小高 朋子
2015.05.26
「作り手の担い手」
小高 朋子 - 旅食ライター・カメラマン
「仕事の相談があるのですがー」、久し振りにご連絡いただいた小高朋子さん。Facebookで全国津々浦々飛び回っているのは拝見していて、いずれまたお話したい人の一人でした。じっくり腰を据えて話すのは、実は今回の取材がほぼ初めてのこと。一次産業の話をしていて、まさか「巨人の肩の上に立つ」話を引き合いに出すことになろうとは。話は働き方の話から、経営、そしてシステムへ。あっけらかんとした笑顔の先に、小高さんが真摯に見つめている世界、一緒に探訪してみてください。
やりたい仕事と働き方
【加藤】小高さんがフリーランスなられたのっていつでしたっけ?
【小高】ちょうど1年経ちました、去年の4月なので。
【加藤】1年やってみてどうですか?
【小高】一応、生きて来れたなって思ってw。
【加藤】最初、不安というか、それって回るのかというのって、先輩みたいな人とかと話を聞いたりしたりしたんですか。
【小高】別にフリーランスに絶対なる、という意識があったわけではなく、なんとなく流れでなったかなという方が大きいんです。
【加藤】僕もなんとなくなりました。フリーランス。なりゆきなので。
【小高】ははは。なので、あまり不安というのは特になく。
【加藤】なんかでも目指すものじゃない感じはしますよね、フリーランスは。
【小高】そうですね。たまたまやりたい仕事をしようと思ったら、どこかに所属してという形でなかっただけで。
【加藤】1年前にやりたいと思った仕事ってなんだったんですかね。
【小高】1年前という区切りがあって、これを絶対やりたい、ということだったわけでは特にないんです。アパレルで長年ずっと働いていて、それが使い捨ての産業だったというか、とにかくものを消費して、新しく生み出していくということに、ちょっと疲れてしまったんですね。なので、違うことしたいなと思って、1年間、大してお金にならなくても良いから、自分のしたいことをしようということで、フリーターだったんですよ、私。その時に色々な地方に行ったり、色々な人と出会ったり、色々な講演会に行って、人の関係を作っていったんですね。その中でたまたま知りあった会社の社長さんが、地方のものの良さを発見して映像にする会社をしていて、「うちで働きなよ」と声をかけてくださって、なんとなく自分がやりたいことと近いし、映像という手段も一つ勉強になるなと思って、働いたんです。
【小高】そこで1年働いたのだけど、所属をしていると自分の興味とか、やりたいこととか、伝えたいこととかより、どうしても仕事の目的があってやらなければいけないことになるじゃないですか。なので、ここでずっと働くのも違うなと思って辞めたんですね。そこからフリーランスになったので、不安と言えば不安、収入の問題とかありましたけど、その数年で知り合った人たちからも一緒に仕事しようというお話はいただいていたので、まあどうにかなるかなと思って。
【加藤】そうすると、うかがいたいと思ったのは、アパレルでも作る側と売る側と伝える側みたいなのがあると思うのですけど、アパレルの時はどこにいた感じなんですか。
【小高】服飾の専門学校に通っていたので、大抵の洋服は作れるんですよ。最初はデザイナーになりたかったんです。学生らしい夢ですよね。なんですけど、いきなりデザイナーにはなれなかったし、企業デザイナーにあまりなりたくなかったんですね。デザイナーズブランド、コレクションをやるようなブランドにとりあえず入ったんですけど、デザイナー志望ということで取っていただいたものの、「初めは販売からお願いね」と言われて、そこで1年くらい働きました。そこで販売も結構楽しいなと思ったのと、デザインすることを本当に仕事にしたいか、と考えるとちょっと違うかもとも思ったんですね。それから他の会社に移ったんですけど、そこでは、販売やりながら、生産管理、オリジナルの商品開発、人材教育などもやって、小さいお店だったから色々できたんです。
【加藤】ただやはり、次のものを作りつづけるサイクルが早いということですよね。
【小高】そうですね。自分でオリジナルの商品を作って、店頭に並べて、自分で売るということもトータルでやっていたので、ダイレクトにお客さんの声が聞こえてくるんです。自分の大好きなお客さんに自分が作った服を買ってもらうんだけど、来年には違うものを薦めなければいけない。だけど、このお客さんは去年作ったあの服で、すごいかわいいし、新しいものを無駄に買う必要ないな。流行りだからこれも買った方がいいんじゃないですか?、と店内のものから薦めなければいけないことに違和感があって。本当はもっとこの人に合う服っていっぱいあるのにな、という違和感がずっとあったんです。
想いと技術の両輪
【加藤】次の映像を作るような会社で取材に入ったところというのは、もうちょっとロングスパンのものを作るようなところが多かったんですか?
