モリジュンヤ
2016.08.23
「広義の編集、狭義の編集」
モリジュンヤ - 編集デザインファーム「inquire」代表
その存在は意識していた、って書くとなんか大袈裟だけれど、フリーランスとして仕事しつつ、気になっていた人の一人がモリジュンヤ君でした。とても筋の良い仕事をする人だなと思って眺めていた。
そんなジュンヤ君と昨年末少ししっかり飲む機会あり、編集のこと、コミュニティのこと、会社のこと、話ていたら、何となくこの延長戦はET Luv.Lab.でやりたいな、って思ってたんですよね。時代の今を駆け抜ける、ジュンヤ君との「編集」を見つめる対話です。
メディアとサイズ感
【加藤】ジュンヤ君と何の話をしようかと思った時に、ずっと編集の仕事に携わっているから、編集の話もしたいのだけれど、最近見ていて気になっているのは、ページビューというものをどういう風にWebメディアに携わる人が考えているか、ということなのだけれど。ページビューって人が来れば数字は増えるのだけど、実際はそのコンテキストを読んで、読んだ内容が良かったから増えていく数字、というわけでもないわけじゃん。でもずっとこれまでページビューが指標として使われて来たという時に、今、ジュンヤ君はWebのメディアに関わりながらページビューというのをどういう風に思っているのかというのを最初に聞いてみたいと思って。
【モリ】僕が編集で携わるメディアって、結構ニッチなテーマが多くコミュニティ重視なものが多かったりするので、ページビューも一応見るんですけど、そんなに重視はしてないです。どちらかと言うと、ユニークユーザ数だったりとか、後は滞在時間とか、1訪問あたりの閲覧ページ数とか、数字を見るならそっちにしています。ページビューは全くないというのは媒体が見られてないので、それは良くない。ある程度見られていたら、「質」をどう数字で見ていくかを心がけています。ページビューを追い始めると、出すべき記事とずれちゃうんですよね。
【加藤】安易な方に。
【モリ】ページビューの数字が高いのはわかりやすいですから。そうならないように、チェックはしますけど、ページビューをがっつり重視していくということはないですね。
【加藤】なるほどなるほど。今、挙げてくれたユニークユーザとか閲覧時間って、人の行動にフォーカスした数字なのかなという気がしていて、最初に言ったページビューというのは人の目についたかどうかという数字でしょう。そういう意味で言うと、ネットのことなんだけど、もうちょっと人の行動を見ようとしているということなのかなあ、という風に聞こえたのだけれど、人が実際のイベントに集まっているわけじゃないけれど、メディアでどういう風に人が動いているのか、みたいなことを気にして見てる感じではあるのかな。
【モリ】そうですね。どんな人が実際の読者になってくれているのかはチェックしています。イベントに来てくれた人がどれだけ見てくれてるかとか、よそのイベントで話してどれくらいメディアの名前を認知してもらえてるかとか、肌感覚というか定性的な話にはなっちゃうんですけど。それを大事にしつつ、ページビューは参考程度に見ています。ページビューだけ見てても求めてるものがちゃんとわかるかどうかって難しいです。最近だと、SmartNewsなど記事を拾ってくれるサービスが出て来ていて、数字は増えるんですよね。ページビューが2倍3倍とかになるんですけど、それを読んだ人たちがうちの媒体だと認知して来てくれているかというと、多分、ほとんどの場合そうじゃないだろうなと思っていて。SmartNewsという認知はされているけれど、そこに本当に出している媒体の認知が為されているのかというと、特に初見だったりとか、たまたまクロールして拾われたところとかだと認知されないんじゃないかなと。
【加藤】逆に言うと、コンテキストというかコンテンツ作ってる側としては、メディアが媒体認知されることはすごい大事だって考えてるんだ。
【モリ】そうですね。現状、そこはすごい大事なんじゃないかと思っています。コンテンツが読まれることも大事なんですけど、見に来てくれた人がどれくらい固定の読者になってくれるか。「そういうテーマを扱ってる媒体だったらここがあるよ」となってくれるかはすごい大事なんだと思います。数字のボリュームをそれほど多く叩きださなくても、なんとかなる方法があるとしたら、ブランド価値がちゃんとある媒体でないといけないと思います。
【加藤】そうすると、さっきテーマでコミュニティを扱ってるという話をしていたけれども、媒体自体もコミュニティみたいな感覚?
