性愛者なの。初期メンバー俺入れて11人いて、5人が異性愛者で、6人同性愛者なのね。でもその異性愛者たちはカミングアウトされた当事者で、カミングアウトしてない同性愛者もいる。俺ともう1人はネットで検索すれば名前出てくるくらいにオープンにしていて、ネットレベルではないけどフルオープンにしている人が1人いて、あとはコミュニティレベルで言っている人とか、ほぼ言ってない人とかいるの。そのカミングアウトのグラデーション自体も、当事者視点としては大事だと思っているから、どの段階の人にはどういう抵抗があるのかというのを、ちゃんと内部で話し合いが持てるんだよね。今、俺がさらに1人誰かに言うのと、カミングアウトしてない人が誰かに言うのでは違うから、という話が中でできて、そのハードルの違いに対してアウトプットを考えていけるというのは強みかなと思う。
【加藤】それって単純な多様性みたいな話じゃなくて、粒度が違うというか、カミングアウトに対する進捗度合いとか、どれくらい突っ込んで話してるかとか、さっき言ったみたいにどれくらい重く言ってるかとか軽く言ってるかとか、そこで結構バラけてると思うよ。それが最終的に色々な視点じゃないけど、グラデーションということになるんだろうね。
【網谷】仕事場の話をすると、IT業界にいた時は、別に仕事とLGBTが直結する話は本来はないのだけど、仕事場にはパフォーマンスを出すためにカミングアウトしていたと思ってるのね。俺すごく感覚的なところがあって、ピンと来るかというのは重要だと思っていて。
【加藤】本能を大事にしている感じだ。
【網谷】そうそう。だから、ありのままの自分でいられる環境づくり、例えば関係の深い、コミュニケーションの頻度が高い上司・部下に自分の本来の状態を知ってもらうというのは、ありのままの自分でいるスイッチなんだと思うの。じゃあ会社の中でLGBTの話をするかというと大してしないんだけど、そういう環境ができている状態であれば仕事モードがオンの状態でも、ちゃんと本能が働く、感受性が敏感でいられる、という状態を作れるんだと思ってて、それを作るためにカミングアウトはしていた。俺、飲み会もすごく行くから、飲み会に行った時にも、自分自身がオープンな状態でいるということが、例えば何か相談をしてもらった時にもきちんと対応ができる状態を作れるのね。それは皆そうかも知れないけど、色々な場面でちゃんと自分でいる、ということが少なくとも仕事をする上では必要だと思うの。
【網谷】ベンチャーに入る時の転職は2013年頃なんだけど、その時はカミングアウトした状態で転職活動をするという実験をしていたの。自己PRの中にもNewsweekの話と、バブルの話と、バンドのマネージャーやってたとかこととかを書いて、転職活動した時に面接官はどういう反応をするのかというのを見ていたのと、面接の段階でカミングアウトして会社に入って仕事をするってどういう環境なんだろうというのを見たかったの。
【加藤】それ未体験だったもんね、前の仕事だと。
【網谷】そうそう。それを体験してみたくて。最初は周りが「他の人にも言っていいのかな?」みたいな雰囲気だったんだけど、なんとなくバレていったし、俺の方からも言うようにしてたので、基本的には全員知っていて。そこは役員が若かったから、皆がいるところで俺のことゲイいじりみたいなのして遊ぶ、とかもあったりして、なるほどこういう感じかというのを見れたんだよね。
【加藤】じゃあ割と機能していたんだ。
【網谷】手間を省くって意味ではすごく機能していたし、だけど今までよりコントロールが効かないというか、一対一で話してカミングアウトしたわけじゃないから。
【加藤】そうか、丁寧な段取りを踏んでないから、という。
【網谷】そうそう。それぞれの社員というかメンバーが、同性愛とかLGBTに対してどういう考えを持っているかという受信が事前にできてないんだよね。
【加藤】なるほど、前提条件で向こうが何を持ってるかというのがわからないんだ。
【網谷】だから俺のこといじってる時のそれぞれの反応から読み取るとか、そういうアプローチになっていって、すごくそれまでと変わった感じがした。居心地が良かったかどうかというのは前職と比べて大差ないんだけど、受発信の感覚が変わったかな。
【加藤】それはある意味、両方、世の中には起こり得る状況だよね。他のLGBTの人にとっては。
【網谷】やってみると、こういうことになる、こういう結果になる、ということは言えるようになった。
【加藤】経験則だよね。
【網谷】同じパターンでブリッジフォースマイルも入っていて、ブリッジフォースマイルは女性が多いのもあるし、割と俺の仕事が色々な人とコミュニケーションを取れる仕事なので、徐々に色々な人とそういう話もできるようになった感じがしてる。あとブリッジフォースマイルが違うのは、プログラムに性教育も入って来るので、仕事でもしばしばそういう話題になることもあるんだよね。
強く寛容な社会
【加藤】今、多くの時間を割いてるのはブリッジフォースマイル?