【小高】その映像制作会社がやっていたのは、ロングスパンのものを作ってるかということよりは、人にあまり知られていない技術だったり、ものの生産の現場を伝えるということだったんですね。
【加藤】例えばどういう?
【小高】その会社は割と中小のものづくり企業の取材が多くて、アパレルとは全く関係なく、どちらかというと、Made in Japanの鉄板加工とか、ネジを作ってますとか、実は車メーカーのこの部品作ってますとか。
【加藤】じゃあ町工場とか。
【小高】そうですね、町工場とか。
【加藤】どちらかというと工業系?
【小高】そうですね、工業系が多かった。
【加藤】なんかそういうのフェチズムがありますよね。
【小高】すごいかっこいいんですよ。機械の音で調子がわかるとか、あそこの部分がおかしい、みたいなことが日常的なことでわかるというか。
【加藤】僕あまりそういう現場行ったことないんですけど、一度見せてもらって面白かったのが、高松のローカル電車の「ことでん」というのがあって、一度すごい赤字で大変だったらしいんですけど、廃線を他の鉄道会社から払い下げてもらって、その電車をメンテナンスして走らせているんですね。そのことでんの仏生山工場というところにカメラマンの人が入ってるんですけど、その人が撮った写真がすごい良くて、写真集としても出版されていて、多分ああいう世界なんだろうなと思いました。今の「すごい、かっこいいんですよ」と言ってたのが、現地で会ったカメラマンの人が、工場を案内しながら、かっこいいんですよ、って言ってたこととすごい重なって。
【小高】どちらかと言うと、体力仕事で、3Kと呼ばれるような現場だったりするんですけど、現場で働いてる人たちはすごいかっこいいんですよ。その魅力を映像を通して伝えるという仕事をしていました。なので、私がアパレルで違和感を覚えたことと関係がないと言えばない、直接は繋がらないんだけれども。
【加藤】でも、もの作りの現場ではあって。
【小高】アパレルにも生産現場というのがあって、織屋さんがいたりとか、パターンをカットして縫う職人さんがいたりとか、そういう現場のことって買う側ってあんまり考えてなくて、安いから買うよね、安いから捨てるよね、というのがありますよね。それが大量生産を生んで、劣悪な環境で働く人が増えたりする。そういうのおかしいな、という思いがあって、もっと現場の声を聞いたりとか、作る人の思いが伝わればものを大切にする気持ちも生まれるなと思って、それはアパレルに限らず、お皿やコップ作ってる人もそうかも知れないし、全てのものに共通すると思います。
【加藤】あまり考えないで使っていると、ものの向こうに人がいるみたいなことの想像力って働かないですよね。
【小高】そうですよね。それを伝える手段として、写真なのか、文字なのか、映像なのか、色々あると思うんですけど、その一つの手段として映像の会社に入ったということですね。
【加藤】その映像というのは、どういうチャネルで流してたんですか?Webなのか、テレビなのか。
【小高】Webがメインですね。企業や地方の商工会議所から、うちの地域を紹介してくださいという依頼を受けて、ホームページとか、そこの企業の講演会だとか、イベントの時に流すような映像です。
【加藤】そういうことにどこまで踏み込むのかって、結構難しいなという気がしていて、技術そのものにフォーカスするのか、もうちょっとその人の人生みたいなことをやろうとするのか、それとも働き方みたいなところでやるのか、どういうスタンスでやっておられました?