【モリ】そうですね。多分、コミュニティができそうなくらいのテーマのサイズ感でメディアを作るのが良いんじゃないか、という風に思います。
【加藤】なるほどなるほど。
【モリ】あまり大きくし過ぎるとコミュニティって感じじゃなくなるので。
【加藤】バラつき過ぎちゃったり、広がり過ぎちゃったり。
【モリ】そうですね。
【加藤】身の丈じゃないけど、サイズ感の話。
【モリ】雑誌の部数とかを参考にもするんですけど、10万部だったらかなり発行している媒体と言えると思うんです。それはどれだけはけても10万人の手元にしか届かないわけです。10万人ってWebのメディアだとユニークユーザなのかも知れないですけど、Webの媒体の数字とすると小さいというかあまり評価されない数字だと思います。でも、ちゃんとその媒体を認知して来てくれてる人が10万人だったら、本来的には雑誌と同じような価値があるはず。メディアとコミュニティの話は『新世紀メディア論』という小林弘人さんが書いている本があって、ジャンプだったらジャンプを読んでいる人たちのコミュニティがある、ということが価値になっているという話をされてます。メディアをきっかけにそこのコミュニティができるとか、コミュニティがあるところにメディアを作るとか、多分両方あるんだろうと思うのですけど。釣り雑誌とか、すごくニッチなテーマに対しても、やっぱり何らかの雑誌ってありますよね。メディアが先にあるか、コミュニティが先にあるかなんですけど、でもある程度連動するものだと思っていて。ただそれができるためにはある程度部数というか、ボリュームは限られてくるかなと思っています。
【加藤】なんか下世話な話をすると、コミュニティがあって、結び付きが強くて、人が集まっている、となると、情報以外のものも渡していきたくなる気がするんだけれども、なんかそういうことって、恣意的に仕掛けようとしている?イベントやるということも1つだと思うけれど。
【モリ】そうですね。僕はメディアやりたくてメディアをやっているのではなく、何らかの目的があってそのためにメディアがあった方がいいという発想でメディアを作っていることが多いです。メディアを作ったことでコミュニティとかユーザ、読者が集まって来てくれた時に、メディア以外のアプローチもやった方が良いよね、と考えるのは僕にとって自然なことです。僕の仕事はデジタルのメディアが多いのですけけど、デジタルのメディアで情報の提供だけでマネタイズが結構難しい。情報提供以外も意識的にやっていかないといけないなと思っていて、コミュニティに対して情報の提供以外のことも前向きに戦略的に考えていかないといけないと思います。
【加藤】なんかその話で行くと、前に一回横浜で会った時に話したことに近いかも知れないのだけれど、ある意味、人と人との繋がり方という文脈において、情報を読んでもらうって一番ハードルが低いというか、他のものを差し込んでいこうと思うと、イベントに来てもらにもモノを買ってもらうにも、時間やお金というのが割かれるから、情報を読んでもらうより少しハードルが高くなるんだろうと思うんだよね。その辺がすごい文章を書くということから先のこととして可能性を感じていうることで、やっぱりそういうことをやっていく上でも土台にコミュニティがあるってことがすごい大事だと思うんだよね。
不連続性とコミュニティ
【加藤】さっき言ってたテーマということだと、具体的に自分がこういうテーマを扱っているといういくつかって決めてある?
