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水族館の音楽のデザイン、そんな少し変わった仕事をしている人を、以前中華街で紹介してもらいました。僕はそこでサウンドスケープ、という言葉を初めて教えてもらいました。音のランドスケープ?、なかなか難しそう。

僕は楽器がからきしダメで、とは言え家仕事で何となく日々、音楽を聴いていて。最近話題になっている「場作り」みたいなことと、音の世界ってどんな結びつきがあるんだろう、と思っていました。久し振りに話してみたら、しかし、幼いころは絵をやっていて、中高は花火にどっぷりだったと聞く。思っていた以上にユニークだった、アーティストというよりデザイナーだった。空間と音、井口君の今日に至るまでの考察を、ET Luv.Lab.の舞台に少し借景して来ましたよ、というのが今回のインタビューです。

サウンドデザインという仕事

【加藤】今日、なんの話から始めようかと思ったのだけれども、さっき早めに着いていて、交差点の角の喫茶店でコーヒー飲んでいたのだけれど、Konaコーヒーを出す店で、ハワイアンミュージックが流れていて。そこで考えていたのが、ハワイの雰囲気でお店をやる、ハワイアンミュージックを流す、ということと、井口君がやってるサンシャイン水族館の音楽をデザインするというような話は、「あるものから選ぶ」「雰囲気を合わせる」のではなく、「最初から作る」というところが違うのかなあという感じがして、最初はその辺りの話を聞かせてもらえればと思ったのだけれども。

【井口】BGMと言っても色々な種類があって、例えばカフェやテレビで耳にする音楽とか、一般的に多くの方がイメージするBGMですよね。それとは別に店内放送や駅の発車サイン音、それ以外にもファッションショーや水族館や美術館とかも、空間や環境に合わせてデザインされたBGMなわけです。僕らはBGMをサウンドデザインというより大きな概念としてとらえていて、アーティストや作曲家、サウンドデザイナー、選曲家など、それぞれの分野のプロフェッショナルが集まっているのが、僕の所属しているマスターマインドプロダクションという会社です。僕は作曲家として映像や空間、ブランドの音楽制作だけでなく、サウンドデザインのコンセプト開発や企画なども担当しています。加藤さんに以前聞いていただいたサンシャイン水族館のサウンドスケープを担当したのは2011年だから4年前で、今はすみだ水族館の新プロジェクションマッピング「ペンギン花火」の音楽を担当しています。

【加藤】そもそも今回、井口君に声をかけてみたのが、文房具店『銀座・伊東屋』のリニューアルに合わせて、空間音楽プロデュースに関わったと聞いて、その並びにうちのクライアントもおられてよく見ていたというのがあって。ああいうのって店舗のリニューアルが始まりますよ、という話があってから、どのタイミングで井口君たちが関わっていくものなの?

【井口】これまでのクライアントの例だと、お話をいただくのは大体半年〜数ヶ月前とかが多いんですけど、今回は話をいただいてから納品まで約2年くらいありました。今回の伊東屋サウンドスケープには、私たちマスターマインドプロダクションがプロデュースを行っていて、フロアBGMはJoi、小島大介(Port of Notes)、藤枝伸介(Sound Furniture)が担当、僕は主にコンセプト開発と全体のプロジェクトマネジメント、そしてサウンドロゴや開店サウンドなどの制作を担当しました。そもそも伊東屋さんはフロアごとに音を変えたい、フロアのテーマに沿った音楽の提案できる会社はないかと探していたそうです。

【加藤】クライアントに準備があったんだ。

【井口】「必要ないものを売りつけられている」ということではなかったんです。大体いつもお声がけいただく時には、既に建物躯体ができた後、フロアや天井にスピーカーや再生機など音響設備が既に設置されていて、その中身を提案してください、という仕事が多かったんです。ただ今回の伊東屋さんの場合、コンセプト開発から、音響設備の提案から導入までと、多くの業者さんと足並みを揃えながら、音に関わるほぼすべての業務に関わらせていただきました。

【加藤】普段、そんなに大きな団体競技をやっていなかったつもりが、すごいでかい団体競技に入った、という感じだ。

【井口】そうですね、ほんとチーム戦でしたね。曲作りというよりも、音楽をどう伝えるかとか、どう届けるかというプロセスですよね。

【加藤】割とお客さんも新しいことやりたいという感覚だったの?