【網谷】うん、その通り。
【加藤】そのうち一緒にやってるカナエールはどれくらい?
【網谷】カナエールは変動はするけど2割くらいかな。
【加藤】あれ面白いと思ってて、事務局でもフルで時間割ける人ってそんなに多くないというか、ほぼいないに近しいじゃない。一方で回したり関わったりしている人もアフター5とかじゃん。だから実はフルコミットしてる人が誰もいないみたいな感じでしょう。もしかしたら本来は単独でNPOになってるようなプロジェクトかも知れないけど、それを協力して回そうとしてるというのがすごいなと思って。
【加藤】どうですか、カナエール2年目は。俺がそこにしかいないから、カナエールの話を聞くしかないんだが。
【網谷】バッティングセンターみたいな感じ。
【加藤】球がたくさん来ちゃうみたいな。
【網谷】プロモーションで言うと、本当に難しくて、今までのキャリアになかったというのもあるんだけど、頭が全然動かないの。どうしたらこうなる、って発想が全然出なくて、事業部長のゆってぃ(以前、ET Luv.Lab.でインタビューしている植村百合香さん)から、去年やったこととかをもらってとにかくやるみたいになっていて、正直、困っているというか、申し訳なく思っているというか。
【加藤】いやいや、今年プロモーション初めてじゃない。去年、僕も初めてだったから完全に見取り稽古をやってたわけ。ゆってぃになんか言われたら、僕ができることを返す、という。今年2年目でようやくある程度の判断を持ちつつ、了承は確認取りつつ、他の人とも動けるようになって来たのかなという感じなので、なんか最初はタスク全部こなして、体に覚えさせて、さっきの経験則じゃないけれど、次のフェイズで何やるかって話だとは思うんだよね。
【加藤】あとすごい思うのは我々、NPOのプロジェクトのプロモーション、集客の専門家じゃないじゃん。世の中にそんな専門家何人もいないはずで。皆、初心者の状態でやってるのに近しいと思うんだよね。ただプロジェクトが成長するためには、結局、マネージメントも大事なんだけど、個人が成長していかないとやっぱり伸びなくて、あーみーが言ってるみたいな今全然わかんないというのは逆に言うと、1年やれば1年プロモーションやった分のノウハウは溜まるわけじゃない。それってやっぱり面白いよね。逆に言うと全体の仕事の2割のコミットの部分で、そういうノウハウが作れると思えばさ。
【網谷】こないだTwitterの文章を考えていて、俺文章は好きだからさ、切り貼りではあるんだけど、どの言葉をピックアップすれば響くかみたいなことにはすごい頭回る感じがして、できることもあるんだみたいなのを思い出せたのは良かった。
【網谷】コンテストチームの方は2年目だから、割と先手で動けるというか、あれやんなきゃこれやんなきゃとか、インターンの子に仕事捌いたりとか、思い出しベースだけどできていて、去年よりもコンテストチーム自体はうまく進めたいなと思ってる。あとエンパワ研修もオリエンテーションも今年初めて見れたから、カナエールの全体がやっと見えて来た感じがしてて。
【加藤】去年の秋のキックオフの帰りに、覚えてるかわからないけど、帰りの電車で「プロモーション大変だよ」って言ったんだよ、あーみーに。その時言った大変の何が一番大変かというと、やはり5,000円のチケットを買ってもらうのが大変。すごくハードルが高いと思っていて、やっぱりそこをどういう風にクリアしていくというのが大変なことで、うまいこと言って買ってもらうという次元の話じゃないと思うんだよね。綺麗に飾り付けるじゃ、自分の時間を割いて、5,000円のチケットを買って、会場には来てくれないんじゃないかな、というのが、商売で5,000円の商材を売るより難しいことだと思っている。
【加藤】あーみー自身はカナエール自体には違和感なかった?ある種、就職したのがブリッジフォースマイルだったわけじゃん。で、配属された先が2割はカナエールだったわけじゃん。という時にカナエールというプロジェクトを見た時の印象とか違和感はなかったかとか。
【網谷】全然ない。俺、一番最初がカナエールだったから。違和感なかったな。ただ、カナエルンジャーに会えたのも6月とかだったから、正直あまりカナエール自体をつかんでいないまま、コンテストチームに入って、とにかくイベントなんだと。イベントを回す係なんだ、みたいな感じで動いてた。だからカナエールに対して感想を持ったのは本当に終わってから。
【加藤】それは似ていて、俺も3年前のコンテストの当日が最初の仕事だからさ、いきなり完成形見せられて、すげえなあと思って、そこからがスタートだったので、そこは同じかも知れないね。