【小高】そこの会社の映像の特徴は技術の紹介というよりは、人の背景の紹介。どんな想いで作ってるのか。例えば、ネジの加工が素晴らしいという技術を紹介するのであれば、それこそCGを使ってこれだけ素晴らしいとアピールするとかあると思うんですけど、そういうのが私達がやっていた映像ではなくて、その人がなんでこれをやり始めたの?とか、なんでそれをそこまでやるの?とか、その人が普段考えていることはどんなこと?とか、人にフォーカスした映像作りをしていました。
【加藤】そういう方がこっちも感情移入しやすいですよね。
【小高】そうですね。ただ、両方が必要だとは思うんですよ。人の感情だけにフィーチャーして紹介しても、人が使って疑問を持てば、かえって信頼性をなくすと思うんです。
【加藤】想いと技術が噛み合ってない、ということですね。
【小高】そうですね。本当にやるべきことは、人にフォーカスする一方、技術を磨き上げていること、その両方がないと、本当に良いものは生まれないはずと思いました。
【加藤】そういう意味で言うと、取材ということ全般がそうだと思うのですけど、この取材もそうだと思うんですけど、ある種、外部からスポットで入っていくじゃないですか。そういう時にフラストレーションというと変だけど、やりづらいと思うこととかないですか。
【小高】ありますよ。紹介したいけど、気持ちはわかるけど、それと技術が噛み合ってない、と思うことやっぱりありますよね。
【加藤】そこの両輪、一方で噛みあうまで待つ、というのが伝える側としてはやりたいけどできないところ、というやつではありますよね。
【小高】仕事となったら、この期間でこの金額をもらって、紹介をしてくださいというのが依頼なので、それは難しいですよね。そこにもどかしさもありましたね。
【加藤】そのくらいから、色々な土地に、人に会いに行く、みたいな仕事になって行くんですか?
【小高】そうですね、アパレル辞めてフリーターだった1年間で、自分で色々あちこち行くようにしだして、ただそれは仕事としてではなくて、趣味というか自分の時間。「知るため」にあちこち回りました。映像の会社では色々な地方を紹介する仕事だったので、もっと地方に行くようになって。仕事としてはそこからかな、あちこち行くようになったのは。
地方のあるがまま
【加藤】地方って良いな、って思ったタイミングってありますか?どこに行った時、とか。
【小高】そうですね。地方って良いなと思い始めたのは、仕事としてではなくて、新潟の大地の芸術祭というアートイベントに、フリーターの時代に運営側にボランティアとして入っていたんです。その時に一週間くらい泊まったり、何ヶ月おきかに行ったりしていて、むこうの顔見知りができたりするんですよね。田舎のおじいちゃんみたいな感じで。私は生まれも育ちも神奈川県相模原市なんですね。母の実家と父の実家も割と関東圏なんですよ。東京と埼玉で。
【加藤】それ僕も一緒です。横浜と八王子なんで。
【小高】そういう感じだと思います、感覚的に。田舎ってものがないんですよね。なので、新潟のおじいちゃんができたみたいな感じで。そういうのってすごい良いなと思ったり、例えば、大雪が降ったら「大丈夫?」って心配したりとか、何かがあった時に助け合える関係、というのがすごい自然だし良いなと思ったんですよね。