【井口】いわゆる品揃えがたくさんある伊東屋から、新たに提案型のお店を作ります、ということでした。品数も減らして、とにかく居心地の良い空間を作りたいと。そこに行くことでしか作れない空間とか体験とか経験を大事にしたいと。買おうと思ったらペン一本でもオンラインで買える時代なので、とにかく伊東屋さんに行かなければ感じれない雰囲気とか空気感を作る、体験を彩るというのが、僕らの使命でした。そこに音楽としてお手伝いできるところは非常にあって、僕らの会社では色々な空間やブランドのお手伝いをしているんですけど、今どこの業界の方でも共通に言われることは、リアル店舗とそこでの時間の過ごし方について、すごい見直されてるんですよね。

【加藤】なるほど、モノ買って帰るというだけじゃなくて。

【井口】それを含めた経験価値をどう特別なものにするか、そのためにプロジェクションマッピングを打つとか、そのために陳列の什器をオリジナルのものにするとか、そのために店員の接客を他と違うやり方にするとか、グッズやコスチュームも変えるとか、色々な購買体験というか、お客さんの過ごす体験のストーリー作りを考えているんだなあと日々感じています。

【加藤】音楽の話でそういう話をしたことはなかったんだけど、ちょうどここ数年、WebやITの世界でもUXデザイン、ユーザ・エクスペリエンスデザインということが言われて来ていて、今の話も僕らの世界で言われてるUXデザインみたいな話なのかなと思った。

【井口】まさにそうですね。Webでもそうなのですね。過ごす時間という意味では同じことですもんね。

【加藤】例えばスマホのアプリでも、こういうデザインがかっこいいよね、ということだけじゃなくて、それを使ってるってユーザにとってどういうことか、というようなことを考えるようになって来ているから、言葉の使い方は違っても、同じような流れになって来てるのかな、という感じはするよね。

音楽との出会いは花火

【加藤】音楽は幼い頃からやっていた?

【井口】音楽全然なんですよ、僕。

【加藤】え、そうなの?

【井口】そうなんですよ。もともとは絵をやっていたんです。親父が絵描きだったので。物心ついたときから絵をずっとやっていたんですけど、小学生の時に絵をコンクールに出したりするじゃないですか。そこで自分の絵が選ばれないと怒られる、そういう感じだったんですよ。好きなキャラクターとか描きたいのに、左手描くとか、今日のテーマは壷とか。全然面白くなくて。

【加藤】そうか。跡取りを育てるというか。

【井口】そんな感じにしたかったんでしょうね。それが嫌になって、絵は中学で卒業。しばらくアート系から離れていたある時、花火写真家の金武 武さんの個展で偶然作品に出会って、その花火写真作品にすごい感銘を受けたんです。当時は全部アナログフィルムで撮っていて。

photo by Takeshi Kanetake
photo by Takeshi Kanetake

【加藤】うわ、液体のようだね。

【井口】その金武さんの個展で本人に声かけたら、花火が山下公園であるから来てみる?って言われまして。それで本物の花火をありえないくらいの間近で見たらさらに感動してしまい、それから花火の世界にのめり込んでいったのが中学3年くらい。それから夏場は金武さんの撮影助手をやりながら、花火の玉の種類や名前を自然に覚えていきました。それと金武さんのワークショップに参加する機会があったのですが、写真のスライド上映に合わせて、シンセサイザーと和太鼓とライブ演奏があって。耳の聞こえない人たちにも風船をもたせたり。

【加藤】あ、振動。

【井口】そう、振動。和太鼓でドーンと音を出して、それに合わせて写真をスライド上映するという。耳の聞こえない人も振動で音を感じてもらうという。そのワークショップでシンセサイザーという楽器に初めて触れさせてもらったり、映像と音楽のシンクロライブをリアルに感じました。そこから親に頼んで何とかシンセサイザーを手に入れて、いきなり作曲にのめり込んでいきました。