【モリ】そうですね。今、関わっている媒体で説明すると、THE BRIDGEはテクノロジーやスタートアップがテーマだし、マチノコトはまち作りとかコミュニティデザインのこと、soarが社会的マイノリティ、大体この辺で網羅をしています。後はソーシャル・インパクト的な話とか、イノベーションの話とか大事だと思っています。あとは、ちょうどWIREDで「良い会社特集」があったと思うのですけど、あのテーマを特集にするんじゃなくて、定常的に扱えるようなことがしたくて。主体がNPOでも企業でも良いのですけど、何かしらそこのビジネスや活動が社会にとって良いよねという方向だってことが大事だと思ってて。
【加藤】そういう話で言うと、まだちゃんと読めてないんだけど、Monocleが出しているムックで「Good Business」って言葉が使われていて、Good BusinessとかGood Companyって言い方って、意外としっくりくるなあと。ビジネスだからビジネスだから、ってなっちゃうんだけど、Goodって言われると悪いことできないというか。そういう感じ面白いなと思っていて、まだ日本であまり言われてないというか。
【モリ】そうですね。Monocleの「Good Business」的な感覚はすごい良いなと思っていて、いわゆる今までのNPOとかソーシャルビジネス的な話も内包するし、企業の中でもCSRとかCSVみたいな話も入るし、後はサードウェーブとか地域にこだわったスモールビジネスみたいな話も入って来るので、その辺をあまりそれぞれに分けずに、それを引っくるめた領域をやっていきたい、それをやるために必要な方法って何なのかな、って考えたりしますね。
【加藤】ともすればそれって、ジャンル違えど同じことだよねと言いつつ、それぞれがすごいサイズ感が違うじゃない。メディアとか見ててすごい便利だなと思うのは、人にフォーカスを与えるとすごいやりやすいのかなという気がしていて、このインタビューとかもそうだけれども、すごい先進的なオフィス整えてる会社のこういう人、おしゃれなコーヒー屋さんのこういう人、というのが意外と並べても共通項が見つかればおかしくないのかな、って思えてその辺が面白いのかなと思うね。結局、人がやっていることだから、という。
【モリ】メディアを見ていると、テーマ自体は領域横断しやすくなっていて、テーマがビジネスだけと言っていても、お金にならなくてもビジネス的に大事なことはあるし、今までテクノロジー関係ないと思っていたことでも、そうでなかったり。今までのようにわかりやすく切り離せなくなって来たと思います。
【加藤】じゃあどっちにも出せちゃう記事になってる、ということも起こり得る。
【モリ】そうですね。切り口が異なるだけで、どっちでも行けるよね、ということはあります。今までとは違う専門性の立て方というか、そういうのが必要になりそうだなという気がしていて、IT、ビジネス、カルチャー、という媒体の考え方じゃないなと。Fast Companyとかはテクノロジーもやるけど、ビジネスもやるし、カルチャーもやる。同媒体は、カテゴリーとするならクリエイティブ・ビジネス誌みたいになっていて、その方が時代には合っているかなと。テーマを横断してやるというのは脳の使い方が違うから難しいかも知れないですけど、人自体は領域横断で動き始めているので、そういう意味で人からフォーカスをあてていく方がやりやすいというのはあるかなと思います。
【加藤】今話聞いてて思ったんだけど、世の中にはWebが出て来る前から専門誌というのはあったと思うのだけれど、ほとんどは業界誌で、業界誌って何かというと○○業界の話題を扱う専門誌ですよ、ということだったけど、もう業界誌の時代ではないのかなというのを感じて、業界っていうもので商売をするとか、業界というものに人が集まるとかいうことに、凝り固まってしまうことにブレイクスルーの作りづらさがあるのかなというのをすごい思ったね。
【モリ】その辺はデザイン・シンキングみたいに多様性を集めて練ることが大事みたいな話とも似ている気がしています。例えばIoTで新しいもの何か作りましょうとなった時に、ハードウェアの専門家だけ集めてきても新しい物は生まれ得ないわけですよね。そういうのと似てるかなあと思います。
【加藤】そうだね。発酵食品をIoT使って作るみたいなことをやろうとしてた先輩がいて、その時もまさしくそうだと思ったんだけど、メーカーに勤めていてITも詳しいのだけど、一方で、味噌の作り方すごい研究してたりして、そういう世界観ってすごい大事だし、人間の生活ってずっと分断されたものの一つ一つってことじゃないからね。浮世離れしてる話って、やっぱり扱いづらいというか、ITのデバイスもかっこいいと思っても、自分の生活に取り入れられるようなものかどうかというのがあるし、それが多分情報にも言える気がしていて、親近感持てないと辛いよね。