【加藤】僕も多分地方回りだしたの25歳過ぎてからだと思うのですけど、子供の頃は、皆、夏休みとかになると田舎帰るのに車で5時間かかったよ、とか言っていて、俺、八王子だからたかが知れてるよなあ、となんか寂しい思いした記憶もあるんですけど。ただ、大人になって現地入って、繋がり生まれるみたいなのはとても良いことだと思っていて、僕の場合と同じかどうかわからないんですけど、僕が27、8歳になった時に、東京で知り合った人たちが、結構、地元帰ったり、地方に移住したりしたんですよね。それで僕が地方に行きやすくなったのかなという感じもあります。ただ、本当に地方のこと見ようと思うと、現地に案内してくださる人がいた方が良いな、とは思います。
【小高】そうですね。今って地方活性とか、地方に若者をとか、色々なところで言われていると思うんですけど、私あんまり地方を特集する必要ないと思ってるんですよ。観光客が沢山来ることが必ずしも良いこととは思わないんです。ただ、そこに住みたい人が住めれば良いだけ、すごいシンプル。私のまわりでも地方出身の友人が、本当は地方で仕事したい、本当は地元に帰りたいんだけど帰れない、という人もいます。それにすごい違和感を感じています。ただ、その人たちが帰れるためには、地方に仕事が仕事が必要なだけだって思うんですよ。色々な建物を作ったりとか、目を引きそうなものをわざわざ掘り起こして、一生懸命アピールする、って本当はしたくないんです。もっと普通に静かに幸せに暮らせればいいんですよ、皆が。
【加藤】あるがままに、みたいなことだ。
【小高】はい。なので、一生懸命ないものを掘り起こすとか、何かを無理に良いんだ良いんだってアピールするのはあんまり好んでいなくて、仕事を作れる仕組みがないかなって思った時に、一次産業が大切だなと思ったんですよ。それで今、農業にフォーカスして仕事をやってるんです。、結局、サービス業って第三次産業じゃないですか。でもそれって人がいるところにしか生まれないので、人がいないとこえろはサービス業はなかなかうまく発展していかない。絶対必要なのは一次産業の農業だなと思って、一次産業がうまくいって、雇用が生まれれば、帰って来る若者が増えて、一次産業が発達すれば、加工品とか二次産業が発達して来ますよね、絶対に。そしてまたそこにも雇用が生まれて人が増える。で人が増えればサービス業だったり飲食業だったり、お店とかも増えていくなと。そしたら、普通の地方が豊かになるな、と思っています。
【加藤】ともすれば、「人を動かす」のが一番大変で、人を動かさなきゃ、って皆思ってしまったりすると思うのだけど、例えば、今おっしゃってたみたいに、加工品になれば日持ちもするし、流通させても色々な場所へ、それこそ人の多いところに持って行けるということですよね。
【小高】どう考えても、観光資源がないところに人を呼ぼうなんて無理なんですよ。
【加藤】そうですよね。しかもそこで言われてる観光資源っていうのが観光として面白いのかというのもありますよね。
【小高】そうそう。無理矢理作った資源というか。
【加藤】いわゆるバス旅行みたいな感じで、ツアーで、というのは、元々、旅の方のジャンルでもニーズは落ちてるんだろうと思うんですけど。巡礼みたいになっちゃうと面白くないですよね。
【小高】今、うまく行ってるところはそれで良いと思うんですけど。
【加藤】勿論。
【小高】それを真似したところで、結局全国に同じようなものが広がって、何の差別化も生まれなくて、全部が共倒れしてしまうと思うんですよ。
【加藤】そうですよね。ほんとそうだ。
「巨人の肩に上に立つ」システム
【加藤】今の農業の仕事って基本的に、どういう仕事をしていますという説明の仕方をしてるんですか_?