【網谷】事前発表会くらいにカナエルンジャーに初めて会って、この子たちすごいなと思ったし、関わる大人もすごいなと思ったし、とにかく大きいプログラムだなと感じて、お金の動きとかその時まだわかってないけど、未来を作るプログラムというか。
【加藤】なんで今日あーみーとカナエールの話をしたかったかというと、夢を語るというのは壮大なカミングアウトだと思っていて、カナエールでも話題になるけど、身内に自分が施設出身って話すということとまた別の問題として、もしかしたらカナエールのコンテスト自体はクローズドだけど、Newsweekの表紙なるみたいな話だったりするのかも知れないじゃん、子供の気概としては。それをさせてるみたいな話だったらまずいと思うんだけど、自分の判断でそういうことにチャレンジするという選択をした人に対して、僕らが何ができるかという話だったりすると思っていて、そういう意味では今からバブリングが大事な人にカミングアウトを丁寧にやっていこうということと、あまりずれがないんじゃないかと思うよね。
【網谷】そうだね。うちのスタッフの1人もカナエールみたいなカミングアウトスピーチやる?みたいなアイデアを言ってて、去年カナエールにも何人か来てるんだけどね。通じるものはあるというか。
【加藤】もしかすると、あーみーがカナエール入って来てあまり違和感なかったっていうのは、自分の経験を割となぞってるところあるのかも知れないね。
【網谷】ああ、そうかもね。そうかもそうかも。見世物的な感覚は本当になくて、本人たちが選んで挑戦するのであれば、後輩たちにとって良いことだから。100%そう思った。
【加藤】カナエールでもロールモデルという言い方をしていて、ロールモデルという言い方が100%正しいかどうかはわからないのだけど、後進に対して何ができるかというと、後輩の面倒を細かく見るというよりは、自分がやり切るというか、自分が後輩が見てて面白そうだと思うことをやるとか、そっちだと思うんだよね。
【網谷】そう思う。そう思う。
【加藤】そう考えると、僕のフリーランスとしての働き方みたいな話も、あーみーのバブリングの話も、カナエールの話も、結構似てるのかなという気はしていて、そんなところもあって、今日、ET Luv.Lab.の復帰第一線、あーみーに話を聞いてみようと思って。
【網谷】そうかそうか。そうだね。
【加藤】なんかさ、最後に後輩に言いたいこととかある?
【網谷】うーん、ありのままに生きよう、みたいなことは思うよね。
【加藤】ありのままに生きる、ってすごい素直に出て来た言葉だけど、なかなか言えない話だったりするよね。
【網谷】そうかもね。
【加藤】なんか僕ら着飾ってなんぼだ、って文明の中で生きてるじゃん。
【網谷】そうだね。ありのままに生きることって、わがままに生きることではないと思っているし、ありのままに生きるってすごい強さが必要だと思っていて、ありのままに生きることを選ぶのであれば、ありのままに生きていることを許容しないといけないから、寛容になることにも強さがいると思っている。バブリングのビジョンの中で「ありのままの自分でいることができ、あるがままの他者を受け入れられる強く寛容な社会」ということを言ってるのだけど、「強く」は絶対入れたくて、ありのままに生きるために強くなるのは、必要かなと思ってる。そういう自分と一緒に誰かがいてくれるのであれば、みんな共に生きていけるというか。
【加藤】その話すごい面白くて、昔から言ってるんだけど、よく「弱きを助け強きをくじく」ってあるじゃん。うちはそれをやらない、っていう話をしてて、強い人探して来て、その人にもっとやれーもっとやれーって言うのがうちの仕事だって言い方をしてるの。ようは僕みたいな誰かの仕事を手伝うという仕事の仕方で、実際に本当に困ってる人を直接助けるみたいなことをやろうと思うと、限りがあると思っていて、だからそういう人たちがうまくいくためには、そこの現場にいる強い人を見つけて、その強い人を助けるないし手伝うというのが、うちが1人でやってる仕事で、一番良い効果を出せるんじゃないかと。そうやって、うちがいくつか手伝ってるものの一つがカナエールだったりして、うちの全体のウエイトで言うと、あーみーがカナエール2割という話をしていたけど、うちも全体から見れば2割にもならないので、実は考え方とか関わり方とかも似てるのかもなあと思っている。今年のカナエールのスピーチコンテスト本番まで、日程も大分迫って来たけれどこれからもご一緒に闘っていければと思っています。ありがとうございました。
【網谷】ありがとうございました。