【モリ】そうですね。働き方と暮らし方の話も、明確にここから先は仕事、ここから先はプライベート、みたいに明確には分けられない。色々なものがグラデーションになっていると思います。以前、hanasaka時計の取材をしていた時に、季節の捉え方とか、色々なものが本来は連続しているもののはずなのに、不連続で表現されていることが多くて気持ち悪い、という話があって、このシーズンにこういう旬の食べ物があれば次はこういうものが食べられるようになる、季節の変わり目って急に春から夏に変わるのではなく、ちょっとずつ風景も変わっていくし植物も変わっていくし、本来、連続しているものを全部断絶させていくことには気持ち悪さ。それは季節とか時間の話で出ていたのですけど、でも他の色々なことにも言える話だよねって思います。人の1日の過ごし方でもそうだと思うし、何かをやろうとする時のテーマの捉え方も、本来それだけで可能になることってほとんどないはずなんですよ。いくつもの重なりのグラデーションのはずで。
【加藤】それ新しいテーマかも知れない。SNSの時代になってさ、皆カメラで写真撮るようになって、すごい切り取ることによって美化されてるものってあるじゃん。Instagramとか。多分、さっき言ってたのは、良いところだけ撮って切り出したやつがポンポンポンってあると、日々の生活とは違うよね、という話だよね。でもなんか昔よりもビデオみたいな時間軸のあるコンテンツが増えて来たりとか、少しずつそういうところも変わっていくのかも知れないね。後は連続性ということで行くと、もう一つメディアとか編集とかいうことに関わってくるなと思うのは、育てるみたいなことかな、とも思うのだけど、育てるということに関しては、特にコミュニティを育てる、ということについて、どう考えているかなと。
【モリ】そうですね、そこはまだ発展途上な感じではあるんですけど、コミュニティを育てるためには、やはり最初の主体となる人というか、世界観を作れる人が必要だよなと思っていて、その中でその人をサポートするコミュニティを回せるコアの人が数人いて、そこに集まってくる人たちがいて、ある程度集まって来たら、その人達がコミュニティとして継続的に機能してオーガナイズされていくためのコンテンツというか何らかのアクションが必要だと思っています。
【加藤】アクション、アクティビティみたいなことか。
【モリ】そうですね。イベントだったり、メディアは一つわかりやすいと思うのですけど、持っている世界観を拡張して直接話してない人でもある程度わかってもらうことができるので、その辺の役割は必要ですね。メディアを通じて関心をもってくれた人たちにもっと中にググッと入って来てもらうためにイベントをやったり。あと中心と周辺の行き来が大事で、そこに集まって来た人達同士でのインタラクションを考えていて、ずっと中心にいる人がオーガナイズし続けないと成立しないというのはサステイナブルじゃないので、そこをどうやったら自律するコミュニティになるか考えています。まさにsoarとかマチノコトとかそうかも知れないですけど。
【加藤】集落がいくつかあって、それぞれが自律的に動いているみたいな。
【モリ】コミュニティとしてコミュニティ自体を育てるという視点になってくると、新しく入って来た人が既にいた人たちの熱量とか情報量とかをどうやってキャッチアップして、同じように関われるようになるためには、仕組みから準備がいるのだろうなと思います。
【加藤】これ僕のやり方なんだけど、人が育つということを考える時に、フリーランスの働き方の話に寄っちゃうんだけど、人前に立って何かを教えるよりも、一緒に何かをやっちゃった方が早いと思っていて、人が育つプロジェクトとか、人が育つ仕事のやり方ってどういうことなんだろうと思っているのだけど、それってたくさんの人数見れないんだよね。人と一緒に仕事する時は2人とか3人くらいのチームでやるから、お互いが人が育つ関係性を持つというか、人は人で僕を育ててくれるし、僕は僕で人を育てられる関係性ってのができると思うのだけど、それを10人に対してやるとか、20人に対してやるとかということになると、スクールとかレクチャーとかコミュニティとかワークショップとかになっていかなきゃいけないのかなあというのはぼんやり考えている。
【モリ】師弟関係と学校の違いなんだろうなと思っていて、やっぱり10人20人とかの人数に教えるとなると、全てというよりかは、言語化できるしプログラム化できる、パッケージ化できるものをまとめて伝える、というやり方になるんだろうなと思います。師弟関係というのは一緒に何かやる中で自分が伝えていくってなると、言語化していないものもある程度伝えていけるんですよね。ただ、そうなると教えられる人数が限られて来ますよね。
【加藤】スケールしないってやつだよね。
【モリ】スケールでいうと、師弟関係くらいと、ゼミっぽい感じと、学校っぽい、講義っぽい感じ、くらいのレイヤーがありますよね。
【加藤】ギリシアとかローマの時代からの人類の課題だよね。どういう形で学んでいくかって話って。それこそ寺子屋みたいなものもあるし、色々なやり方があるんだろうけど。
【モリ】コミュニティに入って来て、ある程度のことをインストールされた人たちが、次の人たちを育てられる状況を作っていけると良いのだろうな、と思っています。
編集を拡張する
【加藤】なんかさ、ジュンヤ君って仕事始める時に、そもそも師匠みたいな人いたの?