【小高】これがまた難しいんですけど。
【加藤】ですよね。
【小高】私が今関わってるのは、農業をしたい人がちゃんとうまく儲かる仕組みを作る、というようなことですね。
【加藤】しばらくずっと大きな枠組みのもとで農業をするというスキームがあって、だから生産調整が必要だったりとか。でも多分そういう話じゃないんですよね、仕組みって。
【小高】加藤さんの言う大きな枠組みも素晴らしい仕組みだと思うんですよ。本当に作ることに集中できるから。だけど、それに頼りすぎてしまったら、自分が作った生産コストがいくらかを知らないということが起こり得るんですね、実際。ほうれん草を作るのにいくらかかったから、いくらで売る、というのは本当は知らないといけないじゃないですか。どの産業でも知らないといけない。だけれど、それをあまりして来なかった人たちがいる産業なんですね。
【加藤】そうなんですね。
【小高】だけれど、それだと、やっぱりこれからはやっていけない。だから例えば、経理だったり、人材育成だったり、どの産業も普通にやっている、「やらなければいけないこと」を学ぶ仕組み、それを学んでいけば、農家さんって野菜作りに関しては命をかけてやっておられるので、すごく生産効率が上がったりするわけですよ。
【加藤】今、おっしゃったことって、一般的な言葉で言うと、経営、ということですか。
【小高】そうですね。経営を学んでもらう仕組みであったり、勿論、栽培技術も学ぶ仕組みは必要なので、そういう仕組みも作ってはいるんですけど。
【加藤】だからすごくうまく頑張っている農家さんもおられるじゃないですか。だけど、仕組みの中で作ってれば、ということになると、どこの業界でもそうだと思うんですけど、思考停止を生むんじゃないかと思うんですよね。多分、作る情熱とかは衰えてないから停止でもなんでもないんだろうけど、よりよくするという伸びしろが今まで手をつけてない分野に、経営の方にある、ということじゃないかな、と今お話うかがってて思いました。
【小高】そうですね。
【加藤】買ってくれる人に対するアプローチというか、想いが伝わるかみたいなところかなという気もしていて。
【小高】例えば農業でよく一般的に皆が注目しやすいのって、無農薬です、有機です、こんな変わったものを作ってます、こんなこだわりがあります、その上で美味しい、というのがあると思うんですけど、そういう篤農家さんがいて、一方で産業として絶対に必要なのが、変な言い方すると、ある程度考えなくも済んで、システムの中でやることが決まっていて、真面目にそれをやっていればお給料が貰える仕組み、というのが農業にも必要だと思うんです。全員が篤農家でこんなに頑張っています、って世界は成り立たないんですよ。人口がこれだけ増えた上で、全てがそういう生産方法で間に合うわけなくて、もっとシステム化されたベースがあるからこそ、こだわって生産ができるし、こだわったやり方が作れるし、変わった野菜を作れるし、無農薬でも作れる。両方が必要だと思っていて。
【加藤】ベースになるシステムで、基本的なことが煩雑にならなくて済むようにする。
【小高】そうですね、そういうことです。例えばお米を炊くって、昔だったら薪を切って火を起こして、鍋に入れて、炊くというのを毎食、ということじゃないですか。でも今は炊飯器で皆が普通に美味しいお米を炊ける。それと一緒だなと思っていて、勿論、薪で炊いた方が美味しいと思うことはあると思うんですよ。でも一般的には皆炊飯器で炊いて食べるじゃないですか。それが美味しいね、となっている。ただ特別な時は違うお米の炊き方もするよね、ということだと思うんです。野菜とかも一般的に流通する、食べれるものというのは、それくらいの仕組みで食べれるシステムになってるべきだと思っていて、だけどたまにはすごく美味しい、変わったもの、特別じゃなくてもいいから誰かのこだわったものを買いたいよね、ということかなと。この話、すごいわかりにくいですよね。