【加藤】へえ、じゃあ音楽への導入は花火だったんだ。

【井口】そうですね。花火を見て感動した記憶を、シンセサイザーでプチプチ作って、それをカセットテープにダビングして、友達に配ったり。同じように花火の写真を見せながら聴いてもらうんだけど、全く同級生とか理解してくれませんでした笑

【加藤】ははは。でも、自分の手で何かを再現したかった感じだよね。

【井口】多分、習うとか、コンクールじゃなくて、自分で見つけてきた、自分のセンスを頼りにした発見というか。当時は中学くらいの多感な時期だったので、まずは自分一人の力で音楽が作れて、形にできるというだけでもすごく大きくて。そういう活動が僕の大事な原点です。

【井口】大学生になると映像制作サークルに入って、自分で撮影した映像に音をつけることを始めたんです。当時、花火師のドキュメンタリー取材した作品を作ったんですが、そこで花火業者と関係ができて、念願の花火打ち上げ資格を取って、実際の打ち上げ現場にも携わるようになりました。大学を卒業する頃には、花火と音楽のライブを企画して、自分で考えた花火プログラムに合わせてシンセサイザーを弾きながら、大学のキャンパスでドカドカと打ち上げてましたね。

【加藤】ああそうか、あれって電気でやるもんね。

【井口】そうですね、今はパソコンでコントロールしますからね。それで、学生時代の最後に火がついちゃったんです。当時、就職最氷河期というのも相まってか、僕は自分にしかできない表現=音楽を使って、仕事をしたいという気持ちはより一層強くなりました。行きたい音楽系の大学院もなかったので、まずは大学院にいくつもりで2年間は実力で思い切ってやってみようと。2年間本気でやれば答えは絶対出るはずだと思って。でも、その2年間が本当に辛かった。。周囲はどんどん大手の企業で次のステップにどんどん進んでいく反面、僕は仕事ないし、焦るし。

【加藤】フリー、という状態だよね。

【井口】当時はライブ活動と並行して、六本木アカデミーヒルズとかでビジネスセミナーのアルバイトをしてました。経営者に対するコンセプトワークとか、戦略的ブランディングとか、そういう講義を当時はなんとなく聴いてましたが、全然理解できませんでしたね。でも気付くと、今となっては実に大きな財産というか。その経験が今本当に役に立っています。本当に分からないものですね。そうした時間を過ごす中で、とある渋谷のライブハウスで今のプロデューサー 兼  所属事務所(マスターマインドプロダクション)の社長に出会うチャンスがあり、山あり谷ありの日々でしたが、気付けば約10年、自然な流れでこの仕事につながっています。

聴こえてくる音楽

【加藤】サウンドスケープみたいな話の時に、さっき花火の話が出て来たけど、祭りのお囃子とか 一番わかり易いでしょう。ああいう場の音楽がある時に、一方で伊東屋さんの仕事とかは、外の通 りとは一旦隔てられて、それはある意味、違う世界なのか、その延長なのかとか、朝起きてドア開 けたら鳥の音が聴こえるみたいなことと、ゼロから音楽を作るということと、どういう風に距離を 置いてるのかなあと思って。

【井口】もう都市はノイズだらけですよ。そういうのを1つ1つ聴いちゃうと、とてつもない情報 量で、頭がボワっとしてしまって。セールの時もわざと大きな音出して、感覚麻痺させちゃうんで すよね。低音のドゥドゥってのを流しておいて、気持ちをエレベートさせる、「エレベートミュー ジック」ってアメリカでは言われてるそうです。BGMをバックグラウンドじゃなくて、フォアグラ ウンド、前面でBGMを大量投下してすごく甘いドーナッツみたいに中毒化させる。感覚からふっ飛 ばしちゃう。それとは違い、僕らの音楽は静けさの中にフッと聴こえてくる音楽、無 意識の中に入ってくる。なんかいいね、の「なんか」に入る。今かかってるこの曲なんだっけ、店 員さんに聞いてみよう、ってことにはなりにくい音ですけど、なんか居心地が良いよねとか、新し いよねとか、雰囲気変わったねとか言われる、その見えない1ファクターに音は確実にあると思って います。