【モリ】直接の師匠みたいなのはあまりいなかったかも知れないですね。
【加藤】最初からどフリーだっけ?
【モリ】フリーというよりはフリーターみたいな感じで、greenz.jpの編集部に入って。
【加藤】その時は面接を受けて普通に?
【モリ】その時はgreenz.jpとシェアオフィスをやっていたNPOの事務局みたいなことをやっていて、ソーシャルメディアの使い方とか。そうしたらうち仕事やらない?、って鈴木菜央さんに声かけてもらって、お手伝いしていたらライターもやってみない?と言ってもらってライターもやることになって、ライターやってたら編集もやらない?ということになり、少しずつですね。
【加藤】ライターやってた時というのは取材モノ?
【モリ】はい。でも、取材は特にやり方を教わったというわけでもなく。
【加藤】そうなんだ。そういう人、俺の周りに多いわ、俺も含めて。grennz.jpは何年くらいいたんだっけ。
【モリ】多分、1年くらいですね。震災が起きて、greenz.jp自体もNPO化して、スクールなどを始めて、僕はもうちょっとメディアのこととかをやりたかったので、一旦そこでgreenz.jpを離れました。やはり、greenz.jp以外のところでどういう感じで働けるのかというのに興味がありましたし。それでフリーになったのが2011年です。
【加藤】そうか。フリーになって会社作るまで5年くらいってこと?
【モリ】4年ですね。
【加藤】前に言ってたよね。フリーランスでやっていくことの限界みたいなものもあるから、会社を作ったという話をしていたけれども、それは具体的にはどの辺だったのかな。
【モリ】多分、色々あるんですけど、一つは職業柄、何かしらスキルがあって、そのスキルで仕事を請けて、アウトプットを作るというやり方だと、稼働しない限りには売上が出ないんで、そうなって来ると、なかなか休みが取りづらい。自分がそんなに動かなくてもちゃんと仕事が回る仕組みを作らないと大変だな、というのがありました。今の年齢は良いのですが、20年後とかに続けられるのかな、というのがあって。を見越してちゃんとしていかないとな、ということで会社作りました。後は、年々、やることを増やして来ていて、個人がいろんなことをやっているように見えるんですよね。そうではなくて、色々仕掛けている本体がちゃんとチーム化されている状態を作りたいな、というのがありました。そうしないと各プロジェクトへのコミットも増やせないし、それぞれのプロジェクトを伸ばすこともできないので。
【加藤】やっぱり法人っていう仕組みは小さくてもレバレッジ利かせるためには有用だよね。それで巻き込めるものとか、形のないものを形にできることとか。その辺はすごい面白いのと、逆に言うとすごい変わるわけでもないしね、法人で。
【モリ】そうですね。個人事業と法人とちゃんと分けたことで、会計周りとかもっとちゃんとやんなきゃということはありますけど。
【加藤】ジュンヤ君ともう一つ話したかったことがあって、前にそれこそhanasaka時計に関わってた児玉君と話していたのだけど、デザインの世界だとUXデザインって言葉がいっぱい出て来て、そこで児玉君が話していたのが、UXとUIの関係性を、広義のデザインと狭義のデザインがあるみたいなことを言ってて、デザインって言葉と同じくらい編集って便利ワードだと思うんだよね。そういう時に、広義の編集というのと、狭義の編集というのがある気がしていて、多分、編集工学って松岡正剛さんがしてた話とかも広義の編集なんだろうと思うんだけど、文章を書くとか、紙面を編集するとかって作業と、一方でもうちょっと引いた、コミュニティを編集するとかあって、対象物との距離感で広さが変わってくるというか、そういうことについてはどう思ってるかなと思って。ジュンヤ君って、広義もやるけど、狭義もやるじゃん。広義だけやってる人も、狭義だけやってる人もいるから、両方やってる人からするとどういう風に見えてるかなと思って。