【加藤】いや、それすごいわかりやすくて、こないだたまたま自分の記事がそこそこ反響あったんですけど、「丁寧な暮らしが丁寧過ぎるという話」ということを書いたんです。今世の中にある丁寧な暮らしの話って、丁寧過ぎて、日々の暮らしとか生活回せないからリアリティがないみたいなことを書いたら、それわかるって声がネットで多かったんですね。結局、「回せないと、意味がない」と思っていて。
【小高】両方が成り立たなくなりますよね。
【加藤】実はその話ってうちの業界にもあって、「巨人の肩の上に立つ」という言い方をするんです。例えば、Webサイトを作る時に、WordPressってベースになるシステムがあって、それは色々な人が力を合わせてオープンソースのソフトウェアとして作っているんだけど、それは基本的な部分だから、それを僕みたいなのがカスタマイズして実際のWebを作るという仕事をしています。ゼロのところからのシステム開発をサボれるわけです。世の中の仕事って実は大体そういう風になって来ているんですけど、農業にはそれがない、ってことですかね。
【小高】そうですね、仕組みがあまり作られて来ていないので。
【加藤】流通させて販売する方の大きな傘はあっても、作る側にそういう楽する仕組みがなかった、というか少なかったということなのかな。トラクター借りやすい、みたいなのはもしかしたらあったかも知れないですけど。もっとやれることあるかも、ということですよね。
【小高】そう。トラクターもそうかも知れないし、農機具だってもっと使いやすい仕組みで皆が回せるものがあるかも知れないし、除草するロボットだってもっと皆が安価で使えるものがあるかも知れないし、それこそ人材教育をする仕組みが農業界でもあるべきかも知れないし。それで、今やってるのは経営や人材育成をもっとやっていきましょう、って言うビジネススクールなんですね。
【加藤】その辺の、動機付けみたいなのは農家さんたちに対してどうしてるんですか?
【小高】この仕事は、農業法人の方と一緒にお仕事させていただいているんですね。。なので、その農業法人の仲間たち、意識の高い人達の間でそういう仕組みを使っていって、その成果が出てくれば、色々な人に広がっていくなと思います。その農業法人の仲間、うまく成功している方達のところに行って、こういうところが素晴らしい!とか、どういうことでこの仕組みを作ったんですか?、というのをインタビュー取材して、オンラインでやっているアグリビジネススクールの中で配信をする。それで見てもらって学んでもらうということをしています。
【加藤】それってこれからやろうと思ってる人たちからの反応みたいなものってありますか?
【小高】新規の事業者に関しては、まだまだこれからですね。
【加藤】そうか、既存の農業者の人が、それを勉強してるんですね?完全に新規就農かと思ってしまいました。
【小高】ううん、両方です。仕組みに参加してもらうのは、新規とか既存とか、そういう枠は設けていなくて、誰でも使ってもらえばいいなと思っているんですけど、ただ経営マネージメントみたいな話がお堅い話になるので、見てて楽しいかというと、楽しくはないですよね。なので、ある程度、経営を回している方達のほうが、逆にすごいそれわかるし、自分たちの社員にも教えなきゃいけないという反応はあります。もう少しわかりやすくやっていかなくてはいけないという思いはあるので。
【加藤】場合によっては切り分けたりとか。
【小高】そうですね、今調整中、というところです。
【加藤】多分、自分の中に経験則がある状態で人の話を聞くのと、まっさらな座学で受けるのって全然違いますよね。
【小高】そうですね。
次に持ち越すもの
【加藤】今日うかがってる話とかも、全部そうだと思うんですけど、専門学校の勉強があって、アパレルがあって、動画があって、農業の話がある時に、前に学んだことの踏襲というか、経験則があるわけですよね。それで新しいところいってる感じがするというか、他の人がアグリビジネススクールを受ける時にも、何かそういうとっかかりがあると良いのでしょうね。
【加藤】今はフリーランスの仕事としては他に単発の仕事もある感じですか?
【小高】単発のお仕事もありますよ。
【加藤】例えばどういう仕事されてるんですか?