【井口】本来のサウンドスケープのコンセプトはマリー・シェーファーが提唱しているように、ナ チュラルな自然をもう一回聴き直そうよ的なことで。地図だけを渡されて、これが楽譜です、第一 楽章、湖のチャポンという音を聴く、みたいな。当時は前衛的なもので高尚なイメージがありまし たが、でもよく考えると日本にも京都の川床とか水琴窟とかかあったりするし、そうした感性は日常にあるものなんですよね。

【加藤】うんうん、先週たまたま行ってたよ。

【井口】僕も行って来て。ああいう風情とか感性って、昔からあるものはちゃんとあって、それが 今もきちんと続いていて。

【加藤】あそこに攻撃性は全くないもんね。

【井口】多くの人はあれをノイズとは感じないんですよね。そういうサウンドスケープ魂が日本に は確実にあると思うし、本来日本人にはちゃんと音を聴く土壌というか、感性があると思っていま す。四季の移り変わりも暦の中に入っていますし。だから昨今の外来エレベートミュージックには、 個人的に違和感を感じていますね。

時とともに流れる音、その景観

【加藤】四季の移り変わりというのもそうだと思うのだけど、時間軸って発生し得るじゃん。お店だったら1年目とか2年目とか10年目とか。サウンドスケープって多分元々はランドスケープが語源だと思うのだけど、昔聞いたのが「景観十年、風景百年、風土千年」という言葉で、音楽のCDが出ました、それの流行り廃りがあります、という話とは別なものが、音楽にもありそうだよね。

【井口】実際、BGMとかの起源ってなんだろうって調べてみると、やっぱり祭りの時のお囃子だったり、宗教的な意味をもつものだったり、Music for ○○なんですよ。Music for 収穫祭、とか、常に何かのための音楽というのがあって。そういう意味ではアンビエント音楽の第一人者ブライアン・イーノが作った『Music for Airports』なんて、ほどよい間で鳴る20分くらいのピアノリフの繰り返しなんですけど、一年中流していても、どんな場でも、空間に合う。そもそもMusic for ○○って考え方自体、とても普遍的な思考なんだなと。そんな何かに寄り添う音楽をやりたいなと思っていて。

【加藤】これから寄り添いたい対象とかある?ああ、さっき病院って言ってたか。

【井口】病院もそうですね。トイレとかやりたいですね。トイレ空間ってまだまだやれるなって思うし、日本って多分、レストルームの最先端を行ってると思うんです。

【加藤】あそこまでやらないよね。

【井口】トイレとか、風呂とか、人が休むスペースとか、過ごす場所。将来的に公園のデザインに音楽家として関わりたいですね。ほんとにパブリックなところ。公園とか防災チャイムとかゴミ収集車とか。街の風土とかに合わせて作っても良いし、季節によって変わっても良いし、今週はクリスマス・バージョンだねとか、遊び心もあってよいと思うし、まだまだデザインの余地ってたくさんあると思うんですよね。そういうところをすごく興味を感じます。

【加藤】そういう意味で言うと、公共性というかさ、公共みたいなことが強いんだね。

【井口】そこはビジネスとしても面白いところだと思っていて、エンターテインメントの中での音楽ってどんどん厳しい状況で、CDの売上も年々激減している状況で、もっと必要とされているフィールドの音楽の可能性に目が向くようになって。アーティストとしてCDをなんとかというのもあるんですけど、そこじゃないところで、もっと展開できないかと思っています。まだまだ音楽が活躍するシーンってたくさんあるし、結果的に世界中の人が1日1回必ず耳にする音とか作れたら、音楽家としてはすごい面白いと思っています。

【加藤】今日なんか音楽の話だから、僕の分野とは違う話かと思っていたのだけれど、なんか意外と共通点も聞けて面白かったです。ありがとうございました。

【井口】こちらこそ、ありがとうございました。

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