【モリ】そうですね、でも、その流れは「デザイン」という言葉が辿った道と同じ道を辿っていくんじゃないかと思っていて。それこそTim Brownが『Change by Design』でデザイン・シンキングの話を始めて、デザインをもっと広義の話にしようぜ、というのが2000年代の後半くらい。そのタイミングから、やっぱりグラフィックとかビジュアルだけだと仕事の幅が広がらない、という雰囲気になって来たと思います。デザインが辿った道と、今、編集って言葉が辿ろうとしている道って似てるんだろうなと思う。紙面作れるだけだとか、Webのメディアの運営ができるだとか、というよりかはもう少し色々なことができないといけないんだろうなと思います。それは最初うっすら感じてはいたんだろうと思うんですけど、『シビック・エコノミー』の編者の紫牟田伸子さんは自分のことをプロジェクト・エディターと言っていて、編集でプロジェクト自体を変えるよう活動されています。、デザインでもそういうことはあると思っていて、古田秘馬さんもプロジェクト・デザイナーと自分を名乗っていたりするので、そういう表現があるんだなということがわかって来ました。その上で、僕の中では、多分狭義の編集みたいなところが大事になって来ていて。広義の世界に行くと、あまり業界が変わらないんですよね、編集もデザインも。広義のところに行くと、抽象度が上がって来て、編集、デザイン、コンサル、広告系、いろいろな人たちとの何かしらの競争みたいなものがある時に、差別化のために最終的なアウトプットとして持っているのが狭義の編集になると思っています。
【加藤】形に落とすところだ。
【モリ】入口の話なのか出口の話なのか、両方あるなとも思うんですけど。起点がどこに由来しているのかというのは、広義の編集の仕事をしていく上でも大事になってくるんだろうなと。
【加藤】なんかそこの感覚は似てるかも知れないな。僕も現場離れたくないみたいな気持ちはすごいありつつ、もうちょっと上流のこともやるようになって来ているので。ただ、そこで忘れちゃいけないなと思うのは、形に落とすってところで差別化していかないと、抽象性の高いものってあまり差別化要因にならなくて、そうすると何が辛いかって、ハードウェア的にすごいもの持ってるところに負けちゃうっていうかさ。例えばアクセンチュアのコンサルの人が出て来たら、システム開発部隊持ってるとか。そういうことと勝負するとなると辛い、と思うんだよね。だから違うところにレゾンデートルを持たないといけないのかな、という感じはすごいするかな。
【モリ】そうですね。広義の編集では、ストーリーをどう作るかとか、コンテキストをどうプランニングするかとか、それに加えて、それをやることによってどういうコミュニティを作るかとか、どうやって周囲のステークホルダーとエンゲージメントするかとか、直接事業を生み出す、プロジェクトを編集するという話もあると思います。デザインの流れに照らし合わせるのなら、「経営を編集する」とかもあると思うんですよね。自分たちに近しい領域としては、コミュニケーションとかコンテキストとかストーリーを作るというのがある。よく考えているのはイントラネットでどう情報発信するかとか、企業がオウンドメディアやイベントを通じてユーザ以外の社員や株主など色々なステークホルダーとどうエンゲージメントするかという話。海外だとトランスフォーメーションとかチェンジ・マネージメントとか、会社がどうやって変わっていくか、どうやって変わり続けていくかという、組織マネージメント、組織改革、人材開発の手法が注目されていて、これと情報発信やストーリーテリングは密接に関係していると思うんです。これはスタートアップに取材していても、イノベーションの事例を取材してても一緒なんですけど、どうやって組織自体をイノベーションが生み出せる状態にするかとか、個人の意識をどうやって転換するかという話がよく出て来るんです。
【加藤】エンパワーメントみたいな話だ。