【小高】例えば、地方の村の紹介をしたいんだ、そこのホームページを作るので、取材行って来てくれないか、みたいなお仕事ですね。あそこの地域のあの人とあの人とあの人に取材をして、取材原稿と写真、というお仕事いただいて、成果物を納めるという形。
【加藤】僕も仕事のやり方いくつかあって、結構一人で入っていく仕事と、フリーランスのチームでやる仕事と、どっちも楽しいなと思いますけど、専門的な仕事として評価されて仕事発注されるみたいなのは面白いですよね。少なくともお客さんは自分の会社の中にない機能だと思って依頼するわけで。
【小高】そうですね。嬉しいですね、楽しいです。
【加藤】これからどんな仕事したいとかありますか。ぼんやりとした質問ですけど。
【小高】うーん。
【加藤】大体、この手の夢とか目標みたいな質問すると皆「あれー」って言い出すんですけど。
【小高】なんでしょうね。夢というか、自分が興味があったり、本当に良いなと思うものを、人に伝えることがしたいなと思ってやっているんで、それは変わらないですね。その形が果たして写真なのか文章なのか映像なのか、もしかしたらぜんぜん違う形になるのか、それはわからないから、それが楽しみかな、って感じです。
【加藤】たしかにコンテンツだから、コンテンツの作り方って別に規定はないですよね。
【小高】よく肩書は何ですか?って聞かれた時に困るのが、別にカメラマンでもライターでも営業マンでも編集マンでもなくて、どうしようって言うのがいつもあって。
【加藤】名前だけ書いてあれば良いという。
【小高】本当に方法はこだわってない。伝える手段としての方法は。ただ、良いものがちゃんと残って、そこで普通に人が暮らせる産業がある、そんな幸せな世の中になるような仕事がしたい。
【加藤】良いですね。小高さんのお話と似てるなと思うところがあって、僕、肩書プランナーって書いてあるけど、全然プランナーじゃなかったりするから。やってることとか。ただプランナーって書いてあるとどうとでも取れるから、一応プランナーって書いてあって、企画だけやりたいんですって人では勿論ないし、僕はそういう意味で言うとフォーカスに対する執着が、小高さんおっしゃる一次産業の話より節操がない。小規模中規模の企業さんとの付き合いみたいなところに、自分の成長はもちろんあるのだけど、それ以上に、プロジェクトとかお客さんとの出会いによって自分の仕事が変わるのかな、と思ってますね。
【小高】たしかにそうですね。
【加藤】僕のリソースなんて僕しかいないので、お客さんのリソースとかを使わせてもらって面白いことやれればいいなというのがあって。
【小高】私も絶対に一次産業にこだわってるわけじゃないんですよ。伝統工芸とかもすごい好きなんです。前に取材したのが指物師さん。釘とか使わないでものを組み立てて作る。そういう人たちって木が必要なんですよ。木が必要だと森が必要でそれを整える人がいる。だからそういう工芸品作るにも絶対に一次産業が必要。だから一次産業大切だなってくらいで、そこだけをやりたいって言うのは全くないです。そういう意味では結構広い。
【加藤】連環しているどこの部分にも入れるというのは、外部から関わるメリットかも知れないですね。
【小高】確かにそうですね。
【加藤】多分1年やったらお客さん増えて、2年やったらお客さん増えて、3年やったらもっとお客さん増えて、僕今年10年目なんですけど。
【小高】そうですよね、おめでとうございます!
【加藤】ありがとうございます!なんか結局、そこで得た資産っていくら稼ぎましたみたいな話ではなくて、転職するためにどういうキャリア踏めたかという話でもなくて、付き合った人の数が次の仕事にそのまま資産として持ち越せるなあという気がしていて、フリーランス楽しいので是非続けていっていただいて、よしんば一緒に仕事ができれば良いなと思ってます。今日はありがとうございました。
【小高】ありがとうございます。

小高朋子
こたか・ともこ 旅食ライター・カメラマン
1982年、神奈川県生まれ。アパレル業界、映像製作会社を経て、フリーランスに。持続可能なモノづくりの可能性を求めて各地を巡り、地域の食文化、工芸品、産業などを取材し、写真、映像も用いてその魅力を紹介している。現在、農業者向けのビジネススクール(オンラインアグリビジネススクール)にかかわり、各地の農業現場の取材を担当。旅と、おいしいものと日本酒が何よりも好き。