【モリ】組織変革に向けてやっていく上で重要になってくるのが、コミュニケーションとかイノベーション構築とかコミュニティ作りの話だなと思います。従来の編集というアウトプットの作り方から、横展開していける。メッセージの届け方が、組織の変革だったり個人をどう変容するかというようなことと結びつけていけると、またさっきの経営の編集とかプロジェクトの編集とかとは違う領域で、自分たちの広義の編集ができるんじゃないかなっていうのをぼんやりと考えているところです。
【加藤】今の話聞いてて思ったのが、自分の仕事の話になっちゃうんだけども、超客商売だと思っているわけ。で、クライアントのビジネスの面白さが、僕の仕事を面白くしてくれるみたいなところがあって、デザインとか編集とか、ある種、中庸なものをやっていると、どういう人とどういう課題をやれるか、みたいなのはもう一つ大事になってくるのかなと思っていて、そこもある種サイズ感というかさ、記事単体でこういう人に取材することを通じて付き合い方と、こういう会社とメディアを作るという付き合い方と、なんか両方やっているイメージがあって。
【モリ】そこは受け側として用意しているところもありますし、どうせだったらパートナーとして動けるところと仕事がしたいと思っています。Goodpatchが築いてきたイメージと近くて、自分たちが関わっていることによって、価値が増す。自分たちが関わることで価値が上がるようなブランディングをしていて、アウトプットが優れているからできることではあるんですけど。受け仕事になりやすい職能なので、自分たちの価値をどう高めるかがすごく大事だと思っています。
【加藤】それはすごい共感する。俺、サーモンのお客さん10年付き合ってるんだけど、こないだ苫小牧に工場見学行って来て。なんでこの人、Webデザインやってるのに、工場見学来てるんだろうなって現地の人も少なからず首かしげてたと思うのだけど、なんかそれくらいの関係になれると良いな、というのをこないだすごい思って。
【モリ】そういう長く一緒にやっていけるという。長く一緒にやっているから、出せる価値も上がっていくみたいな関係性が作れるか作れないかはすごい大事で。そういう仕事が取れるか取れないかで、大規模プレイヤーじゃないところが生き残っていけるかいけないか決まると思います。
【加藤】決まるよねえ。
【モリ】そこそこ予算があって、でも大手に発注するほどじゃないってところ、たくさんあるじゃないですか。そういうところの仕事を取っていきつつ、良い関係を築いていく、というのがすごい重要だと思います。
【加藤】なんかクラウドのプラットフォームで仕事を取るみたいな話も今あるじゃない。クラウド・ソーシング。ああいうの一番怖いなと思うのは関係性の仕事にならないんじゃないかという気がしていて、もしかしたら、そこから続いていく案件もあるかも知れないけど、さっき言ってた非連続の世界のような気がしてならないんだよね。人と人の仕事をすることの良いところって連続性のある世界に仕事を持っていけるからという気がしていて、極端なこと言うと、担当者の人と一緒に年をとりました、みたいに仕事ができればよいのかなという感じがしていて、多分、その辺が今フリーランスの文脈であまり語られていないんだけど皆大事なことだと思っている点じゃないかなと。続けていけば続けていくほどそう思うじゃん。
【モリ】ですね。大事なことだと思ってます。ある程度、専門性をもってメディアを運営しているので、専門性✕編集で価値が出しやすくなっています。専門テーマでコンテンツやメディアを作りたい、情報発信を継続的にやりたいという相談があると、それぞれで蓄積している経験やネットワークが蓄積されていって、レバレッジが効くようになります。僕個人は特集ごとにインプットしていくテーマが変わっていくのは勿体ないなと思っていて。幅広いテーマを扱うメディアで、特集にするくらいのテーマでメディアが作れると、っと掘り下げることができて、掘り下げていくと専門性が蓄積されていく。専門性があるから、ナレッジを使ってコンテンツ・プロデュースみたいなこともやるし、リサーチっぽい動きもそれだけやりやすくなります。
【加藤】もしかしたら、専門家が掘れるところよりも深いところまで掘れる編集、ってあるのかも知れないね。専門家の人が一人でやっているものとかを束ねることによって、学会とかあるけど、それも専門業界みたいな話だし、それを一つメディアに落としていくのはありというか。
【モリ】海外のメディアでは、稀に「エディトリアル・リサーチ」って言葉が出てきます。ちゃんとした定義はない言葉ですが、結構意識はしていて、定性的なインタビューとかフィールドワークとかをやりつつ、プロセスというかリサーチの過程をオープンにしてコンテンツ化して発信する、それがメディアになる。情報やインサイトが蓄積されていく。「ナラティブ・インクワイアリー」と呼ばれるナレッジマネジメントの手法が近いのかなと思ったりしていますが、研究者や専門家がやるよりかは、実践例が蓄積されやすいですよね。ただ、僕らは実践を集めるところができる分、体系化することが不得手なので、そこを整理していくことを意識的にやらないといけないですし、アカデミックなバックボーンの人たちは、体系化することに長けていて現場で何が起きてるか拾いに行くには手が足りてないというところがあるので、そこを寄せていけるとそれぞれの持っている情報の価値が高まるんじゃないかなと思います。その辺はIDEOとか世のデザインファームもやっていることだと思います。
【加藤】そういう意味で言うと、リサーチのオープンマインド化が進んでいるというか、オープン・リサーチというか、そういうことなのかも知れないね。最後に聞いておきたいなと思うのが、今、社員ていうかさ、チームを抱えているわけじゃない。会社をどうにかしていきたいというのもあるだろうし、個人がどうなりたいというのもあると思うのだけど、チームをどうしていきたいと思っているかというのを少し聞いてみたくて。
【モリ】色々試行錯誤の連続ではあるんですけど、今のところ前向きに取り組める人と何か一緒に作り上げていくという関わり方をするというのが、現状だと一番スムーズに物事が動くなと思っていて、単純に受け仕事を探して来て一緒にやりましょうという関係はあまりワークしないと思っていてます。お互いできることを持ち寄って良い感じにプロジェクトを作ろうというのが動きやすいし、そこからすぐに売上が出なくても、お互いやってて納得してできるというのがあって、その上で、作り上げたプロジェクトで売上を立てていって、それを折半していけるというような機能にしたいなと思っています。受け仕事が増えたら、それを効率よく回せる仕組みにしたいなというのもあります。関わる人がそこから収入のすべてを賄えなくても一定割合をそこから賄えるようになると良いなと思ってます。僕がもともと考えていた課題として、ナレッジの蓄積の話。個人の蓄積もしてるんですけど、個人だけ蓄積してると限りがあったりするので、それをチームで蓄積するにはどうやったら良いかどうやったらできるかということを結構考えていて、一緒にプロジェクトをやるとか、いくつかのテーマを一緒に回すプロセスで、ナレッジをチームに溜めていくというのは、もっとやっていけたらなと思っています。
【加藤】だからジュンヤ君とか、ジュンヤ君の仲間がいるところに、誰の所有物でもないんだけど、ふわっとアセットが溜まって宙に浮いているようなイメージだよね。誰か1人が所有しているものを皆で分け合う、そういうのを作って行きやすくなってるんだろうね、クラウドの世界とか。なんかね、今日話聞いてたら、編集とデザインって違うんだけど、うちとテンションは似てるのかもという感じがして、それはすごい面白かったです。またなんか機会があったら是非一緒にやりましょう。
【モリ】是非!

モリジュンヤ
編集デザインファーム「inquire」代表。THE BRIDGE、soar、マチノコト、IDENTITY、sentenceなど、様々なメディアブランドを運営。挑戦を応援したり、物語を編むのが仕事。